第17話

 ニーデズが恥ずかしそうに頭をかいた。


「僕、フユルーシ様とガルフの話をするのがとても楽しくて、道具の開発もシステムを考えるのもとてもワクワクして。

自分ではすごく烏滸がましい夢だなって思うのですが、こういうのが仕事だったらいいなぁって思っていたんです」


「ホントにっ!?」


「はい。でも、僕が資金を出せるわけじゃないから僕からは言えなくて」


「苦労させないとは言えない。でも、食うことには困らせない。だから、俺と一緒にやっていこう!」


「プッ!! アハハ! アハハ!」


「な、なんだよ! せっかくキメたのにっ!」


 俺は思わず口を尖らせた。


「だって、まるでプロポーズですよ。僕を娶ってくれるみたいです」


「ニーデズの一生を約束するんだからそうなっちゃってもしょうがないだろう!」


 ニーデズが笑いを止めて真面目な顔になって立ち上がった。


「フユルーシ様。誠心誠意仕わさせていただきます。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げる。


「こちらこそ。よろしく」


 顔を上げたニーデズはニカッと笑った。


 それからお菓子を食べながら夜中までガルフについて語り合った。


 翌朝、朝食の後、勉強部屋にニーデズとメッセスとウルトに来てもらった。

 勉強部屋といっても将来は執務室になる予定なのでソファセットなどもある。


 俺が一人掛けに、メッセスとウルトが並んで座り、二人の反対側にニーデズが座った。昨夜ニーデズと話したことを二人に伝える。


「え? 今更そんなお話ですか?」


「メッセス。今更ってなんだよぉ」


「だって、フユルーシ様は『大事業にする』っておっしゃっていたではないですか」


「あれはまだ冗談半分の時だろう?」


「半分は本気だったんですよね?」


「本気っていうか、やれたらいいかなぁみたいな」


「失敗してもいいじゃないですか」


「お前たち三人の飯がかかっているんだぞ。保険は必要だろう」


「俺たちは妻がこちらでメイドをしているんで稼ぎが少なくても大丈夫ですよ」


 ウルトが親指を立てた。


「なので、フユルーシ様はニーデズ様を飢えさせない程度で問題ありませんよ」


 メッセスが満面の笑みを寄越す。


「すげぇ、ハードル下がったんだけど」


「僕なら大丈夫ですよ! 困ったときは公爵家の下男にしてください」


「それはないっ! それはハル兄の思うツボになっちゃうぞ」


「ニーデズ君はハルベルト様に認められたのですね。それなら何の心配もありませんね」


「違う意味で心配だからっ」


「まだ七年あります。のんびり参りましょう」


「なんだ? 七年って?」


 メッセスが提示した聞いたことのない数字に驚いた。


「旦那様から、フユルーシ様は学園ご卒業から五年は好きにしていいと言われております。学園は後ニ年ほどございます。

それでも芽が出ない時は商会の経営をするように、と」


 商会の経営なら間違いなくできると思われているのも怖い。それなりの教育はされているからこその話だとは思うが。


「資金は?」


「ご卒業に合わせてある程度自由にできるご予算をいただける手筈になっております」


「なら、当面は俺の小遣い内だと思った方がいいね」


 ニーデズが目をしばたかせている。


「ニーデズ様。お小遣い内と申しましても、フユルーシ様のお小遣いは並ではありませんから心配いりませんよ。

今回のドライバー作りもボール作りもお小遣いのほんの一部です」


「父上や兄上をガルフに誘う時にはたっぷり使用料もらうけどねぇ」


 俺はニヤリと笑った。


 家族にニーデズを紹介した後、ニーデズと協力してガルフの開発をしていた。


 テレストは練習場での遊びに毎回参加し、試打をしては工夫をしてくれる。並べられないと気が付かないが、ヘッドとシャフトの角度が変化していたり、ヘッドの大きさが変わっていたりする。


「メッセス。ドライバーを一本いくらで購入するとなる前に、商品開発費としてテレストにいくらか渡しておいて」


「えっと……もう一度お願いします」


「商品開発費だよ」


「??」


 どうやらニューワードらしい。そうか、ゴルフ用語以外にもこういうことが起こるのか。

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