第30話「魔獣使いと勇者」

 そして鉄棒との打ち合いの中、押し切られそうになって、

僕は地面を蹴って、後ろに下がり間合いを取ると、口から炎を吐いてくる。こ

れもシュテンドウジの特性だ。話に聞くだけで、実物を見たのは初めてだから、

何とも言えないけど、彼女の鍛錬で強くなっているように思えた。


 僕は、素早く避けつつも腕を狙って、


「ウォーティ・シュート!」


と水属性の魔力弾を使う。一応シュテンドウジの弱点は水だからだけど、

最初から使ってないのは、シュテンドウジは魔法が効きにくい。

耐性があるほどじゃないけど、武器と魔法だと、

武器の方が強い。ただ回避しつつ攻撃をしたいと思ったら、勝手に出ていた。


 耐性があるわけではなく、どちらかと言えば武器の方が強いくらいなので、

魔法は、それなりに効果があり、その後も魔獣の炎を避けつつも、

腕に向かって撃ち続けた。そして攻撃は魔獣をひるませる事に成功。

その際に防御スキルが弱まり、その影響か金棒が消滅した。


 そして敵がひるんだ隙に、

接近し次の部位である胴体に攻撃を仕掛けようとするが、

避けられて拳が飛んでくる。


「クッ!」


こっちも避け、拳は地面に叩きつけられ、

その瞬間、轟音と共に大きなくぼみが出来上がっていた。素手でも強いようだった。


(腕が切り落とせればな……)


腕の防御スキルが、弱まれば、そのまま切り落とせるものだが、

シュテンドウジの場合は、そうはいかない。弱まっているものの、

そこまでは言っていないのだ。切り落とすには、別の部位に攻撃した後、

再度、腕を攻撃する必要がある。


 素手による攻撃は、金棒を持っている時よりも素早かった。

ただ攻撃範囲は狭いので、回避はしやすかった。

でも避けるのが精いっぱいで、接近戦では攻撃の機会をうかがえない。

そこで間合いを取り、また水の魔法攻撃を行うが、口からの炎に打ち消される。


 ただその後は、遠距離攻撃に移行することなく、

魔獣はこっちに素早く向かってきて、接近戦を挑んできて、

拳が再び飛んでくることになったが、素早く開始するも、


「あっ……」


魔獣が突っ込んでくる直前に気づいたことがあった。

最初に遠距離戦をしていた時は、そういう事はなかったが、

今は炎を吐いた直後、わずかに隙ができる。この時だけかと思ったが、

その後も同じように、間合いを取って、魔法を使うと同じだった。


 それともう一つ、気づいたことがある。最初は間合いを取って、

直ぐに魔法を使ったから気づかなかったが、

間合いを取っただけなら、すぐに魔獣はこっちに突っ込んでくる。

魔法を使うと、連動して動きを止めて炎を吐くようだった。

そして、隙を魔法を魔法で突こうとすると、炎を吐かれて打ち消されるので、


(魔法では、隙を付けない……)


なお魔法攻撃以外はと言うと、とっさに石を投げつけてみると、

火は吐かなかった。


(魔法以外では、火は吹かない)


おそらく魔獣がここまでの戦いで、弱っている故の行動制限だと思う。


 そうなると残された道は、接近戦しかない訳だが、

隙は短いので、魔獣が炎を吹いているうちに動く。

もちろん場所的にダメージ覚悟の事。

まあ鎧が耐えてくれることを期待してもいたが。


 この時、正確には拳を避けてる時だけど、

チェインモア専用のアーツがいくつか使える事がお知らせのように、

脳裏に浮かび上がってくる。

その中に、「ヘルフレイム・ギガンスラッシュ」があったが、

これは炎属性のアーツ、相手は炎には強いので、これは使えないが、


(ヘルフリーズ・メガンスラッシュか……)


ヘルフレイムに比べたら、威力は低いが、水属性のアーツで、

冷気をまとった刃で切りつけるというもの。

シュテンドウジには効果的だと思い、これを使うことにした。


 僕は右手にチェインモアを持ったまま、左手を魔獣にかざし、


「ウォーティ・シュート!」


魔法を使った後、すぐに両手でチェインモアをもって突っ込む。

魔獣は炎を吹き、魔法は打ち消され、

炎の中を突っ切ることになったが、鎧は耐えてくれた。そして接近すると


「ヘルフリーズ・メガンスラッシュ!」


冷気をまとった刃で切りつけた。


 魔獣の上半身が凍り付いて、 動きが一瞬止まるものの、

氷が割れて、動きを再開するが、ぎこちない。


(ここまでとはな……)


