第28話「魔獣使いの襲撃」

 あぶり出しの為実際に何をするかというと、偽依頼を複数用意して、

どの依頼を誰が処理したか、分かるようにする。すべて偽なのだから、

何も起きないが、もし襲撃などが起きれば、

その依頼を処理した人間が怪しいという話になる。


 また前段階として、先の襲撃を理由にして僕と言うか、黒の勇者あての依頼は、

すべて、依頼人に確認を取るという決まりにした。

こうする事で、他の偽依頼を防ぎ、

既存の依頼を利用して襲撃をしないといけない状況にするという。

まあ、仲介料をケチって偽依頼を出さないことは分かっているが、

これも盗撮によるものなので、その事は言えない。

あとこっちが用意する偽依頼は、エイラさんの信頼できる人間に、

事情説明し、名前を借りているので、確認されても問題はない。


 用意した偽依頼を受けて、現場に向かう。偽物だから何も起きない。

ただちょうど4つ目の依頼の時、魔獣の襲撃があった。

襲ってきたのはオークとワーウルフ、リザードマンで、

すべて、体の一部に魔法陣が書かれていた。

おそらくテイムの魔法と思われる。


 そいつらは、すぐに倒したが、魔獣は倒されると魔法陣は消えてしまった。

まあ、鎧が映像として、記録していたので、問題はなく。

それをエイラさんに見せるために、特別なルーンストーンに移した。

そうしないと鎧を着ている人間にしか見えないから。

ちなみにカリーナ達の映像も同じようにしないと、第三者には見せられない。


 さっそく映像をエイラさんに見せると、


「これは、テイムされた魔獣。襲撃者は魔獣使いの様ね」


僕は知ってたけど、例によって盗撮によるものだから、

話せなかったけど、


「魔法陣を見る限り、強力な魔獣使いみたいだから、

この程度じゃ、済まないでしょうね。おそらく小手調べね

もっと強力な魔獣を送り込んでくるでしょうね」


もちろんカリーナ達の会話から分かっていたこと。


「とにかく、今回の事で目星はついたから、後はこっちで処理するから……」


との事だが、


「それなんですけど、もう一度、偽依頼を出していいでしょうか?」

「それは、どうしてです?」

「これは、主人の考えなんですが……」


と前置きをする。実際は僕の考えなんだけど、


「現時点では、敵は協力者の情報で、動いています。

でも、相手が魔獣使いなら、魔獣や動物も使っての索敵も、お手の物でしょう?」

「そうでしょうね」


だとすれば情報がなくとも、位置を特定してくるはず、

そうなると本物の依頼の際に攻撃を受けかねない。

そんな事になったら、大変なのは確かだか、

加えて、周囲への影響も大変なことになりかねない。


「でも情報があるうちは、それに従って相手も動くはずです。

それをうまく利用すれば、こっちの都合のいい場所に、

相手を引き寄せられますから」


するとエイラさんは、


「確かに、推測できる相手の腕前を鑑みても、

上級魔獣をけしかけてきかねません。仕事中の乱入だけでなく、

周囲への影響を考えても、そうした方がよさそうですね」


そう言うわけで、再度偽依頼を出して、

マルセルと通じていると思われるギルド職員に処理させるように仕向けた。






 その頃、マルセルは、仮面をかぶり、身元がばれないようにして、

依頼をした人物のもとに来ていた。

その人物は宿に泊まっている赤毛でロングヘヤーの女性で、

艶やかな褐色の肌をして、胸が大きく妖艶な雰囲気をまとっていた。


「次に奴が受けた依頼だ」


とマルセルが依頼書の書き写した紙を見せる。


「荒野か……悪くないわね」


と言いつつも、


「今回の依頼は、タダでいいわ」


この申し出に、マルセルは、


「いいのか?」


と驚いたように言うが、


「ええ、今回は依頼とは関係なく戦ってみたいのよ」


そう言って、不敵な笑みを浮かべる。


 できるだけお金を使いたくないマルセルは、

この提案を了承したが、


「だがどうして急に……」

「小手調べ送り込んだ魔獣を倒す姿を見て、ちょっとね」


と言って笑う。見るからに上機嫌という様子で、服を開けさせながら、


「こっちの方も、タダでしてあげるけど」


と言うと、マルセルは、


「遠慮しておく」


と拒絶すると、


「そう、まあいいんだけどね」


彼女は、冒険者だけでなく、妖しげな仕事もしているようだった。


 そんな彼女に不安な所もあったが、


「とにかく頼んだぞ」


と言って、その場を後にした。残された女性は、


(黒の勇者、ただエセ勇者と思ったけど、あの強さは、なかなかのものね。

その力、もっと見せてもらうわ)


