#9 いい変化

「やっぱり一緒に行動する方がいいわね」


移動教室の最中、1人で理科室へ向かっていると、黒江が隣に来た。


「大丈夫だって」と笑ってみるものの、ムッと顔をしかめたので、おそらく聞く耳を

持たないことが分かった。


「あのね! あんなまぐれは続かないんだから。滅魔は基本的に複数人で行動するよ

うになってんの!」


「分かったよ、先輩」


「全然わかってない! よりにもよってあんなレオなんかと一緒のバスにいたなん

て」


私の失態だと言わんばかりに頭を抱える。


「何かまずいのか?」


俺は直接話を聞く。すると「ラグナさんから聞いてないの?」とあきれたようにため

息を吐いた。


「いい? あいつは一言で言うなら狂人よ。魔物か人間かを確認する前になりふり構

わず殴って確かめる狂気っぷり。正界で1番の問題児なんだから。今回のは仕方ない

けど次からは接触しないことね」


「お前が1番じゃないんだな」と言ってみると、案の定、頭を叩かれた。グーで。





「私、今日は正界に用事があるから。寄り道しないで家に帰って」



「分かってるよ」


ラグナから教えてもらった話だと、人間の姿をした魔物たちは『擬態術』というもの

を『元凶』にかけてもらっているらしい。術者である『元凶』さえ倒してしまえば、

擬態している魔物は全滅する。


魔物の能力は人間に擬態している時は使用できない。そして術者との『契約』の上で

擬態しているのか、20の質問の虚偽を覗き、本来の姿に戻ることはない。


そして、人間の姿だと魔力を十分に練れないので、現世の人間とほとんど変わらな

い。それ故に俺は滅魔として最低限の戦力になれるという訳だ。


でもまあ、昨日の今日だから、人間の姿と力とはいえ、異界の異物たちには囲まれた

くない。


「お前も寄り道すんなよー」


「あんたが私の心配するなっ!」


顔を真っ赤にして怒りをあらわにしながら、例の渦(魔力をもらってから今は見え

る)がある黒板へと吸い込まれていく黒江。


不思議な感覚だった。その感覚に気付いた。


女と普通に会話していた。


現世ではなく、魔界という場所から来た存在とはいえ女は女なのに、俺はあいつに何

の気持ち悪さも感じることなく、男子と同じような感覚で接している。


バイト先でも女ばっかりで気分が悪いけど、あいつがいるから何となくそれが中和さ

れているというか。


「まあ、いい変化ってことで」


都合よく結論付けながら、空き教室を後にした。

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