一緒に……?
「じゃあ、お兄ちゃん! 俺ら遊んでくるからー!」
「いい子にしとけよー!」
なんて言葉を俺よりの一回り小さいガキンチョに言われた今日この頃。
どうやらガキンチョ共は近くに住んでいる同じガキンチョと遊びに行くらしい。
孤児院にいる子供の人数は、現在6人ほど。
その全員が近くのガキンチョと遊ぶらしいのだが、大勢で押しかけて近所迷惑にならないか心配である。
心配されているのはこっちなんだけども。
「今日ねー、私はユズちゃんと浮気現場を目撃した若奥様の役を練習するのー!」
「楽しんでくるんですよ。私はそれが将来ためにならないことを祈っときますねー」
イリヤも、現在俺と同じく孤児院の前で見送りである。
この前見送ってもらったからというのもあったので見送っているのだが、今すぐにでも踵を返したい。
そうこう思っていると、ようやく子供達は孤児院を出ていこうとしてくれた。
去り際、子供達は年相応の笑みを受けながらこっちに向かって手を振ってくる。
「んじゃ、行ってくる!」
「んにゃ!」
「んっば!」
「んアホ!」
なんでも「ん」をつければいいと思っていたら大間違いだぞ、小僧?
「なんか、こんなことしているとお母さんにでもなった気分ですよねー」
子供達を見送ったイリヤがどこかしみじみと呟いた。
確かに、こうして子供達を見送っていると子供ができたような感覚になるかもしれない。
まだお相手すらいない状況だが、口煩いガキだが、失礼なガキだが、舐め腐ったガキだが、どこかほっこりしてしまうのも事実だ。
「イリヤなら、いいお母さんになるだろうな」
「…………」
「……どうした? 顔赤いぞ?」
「唐突はズルいです……」
イリヤは赤く染めた頬と口元を自分の長髪で隠す。
なんだろう……この仕草に思わずドキッとしてしまった。
「あの、子供達はもう行ってしまいましたかっ?」
その時、孤児院の入り口からエプロンを着けたソフィアたんが姿を現した。
子供達が食べ散らかしたあと片付けをしてくれていたのだが、見送りには間に合わなかったようだ。
「行っちゃったな」
「行ってしまいましたね」
「あぅ……ハンカチを持ったか確認したかったんですけど」
母親が板につきすぎて驚きです。
「そういえば、イズミさん達はお仕事はあるんですか?」
ショックを受けていたソフィアたんが顔を上げて尋ねてくる。
貴重な落ち込み姿だったので、もう少し脳内フォルダに保存させてほしかったが、欲は言うまい。
修道服にエプロン姿だけでも胸をくすぐる何かがあるのだから。
「どうしますか、ししょー?」
「いや、俺に振らんでもいいんだぞ? 休んでもいいし、依頼受けてもいいし。常に一緒ってわけじゃなくても───」
「(ふるふる)」
やだ、この子可愛い。
無言で首を振られて上目遣いを向けられると、お兄ちゃんは何も言えなくなっちゃうぞ。
「んー……仕事行くか? じゃないと今日の
「も、もう大丈夫ですっ!」
「でも、俺の働く意味はそこにあるんだよソフィアたん」
「では、働かないでくださいっ!」
流石の俺でも分かる。
このセリフは確実に間違っている、と。
「いや、でもソフィアたん傘下のヒモ生活というのもわんちゃん……」
「ヒモって女の子的にすっごく嫌いな人種ですよね」
「ソフィアたん、俺は働くよ」
「は、はい……適度に、ですよ?」
推しに嫌われるなんてとんでもない。
これから毎日しっかり依頼をこなしてお金を稼ぐ。
よく考えれば、ソフィアたんの学費も稼がなきゃいけないわけだし。
「とりあえず、今日のお仕事はどうしますか? 多分、ギルドに行ったら何かしらの依頼はあると思いますけど」
「行きたいのは山々だが、あんまりソフィアたんを困らせたくないというのも事実だ」
「だったら寄付をやめれば……って言いたいところですが、無駄だというのを愛弟子はすでに学んでいます。なので何も言わないです」
言っているに等しいというツッコミは、この際野暮だろう。
「だったらししょー、服選んでください! この前の約束!」
「むっ、そういえばそうだったな」
報連相なしで洞窟を崩壊させた時にそんな約束をした覚えがある。
仕事をするという選択肢もあるが、ソフィアたんが嫌そうな雰囲気を出している気もしなくもないし、約束を放り投げるのも男としてはよろしくない。
となれば、ここで履行しておくのもいいだろう。
「あい、分かった。イリヤがこの街のアイドルになるようプロデュースをしてやろう」
「違います、そんなスケールのデカい約束はしていないです」
「任せろ。こう見えて、俺はネット上のアイドルとも呼ばれているルミアたんのことをよく熟知している。その子の服を真似れば一発だ」
「ししょー、何言っているか分からないです」
「そのアイドルはソフィアたんにとてもよく似ている」
「修道服を着ろと!?」
しまった、修道服は非売品だった。
「ふふっ、お二人共楽しんできてくださいね」
「何言ってるんですか? ソフィアさんも一緒に行くんですよ」
「ふぇっ!? ど、どどどどどどどうしてですかっ!?」
「この際、皆で一緒に遊んじゃいましょー!」
確かに、子供達もいないし孤児院の仕事はあまり残っていないだろう。
ソフィアたんは放っておけば自分の娯楽など何もしないだろうし、これはいい機会かもしれない。
「そうと決まれば、今日は遊びに遊び尽くすぞッッッ!!!」
「ししょー、お金持ってないですけどね」
「Danm It!!!」
───とりあえず、俺は急いで持っていた『ソーガンキョー』を質屋に売った。
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