そんな事を思いながら笑った。







 今回の偽依頼は、人里離れた場所にある荒野のデスワーム退治だ。

もちろん偽物なのでデスワームなんかいない。

周囲への影響が少ない場所と言うわけで、エイラさんのお勧めの場所でもある。

なお依頼をデスワーム退治にしたのは、

この魔獣は荒れた大地に、巣を作ることが多いので、不自然さをなくすためだ。

こんな場所に普段住み着かない魔獣を名前を出したら、不自然極まりなく、

罠だと怪しまれかねないから。まあ、別に罠を仕掛けているわけじゃないんだけど。


 そして当日を迎えて、現場に来ていた。

いつものように黒の勇者の姿だ。念のためサーチを使う。

偽依頼だから魔獣はいない。


(さて何が来るのか……)


周りを見渡していると遠くから何かが向かってくるのが分かった。


「あれは……ワイバーンか」


よく見ると、ワイバーンには人が乗っていた。


 やがてワイバーンは僕から少し離れた場所に降りた。

そして背に乗っていた女性が降り立つ。

妙に色気のある女性だ。服も露出度高め。


(どこかで見たことある人だな……)


そんな彼女は大声で、


「初めまして、黒の勇者。私はララ・カーンズ。一応、流れの冒険者よ」


言っちゃ悪いけど、冒険者と言うよりは、

娼婦と言った方が似合いそうな恰好をしている。


「貴方の力、見せてもらうわ」


腕には魔法発動の補助となる魔法具と思われる腕輪を身に着けていて、

それに触れると、


「サモン、サードリアン・デスワーム!」


と叫ぶとともに魔法陣が現れ、消えたかと思うと、

地面が揺れて、ここにいるはずない魔獣が姿を見せた。


「どぉ?これがデスワーム中でも、強力な種類よ。ご存じ?」


聞いたことはある。ミミズ型の魔獣ワーム、小型の奴は畑に放っておくと、

土壌を改善し、作物の育ちがよくなるので重宝されるが、

大型のは人を喰らい、毒をまくので、討伐依頼が出される。

そういうのをデスワームという。


 今回の偽依頼でのデスワームは中級クラスのを想定していた。

しかし、サードリアン・デスワームは上級クラスのワームで、

大きさも何倍もあって、毒だけでなく炎や雷のスキルも使えるという。

上級の冒険者でも手こずる相手。なおこの辺には生息していない。


(さっきの魔法は、召喚魔法だな……)


 魔獣使いは、テイムした魔獣を別の場所で、飼育していて、

必要に合わせてが魔法で呼び出すということは、よくある事。


「それじゃあ、頑張ってね」


彼女はそう言って、ワイバーンに乗ると、そのまま空へと飛翔した


 残された僕に向かって、デスワームは、土煙を上げて突進してくる。

デスワームは倒すには、ちょっとしたコツがいるので、

巨大な敵であるが、チェインモアは使うことなく、ショットブレードを装備した。

そして突っ込んでくるデスワームを横に回避しつつ、

胴体の防御スキルが弱い場所にショットブレードを突き刺した。


 そうデスワームを倒すコツは、真っ二つにしない事。

デスワームは切り裂かれたときのみ強力な再生力を発揮する。

もし真っ二つにすれば、それぞれが再生し、二匹のデスワームとなり、襲ってくる。

だから倒すときは、魔法で焼くか、刺し殺すしかない。

ただサードリアン・デスワームは炎魔法に耐性があるので、

刺し殺し一択となる。


 突き刺すなら、槍もあるんだけど、ショットブレードなのは、

使い慣れていて無意識に選んだのと、

それに、この剣は刃に沿うように、銃がついているので、

突き刺すと同時に引き金を引き、敵の内部で発砲するから、

その威力は槍よりも強い。


「!」


かなりのダメージなのか、デスワームは身体を大きくくねらす。

そして剣を引き抜くと、別の防御スキルの弱い場所を狙っていく。


 すると上の方から、ララって人の


「なかなかやるじゃない」


という声が聞こえてくる。


 その声は余裕に満ちているだけでなく、

妙に悪意のようなものを感じなかった。殺しに来たと言うよりも、

試練を与えに来たような感じがした。

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