思いのほかダメージがあったようで、複数個所の防御スキルが失われていた。

まだ急所を狙えないが、今なら腕を切り落とすこともできる。


 だが直後、


「そこまで!」


というララさんの声が響くと、光に包まれ、シュテンドウジは姿を消した。


「丹精込めた分、ここで死なせたくない……」


と言うとララさんが近づいてきた。その様子に思わず身構えた。すると、


「その行動は正解ね。最後は私自身が相手よ!」


そう言うと、彼女の手に大剣が出現し、ゆっくりとした足並みで、

向かってきた。


 彼女の剣は、骨と肉で構成されてようなものだった。


「まさか、ドラグコープス……」


ドラグコープスと言うのはドラゴンの血肉と骨で作ったと言われる魔剣。

振るうたびに怪我をして、数回振るえば死に至る。


「違うわ。まあドラゴンの血肉骨から作ったには違いないけど、

これはね。私がテイムし鍛え上げ、

私のために死んでいったドラゴンから作った剣よ」


そのドラゴンへの敬意をこめて作ったものだという。

だからドラグコープスもどきと言えるものらしい。


「ただ、私以外の人間が使うと、振るう度に怪我をして、その内死んじゃうかもね」


危険性もそのままの様だった。


 そして彼女は、大剣の先を僕の方に向けると、


「それじゃあ、行くわよ!」


と言ったかと思うと、剣を振るってくる。


「!」


僕は、チェインモアで受け止めた。すると、衝撃が伝わってきた。


「グッ……」


結構重い一撃で、思わず押されてしまったが、

こちらも負けじと押しかえす。


「なかなか、やるわね」


その後は打ち合いとなる。鎧の力でこちらも高い剣術を持っているけど、

向こうも負けじと渡り合う。と言うか押されることもある。

なお彼女が自分以外と言っていたように、

剣を幾度と振るっても、彼女が怪我をしている気配はなかった。


 しばらく打ち合いを続けた後、彼女は後ろへ飛びのき、

右手に剣を持ったまま、左手をかざすと、そこから火炎弾が放たれる。


「!」


魔法陣は出現しなかったから、スキルによるものだと思われるが、こっちも


「ウォーティ・シュート!」


水属性の魔法弾を撃ち、火炎弾を打ち消す。

以降は、こっちは魔法、向こうはスキルと言う形で、

複数の属性の攻撃の打ち合いとなり、

砂埃が舞い、視界が悪くなるが、鎧の力で、彼女の位置は把握できていた。


 そして隙を見て、近づき接近戦に持ち込むも、大剣で受け止められる。


「視界が悪い中での、不意打ちとは、ちょっと卑怯ね。

まあ勇者とはいえ、私のような刺客相手に正々堂々と言うのも、愚の骨頂だけどね」


僕は、


「勇者を名乗ったつもりはない」


と言いつつも、


「アンタはいったい何者だ……」

「テイマーだからって戦闘力がないとは限らないのよ」


テイマーは、本来の僕と同じ戦闘力はないサポート役で、

ただ魔獣使いなら、前衛に出ることはあるけど、

戦闘は魔獣任せになるから本人には戦闘力がない。あっても強くない事が多い。


 でも彼女は違う。剣が特殊であることもだが、太刀筋がきちんとしている。

きちんと修業を積んでいる事がうかがえる。

それに、この鎧と渡り合うだけの力の持ち主でもある。

腕にいい魔獣使いである事は、分かっていたけど、

本人自身も強いとは思わなかった。


「さあ、どんどん行くわよ!」


と言って大剣を振り回してくる。

こちらも応戦して、しばらく打ち合いが続く、

それも自然と場を移動しながらの結構激しいものだった。


 ただ押しつ押されつの繰り返しで、状況は拮抗したままだった。

途中お互いに間合いを取って、魔法とスキルの撃ちあいをしつつ、

ここでも拮抗したまま、結局は接近して大剣同士の打ち合いとなり、


「「はぁ、はぁ、はぁ……」」


お互いに妙に息が上がってくる。


 すると彼女は笑みを浮かべながら、


「やるわね。貴方はエセ勇者じゃないわね」


と言うので、


「だから、勇者じゃ……」


と言いかけて、気づいたことがあった。


「まさか、アンタ、勇者アンジェリーナの関係者か?」

「さあね……」


と妙に含みのある言い方をする。


「アンタと同じく、テイマーで戦闘力を持っている」

「………」


彼女は何も答えない。彼女が別人なのはわかっている。

なんせ、昔一度会ったことがあるから、

ただその時、彼女は身元を隠し冒険者と名乗っていたので、

実際に、普段は冒険者なんだけど、それは置いておいて、

とにかく別れ際まで気づかなかった。

あと勇者アンジェリーナは、テイムに魔法を使わず、スキルを使っていたが、

でも彼女はテイムに魔法を使ってるから、その点は大きな違いだ。


 とはいえ無関係とも思えなかった。

彼女を見たときに、既視感があったが、

それは勇者アンジェリーナに似ているからだ。加えて苗字も一緒だ。


(どう見ても、年上っぽいから、姉か、まさか母親)


