#3 嘘

『20の質問』。


刻まれた刻印から半径5メートル以内にいる生物に質問をし、魔物の正体を『断言』

することで、その魔物を爆死させることができる魔法。


イエスかノーの2択で答えられる質問を最大20回行うことができる。


200年前、現世や正界の人間に擬態している魔物を暴くために使われ始めた、尋問

による討伐法。


ただし、都合のいい魔法だけに、それなりの条件や代償が伴う。


ラグナから教えられた情報についてをぼんやりと思い出す。


『答え間違えたら死ぬから』と笑顔で言われた。


『喜福は魔力をもらったとはいえ、普通の現世人に毛が生えた程度だから質問はしな

い方がいいよ』とも言われた。


「死ぬのが怖くないの?」


ファミレスの一席で、晩御飯を口に含みながら俺に質問する。


俺はため息交じりに応える。


「怖いも何も、やらなきゃ死ぬからな、俺の場合は。怖くて中途半端な結果で首ちょ

んぱよりも、自分のやりたいようにやって死ねた方がマシだろ。それだけ」


昔から少食だった俺は、200円のフライドポテトを無料の水で流し込む。


「それにアレだろ? 魔物が質問中に嘘を吐いたら、その魔物の生命の6割が削られ

るってだけで、死なないんだろ? 4割の状態でもキツイよ俺は。静電気くらいの魔

力であんな化け物ども倒せねえし」


6割削られた時点で、もうその個体には2度と『20の質問』が出来なくなる。その

瞬間、俺の場合は詰みになる。


「それはそうだけど…」


思ったより深刻そうな顔で傾聴する黒江。さっきの怒りはすっかり消えている。


ラグナからもらった通信機に着信が届いた。


『喜福、人生初殺害、おめでとう!』


「その言い方やめてくれ」


『さっそくなんだけど』


ラグナの声は、黒江の通信機からも響いている。


『学校に人間と思われる魔物を、非戦闘員が見つけたから、ちゃっちゃと狩ってきて

よ』


「簡単に言うなよ。さっきの河原でだって緊張したんだから」


「あの!!」


黒江が俺の泣きごとをかき消した。


「いつになったら、本部に戻してくれるんですか?」


棘のある声音だった。


しかし、ラグナは依然として気楽な声で返答する。


『ん~。今回のは割と強いみたいだから、被害を最小限に抑えられたら上と掛け合っ

てみるよ』


「本当ですか!? …分かりました。すぐに行きます」


「お、おい! 黒江!」


弾かれたように立ち上がり、俺のことなどお構いなしに走り去っていった。


「全部俺の支払いかよ」


デラックスパフェ(600円)×3とフライドポテト(200円)×2のレシートを

握り締め、会計を済ませ、急いで店を出て、あのバカを追いかけた。






見つけた。


夜の学校。


部活動とやらも終わっているような時間。


教室の中に魔物が見えた。


他の討伐者はまだ誰も来ていない。


手柄は、私に。


先週と同じく、教室の中に立ち尽くす男子生徒。


大丈夫。こんな時間には魔物しかいない。用事なんてないはず。非戦闘員から聞いた

情報によると、この教室にずっと立ち止まったままらしい。


強い魔物は、人間を演じるのが上手い。『元凶』による『擬態共有』で受け取る膨大

な魔力量に耐えうることができるから。


だけど、目の前にいる魔物は、明らかに様子がおかしい。ピタッと時が止まったよう

に静止している。


大丈夫。


あいつなら。


半径5メートル以内に近づくと、魔物と思しき男はゆっくりと私を見て、不敵に笑っ

た。


私を、見下すように。


「『質問を始める』」


魔力で相手をその場にとどめる。


まずは基本的な質問から。


「あなたには、手足がある?」


大丈夫。


大丈夫。


絶対に!


「ないよ」


その瞬間、男は魔物の姿と化し、片腕と片目、そして翼の一部が弾け飛んだ。


傷口から流れ出す青い血を気にも留めず、翼を生やした人型の魔物は次は声を出して

笑った。


「ケッへへ!! 千切れたところすっごくいてえや! でも大丈夫。お前、すっごく

弱そうだから」


「くっ…!!」


悔しさと恐怖で動けなくなった私は、翼から発生した風に吹き飛ばされ、壁に強く身

体を打ち付けた。


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