第10話 地上の魔法学校

 私の兄は冒険者だったが、迷宮攻略に失敗して死んだ。少し前に踏破されたダンジョンで、現在調査が行われている途中。死体はまだ見つかっていない。


 冒険者はダンジョンの奥深くで人知れず死んでいく。誰もがそうはなりたくないと思っていても。兄の死から学んだことだ。

 私には魔術の才能があって、魔術学院に入学できたので、兄のような最後を遂げるまでには少し猶予があった。


「フィオナ。君の才能は認めざるを得ない。君が特別だというのは皆が認めるだろう。ただし首席入学というのを鼻にかけることはやめておけよ」


「そんなことはしてません」


「君にとって足りないことは二つだ。ダンジョンを進むのに必要な体力や忍耐を身に着けること。他の教官に対してたまに食ってかかるような態度を改善することだ」


「・・・」


 一学期の終わりに、教官から頂いた言葉。

 

 なぜダンジョンに潜る必要があるのか・・・。

 それほどまでに人々を魅了するダンジョンコアとは、一体どんな物なのだろう。


「良かったじゃないか。フィオナ」


「良かった?」


「上々の評価だろ。俺なんて能力も根性も皆無だって」


 彼は友人のクロノ。

 この学院を卒業出来れば、なにか開けた未来が存在していると信じている人間の一人。なぜなら、魔術師は冒険者として生存率が高く、選手生命が長く、晩年になるまで仕事に困らないという謎の迷信がある。

  他人に自分の未来を保証されたところで、結局のところ生きるか死ぬかは自分が決める――。何故なら、兄の冒険者としての資質は誰もが認めていた。なのに死んだ。

 


 ・・・という考えをクロノに聞かせたところ、彼はただ楽天論を返すだけだった。


「そんなに考えすぎるなよ。お前は俺よりも教官からの評価はいいし、魔術の才能もあるじゃないか」


 彼は、私が将来を不安視しすぎていると思っているので、気を楽にしようしているのだ。

 私はこの学院で学ぶことはさほど無いように感じられる。周りからは変な夢を見ていると思われるだろうが。特にクロノからは、いずれ"ウォーロック"になるぞと脅されている。


「評価なんて、迷宮の中じゃ何の役にも立たないのに。もっと根本的に知るべき事があるような気がしない・・・?」


「何について?」


「悪魔について、迷宮について、私達はまだ何も知らないと同然なのよ」


 こんな箱庭で知ることよりも、作られた空想の悪魔の像よりも。他に何か―――――――。


 そうでなければ、あの優秀な兄が簡単に死ぬはずない。


「・・・だったら学院に潜む悪魔を探せよ。知ってる?この話」


(私にとっては)真剣な話から、どうでもいい冗談話に話が流れたと感じ、その時は聞く気になれなかった。


 学院に潜む悪魔。最初は冗談だと思っていた。

 しかし、後日、学院内に死体が見つかって、それが「悪魔」の仕業だと噂されるようになった。

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