なお僕は、勇者アンジェリーナの家族構成は知らない。

そもそも家族に関する話も聞いたことがない。


 しかし彼女は何も答えることなく、


「さっき水属性の技、まだ使える?」

「えっ?」


彼女は剣を構えると、


「ドラゴニック・フェニクス……」


刃が炎に包まれた。どうやら炎系の必殺技の様だ。

こっちも、さっきの技は使えるけど、それ以上の技が使えるようになっていた。


「アブソリュート・ゼロスラッシュ……」


さっきと同じ冷気をまとった剣で、先に出した技よりも攻撃力が高く、

「ヘルフレイム・ギガンスラッシュ」と属性違いの同等の技でもある。


 ヘルフリーズよりも、この技じゃないと対抗できない気がして、

この技を使うことにした。

チェインモアが冷気をまとい、そして僕らは、速足で距離を縮めて、

彼女の炎を纏った剣とぶつかった。


「「!!」」


炎と冷気のぶつかり合いだったが、最初はお互いの力はほとんど拮抗していた。

徐々に、こっちの冷気が炎を上回り、そして徐々に押していく。


「くうぅ!」


彼女の苦痛の声が聞こえたが、


「やあぁぁぁぁぁぁ」


僕は一気に力を込めた。そして次の瞬間には、彼女は吹き飛ばされて、

そのまま地面に尻もちをついた。

その横の地面に同じく吹き飛んだ大剣が突き刺さった。なお炎は消えていた。


 そして彼女は、


「どうやら、私の負けのようね……」


そう言いながら立ち上がると転移なのか、地面に刺さっていた大剣が姿を消した。


「おめでとう、貴方は勇者合格だわ」

「合格って……」

「最初は、エセ勇者をトッチメテやろうって思って、依頼を受けたのよね。

こんな逸材に出会えるとは思えなかったわ。人間性も悪くなさそうだしね」

「逸材って……僕は、鎧が強いだけで、僕自身が強いわけじゃない」


思わず演技をやめて、素直に答えていた。


 そして僕は、


「所詮は借り物の力だ」


そう言うと、ララさんは、


「別にいいじゃない。借り物でも、私だって借り物よ」

「えっ?」

「私のテイムの魔法は、私が作った特別なものでね。

テイムした魔獣のスキルを私のものにできるの」


正確には複製らしく、魔獣のテイムを解いても残る上に、

魔獣自体もスキルが消えることはないらしい。


(勇者アンジェリーナと同じだ。彼女の場合はユニークスキルだけど)


そして彼女は、


「私が貴方と戦えたのも、魔獣から借りた力のお陰なの、

それに、剣の勇者だって、それなりに修業は積んでるけど、

正確には聖剣の力を借りてるようなものだしね」


と言った後、


「大切なのは力が借り物かじゃないわ。それをどう扱うかよ

特に扱う上での心構えね」

「心構え……」

「貴方は、自分の力が借り物だと意識している。

それだけでも十分だわ。世の中には、

借り物を自分の物だと言っておごれている奴も多いんだから」


と悲し気な表情を浮かべつつも、すぐに笑顔で、


「とにかく、貴方は勇者合格よ」


と僕を指さしながら言った。


 僕はララさんに、


「貴方は一体?」


すると彼女は、またどこか悲し気に、


「勇者と言う存在に振り回された者ってところかしらね。

まあ、幸い私の犠牲は報われたけど……」

「それって……」


次の瞬間、ワイバーンが下りてきた。そして彼女はそれに飛び乗ると、


「依頼人は、名前も聞かなかったし、顔を隠していて、

何処の誰かはわからないけど、たぶん商人だと思うわ」


と言った。まあ既に分かっている事だけど、

とにかく依頼人の話をした後、ララさんは、


「じゃあね。黒の勇者さん。これからも頑張ってね」


と言った後、ワイバーンは飛び去って行った。


 彼女がいなくなったので、僕もこの場を去ろうと思ったが、

この時、少しに離れた場所に人影がいる事に気づいた。

見たところ、冒険者の一団で、側には彼らが乗ってきたと思われる馬車もある。

監視しているというよりは、偶然通りがかって、

こっちを見ているという感じ見えた。


 場所が場所だけに、あまり人が通りかかる場所ではないと思っていたけど、

それでも来る人はいる様で、その後一団は去っていった。


(また話題になりそうな……)


正直目立ちたくないので、いい気分はしなくて、

それと他に刺客が来ることもなさそうなので、

僕はバイクを召喚して、それに乗ってその場を後にするのだった。

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