my precious one

@komekomeokome

第1話


私が勤める会社はいわゆる大手企業。

大きなビルに、多くの人が行き交っている。


この人たちがみんな同じ会社の人だなんて

何とも思わなくなるまでは時間がかかった。


来客に恥じぬような綺麗で大きなエントランス。

そしてエントランスの向かいには洗練されたコーヒーショップがある。


そんなコーヒーショップには話題のイケメンくんがいる。


アイドルのような可愛らしさとかっこよさを兼ね備えている彼は

おまけに接客の愛想も良くて。

社内の女子からも人気だった。

「ねえ優香、コーヒー買いに行こ」

『うん!』


私の同期で、1番仲がいい彩は

仕事の息抜きにいつもあのコーヒーショップに行く。


午後のなんとも中弛みする時間に必ずと言っていいほど彩からの社内チャットが届くのだった。

いつものようにコーヒーを買いに行ったある日。

「いらっしゃいませ」

『あ、ラテください。』

「かしこまりました。ミルク多めですよね。」

『えっ、あっはい、、お願いします。』

私の注文を覚えてくれていて、嬉しくないわけはないが驚きの方が大きかった。


これだけ毎日のように来ていたら覚えられても無理ないよね…

なんて通い詰めてることがちょっと恥ずかしい。


「お待たせしました。」

『ありがとうございます』

「午後も頑張ってください。」

ニコッと笑う彼に心を奪われそうになりながら

心は充電されて午後も仕事に集中できた。

少し残業になり遅くなってから会社を出ると

コーヒーショップのイケメン君の姿が….

『わ、こんな時間までいるんだ…』

そんなことを思いながら

挨拶する間柄でもなければ

ミルク多めのラテが好きなことを覚えてもらえてるからといって

彼にとっては大勢の客のうちの1人には変わりないと自分を冷静にさせ

目の前を通り過ぎようとした。

その時…

「あのっ」

『えっ、私?ですか?』

思いもよらなかったことに驚きが隠しきれない。

「突然声かけてしまってすみません。

そこのコーヒーショップで働いてる永嶋といいます。」

『お疲れ様です…』



知ってます、なんて言えるはずもなかった。


「あの、もしよければ、なんですけど」

『はい』

「連絡先教えていただけませんか?」

『えっ』

「すみません、やっぱり迷惑ですよね」

一瞬、いくら毎日通ってるコーヒーショップの

イケメン店員さんとはいえ

連絡先を教えるのは心配性な私は少し躊躇いがあったけれど。

嬉しくないといえば嘘になるし、

交換だけでもしてみようと思った。

『いえ、そんなこと…ないです。』

「ほんまですか?!」

関西人なんだ...

『はい……』

「えっと、じゃあ….」

イケメンくんは携帯を取り出してQRコードを表示し

「読み取っていただけますか?」

『はい..』

そうして連絡先を交換した。

こんなのいつぶりだろう…

私の名前が追加されたことを確認すると

パッと笑顔になり、

「ありがとうございます!

連絡しますね、お疲れ様です!」

と嬉しそうに帰っていった彼の後ろ姿を見送り、

そわそわする気持ちを抑えながら電車に乗った。



翌日もいつもと変わらず息抜きにコーヒーショップに行く。

昨日までと違うのは、他人だと思っていたあのイケメンくん…

永嶋くんと”知り合い”になったこと。



「いらっしゃいませ、あっ」



永嶋くんはわかりやすい態度をとった。



『お疲れ様です』

「ラテ。ミルク多めですね」

『....はい、お願いします』

なにを意識してるんだ私は。

こんなイケメンが私だけを見てるはずはない。

自分に言い聞かせるのに必死でつい上の空になってしまう。

「お待たせしました」

『...』

「梨紗さん?」

『?!あっありがとうございます!』

「ふっ、午後も頑張ってください。」

彼の微笑みに心臓が跳ね上がり、動揺が隠しきれない。

「ねえ梨紗」

『ん?』

「あのイケメン店員となんかあった?

なんで梨紗の名前知ってんの」

『え、あぁ…えっと』

私は昨日のことを軽く話した。

「えぇ?!!!!!」

⁡⁡

『ねえ声』

「だってそりゃ驚くよ、

連絡先聞かれたって何事?

しかも仕事終わるの待ってたわけ?!」

『そのようだね...

でもまあ、数いる女の1人じゃん?』

「まああんなにイケメンだとね。

そう言い聞かせといて損はなさそう。

でもいいじゃん私も連絡先知りたいわー」

彩が冷静な人でよかったと安心したとき

ふと携帯が鳴った

ー永嶋くんー

「ねえ、永嶋くん。きてる。」

『え』


私は画面を隠すことなく、永嶋くんからのトーク画面を開いた。


“今日も昨日と同じぐらいまで仕事ですか?”

「うわなにこれー!早く返事してよ!

もうちょっと早く終われそうって!!」



明らかに私よりテンションが高い美希は

まるで女子高生のようだった。

『面白がってるでしょ、、』

そう言いながらも内心嬉しくて

にやけてしまいそうなのを必死におさえた。

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