甘味処『ひつじぐも』へようこそ

一帆

プロローグ 


おいしくなあれ

おいしくなあれ



焦げつかないように気をつけながら

きべらで、餡を銅製の鍋の中ですくうようにしてまぜる。


おいしくなあれ

おいしくなあれ



おばあちゃん直伝のおまじないを唱える。


ふわわん

ふわわん


豆と砂糖が混ざった甘い湯気があがる。


記憶って匂いとか音にすごく関連するんだなぁって、この匂いを嗅ぐたびにそんなことを思う。


この匂いを嗅いだ瞬間、わたしは、おばあちゃんとの記憶を思い出したんだっけ。


ふわわん

ふわわん


この世界とは違う別の世界でわたしと生きていたおばあちゃん。


みっちゃんと大喧嘩した時も

第一志望のN校に受かったときも

彼氏に振られたときも

わたしが作ったお菓子が採用されたときも


いっつも、小豆を炊いてくれたおばあちゃん。


ねえ、おばあちゃん。

わたしね、おばあちゃんちに行く途中に、あいつに殺されてしまったけれど、



生まれ変わって、こうやって、小豆を炊いて、甘味処をひらいて

誰かの笑顔のために頑張っているんだ。


だからね、……。安心してね。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る