第7話「ダメだこいつ、早く何とかしないと」

「な、なんだって!」


「ちょ、ちょっと、急に大きい声出さないでよ!」



6つの領からなるノルディス連邦国、その南西よりに位置するベルクカーラ領。そのハンターギルド・ベルクカーラ支部のマスターであるヴィル・マッカートは、部下であるロレッタの報告に頭を抱えた。



「お前、なんてことを……」


「そもそも、ギルマスの方がおかしいんですよ。あんな凶悪な風体に、数々の犯罪行為。あまつさえこの副ギルマスであるこの私を、子ども扱いまでしたんですよ!」


「副ギルド長見習いな」


「あんな格好でグヘグヘ笑ってるなんてギルドの風紀が乱れますし、領民からのギルドへの信頼も無くなってしまいます」



勢いづいてバンと机を叩くロレッタに、ヴィルは溜息交じりに返す。



「その風紀と信頼を保っていたのは、あの二人だ」


「……は?」



ちょっと何言ってんのこの人? みたいな顔を返すロレッタだが、ヴィルは立ち上がってベルを鳴らし、ギルドスタッフを呼びお茶を淹れるよう頼む。そして応接ソファにドカッと腰を下ろすと、正面に座るようロレッタに促した。



「見てください、私の作ったこの報告書を。ハンターたちへの聞き取りをまとめました」



差し出された紙束。表紙には “アニー、オットーの恐喝ならび迷惑行為に関する調査書” と書かれており、ヴィルはパラパラと目を通していく。



―――――――――――


証言1:新人ハンター

ギルドで請け負った依頼に対し、アニー、オットーが言い掛かりをつけ依頼証を横取り。恫喝した上で被害者らを拉致し、8時間後、負傷を見せる被害者らを連れ達成報告し、報酬のほとんどを横領。


証言7:シルバークラスハンター

アニー、オットーが、クラスを銀へと上がったばかりの男性ハンターを人質とし、パーティーメンバーを拉致。暴行を加え、翌朝まで拘束。


証言13:新人女性ハンター

女性ハンターに対し、アニー、オットーがいかがわしい視線を向け声かけ。露出した足を凝視した上で強引にギルド外に拉致。1時間後、別の装備へと着替えさせられた被害者がギルドに再度訪問。女性職員のカウンセリングを受ける。


証言13:新人ハンター数名

ハンター申請の受理直後、アニーとオットーが彼らを恫喝。強制的に依頼を押し付け、裏取引のある武具屋で高額な装備品を買わせ、女性ハンターにセクハラ発言。


―――――――――――



「……これ、本当に書いている通りの内容だったのか」


「はい!」



少女が腰に両拳を当て、控えめな胸をドヤっと張る。ヴィルが白髪交じりの赤みがかった茶髪をかき上げ、なんと言おうかと悩んでいたところ執務室のドアがノックされた。



「ギルマス、リアンさんをお連れしました。それと、あの……」


「お呼びとのことで」


「おお、来たか」



現れたのは、ギルドの受付を担当する女性リアン。


ギルド受付の制服を着て、茶色の髪を緩くアップにしつつ、その頭には三角の獣の耳ぴょんと生えている。小柄で可愛らしいが、どこか優しげで頼りたくなる雰囲気があり、ハンター達の間でもとても人気がある。リアンママと陰で言われているが、面と向かって言うと怒られる。



「というかなんでお前も来てるんだ、ルシオン。呼んでないぞ」



リアンの後ろにくっついてきたのは、セミロングのさらりとした黒髪のハーフエルフの女。


母譲りの美貌を備え “立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿は百合の花” といった美人ではあるのだが、“しゃべれば残念、動く姿は破壊魔クラッシャー” が付け加わる、このギルドにおけるトラブルメイカーの一人だ。



「リアンがギルマスにいじめられないか、監視するために決まってるじゃん」


「なんで俺がリアンをいじめるんだ」


「リアンが可愛いから」


「ダメだ、話が通じる気がしねぇ……」


「ちょっと、失礼じゃない!」


「お前にアニーかオットーの爪の垢煎じて飲ませてぇよ!」


「はぁ!? リアンのならまだしも、なんであの世紀末兄弟のなの!」


「そこかよ! ……ダメだこいつ、早く何とかしないと」



ヴィルが深くため息をつく。とりあえずとお茶を置きそそくさと去る職員を見送ると、二人を応接ソファに座らせ、自分はロレッタの隣に座る。



「それで、なんのご用事ですか?」



リアンが頭の耳をピンと立てながら怪訝そうな視線を向ける。



「説明よりも、見た方が早えか」



ヴィルはロレッタが持ってきた報告書をリアンに渡し、目を通すように促した。



「これはあの時の……なるほど、書き方ひとつでこうなるんですね。ある意味見事です」


「そこに書いてるのは事実よ」



そう言い切るロレッタだが、リアンはどうしたものかとヴィルに視線を投げかけると、気にせず言いたいことを言えと言われ口を開きかけたところで、隣から素っ頓狂な声が上がる。



「なにこれ! アニー、オットー……見た目以外はまともなヤツだと思ってたけど、最低じゃん! ちょっと私ぶん殴ってくる」



立ち上がり、拳を掌に打ち付ける。なんでそんな音が出るんだと言いたくなる快音だが、それはともかく……



「ルシオンさん、落ち着いてください。はい、お座り」



リアンがソファのクッションを叩くと、ルシオンが素直に座る。



「だってさぁ」


「いいですか、この内容はほぼ言い掛かりで事実と違います。それに彼らはここを離れているので、殴りには行けませんよ」


「あ、そういえば実家帰ってるんだった。もしかしてこの件で逃げた?」


「ええ、この私の追及に恐れをなし、尻尾を巻いて街から逃げました」



どや顔で控えめな胸を張るロレッタだが、リアンが首を横に振った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る