第3話「良からぬ企み進行中(2)」

 さてアベル達が、善からぬ企みをしたのは

酒の席の事であって、その時はまだ本気ではなかった。

本気になったのは、要望に合った仲間が、なかなか見つからなかったからだ。

戦闘力があって、家事もできる冒険者、

加えて家事の腕前の基準がライトだったことが問題だった。

彼の家事の腕前が、あまりにも良すぎたのだ。


 そのため、彼の家事の腕を基準として、 家事技能のレベルを求めた結果、

同じくらいの腕前でも、戦闘力がなかったり、戦闘力があっても

家事技能が低いと来て、該当する人物がいなかった。


「畜生、何でいないんだよ」


冒険者ギルドから戻ってきて宿で、文句を言うアベル。

この状況に、他の面々も苛立ってきて、

それが、新参者の「黒の勇者」に向いたのである。

結果、酒の席での企みを、本気で実行に移そうとしたのだ。


 数日かけて、準備は整えた。あとは時を待つだけだった。

しかし、彼らは分かっていない。自分たちが転落を始めたことを、

多少の事には我慢して、家事のできる仲間を迎えれば、

Aランクも間違いなかった。


 ライトを追放したのは、最初の過ちであったが、

挽回する機会は、十分にあった。しかし、それをアベル達は棒に振った。

後は、もう墜ちていくだけなのだ。アベル達は嬉々としながら、

今後の策を話しあうが、彼らのお先は、暗いのであった。







 何時ものように、ギルドで仕事を見つけた僕は

家に帰る途中、丁度人気のない場所で、


「よう、ライト」

「アベルさん……」


二度とあらわれるなと言ったのに、何でか向こうからやって来る。

妙に上から目線な言い方で、


「今日はいい話を持って来たんだ。なあ昔の事を水に流して、

また俺たちと組まないか」

「アベルさん達と……」

「あれから考えたんだが、やっぱり、俺たちはお前が必要だ。

またうまい飯を作ってくれよ」


この前会った時も、役立たず扱いしていたのに、急な掌返し、

僕の父さんからの教えだけど、こういう相手には、注意しろとの事だった。

それに市場でのこともある


「何を企んでるんです?」

「何のことだ?」


と惚けるが、


「ダリルさんが僕の事を嗅ぎまわってるみたいですが?」


実際はどうか分からないが、カマを掛けてみた。

するとアベルさんは黙り込んだ。


「何を考えてるか分かりませんけど、

僕には、新しい主人がいますし、それに僕は、

アベルさん達に未練はありませんしね」


あの頃は、よく追放されてたから、

仕事を失って、困ると言う事はあっても、

元居たパーティーに未練とか、そう言うものは感じなかった。


「その主人だって、いつお前を追放するか分からないぜ。

俺たちなら、もう追放はしない。約束する」

「約束って、一度追放しておいて、何言ってるんですか?」


ここでアベルさんは不機嫌そうな顔をしたが、僕は構わず、


「それじゃ、主人が待っているので」


そう言って立ち去ろうとしたが、


「おい待てよ」


と声を上げて、僕の肩をつかんだ。


 僕は思わず、右手の手甲に触れていた。


「人が、下手に出てりゃ……」


と上げたと思うと


「何やってるの?」


アベルさんは、僕の肩から手を離した。


「エイラさん……」


やって来た彼女は、腕を組みながらアベルさんを睨みつけて


「ギルドとしては、パーティーへの強制勧誘は、

止めるように言ってるんだけど」


するとアベルさんは、タジタジになりながら、


「昔のよしみで、また組んでくれって、頼んでいただけで……

あとアンタの言う事を聞いてって言うのもある……」

「でも、彼断ってたじゃない。それを無理やり……」

「無理やりなんて……」


とアベルさんは惚けようとするが、


「私の目は誤魔化せないわよ。貴方は立ち去ろうとする彼を

無理にとどめようとしていた」

「………」


黙り込むアベルさん。


「とにかく、強制勧誘は禁止よ。もし守れないなら、

ギルドとして、処分を下さねばなりません」


この処分と言うのは、大体は、一定期間の依頼斡旋の停止や、

最悪の場合は冒険者登録の抹消。

とにかく冒険者として活動できなくすると言うもの。


 そしてアベルさんは不機嫌そうに


「チッ……!」


舌打ちすると、何も言わずに立ち去っていった。

その後、僕はエイラさんに


「ありがとうございます」


とお礼を言いつつも


「でもどうしてここに?」


と聞くと


「さっきギルドで、貴方と前に組んでいたダリルさんが

貴方を見てたの」

「そうなんですか、気が付かなかった……」


その後、ダリルは僕の後をつけていたらしく、

どうも僕はアベルさんとダリルさんの挟み撃ちになっていたらしい、

エイラさんは、僕を付けていくダリルさんの様子が気になって、

彼女も後をつけてきたとの事。そして僕らに声を掛ける前に、

ダリルさんにも声を掛けていたそうだ。

なおダリルさんは声を掛けられたとたん、

一目散に逃げていったとの事。


 エイラさんは、


「アベルさん達には、当面気を付けた方いいわね」

「それにしても、どうして……」

「思い当たる節はあるわ。守秘義務があるから言えないけど」


何となく、予想はついた。今更のごとく家事の重要性に気づいて、

冒険者ギルドに、仲間の斡旋をしたけど、

上手くいかなくて、僕を頼ったと思ったが


「それとも、狙いは貴方じゃなくて『黒の勇者』かも、

貴方を人質にとって、困らせようとしているのかもしれない」


ギルドでの、アベルさんの様子を見て短期間でAランクに成ったことが

気に入らないみたいだから、その線もあり得ると感じた。

実際こっちが正しかったわけだが。


「とにかく、黒の勇者様にも、相談して気を付けた方がいいわ」

「分かりました……」


その後、僕はエイラさんと別れて、今住んでいる家に戻る。

なお家に戻るまでの間、特に何事も無かった。







 数日後の早朝、ダリルとロアナが、『黒の勇者』の家の側に来ていた。

ここはライトの住む家で、二階建ての立派な家であるが、


「しかし、よくこんなところに住めますね。

こんないわくつきの家に」


とロアナは不快そうな様子で言う。

この家は、立派ではあるが、いわく付きなので、

街で、一番安い家であった。故にAランクはおろか、

Bランクの冒険者の一般的な稼ぎでも、多少苦しいかもしれないか、

購入可能な家でもある。


「ホントだな。そういう事は気にしないんだろ。

そういや、『白の魔王』もいわく付き家に住んでるな」

「あの二人、気が合うのかもしれませんね。

ライト君とルリさんのように」


何処か皮肉めいた言い方をする。


 さて、二人は、この少し前に、家から黒い全身鎧姿の

人間が出てくるのを確認した。


「黒い勇者だ……予定通りだな」


ダリルは、ライトが受注した依頼をこっそりと確認していた。

そこから、今日出かける事が分かっていた。

同時に依頼の内容から、ライトはついていかずに家にいる事は間違いなかった


 黒の勇者が、二人に気づかず、家を出で去っていくのを確認すると、

扉の方に向かう。そして呼び鈴を鳴らすが、返事はなかった。

その後も、呼び鈴を鳴らすが、返事はない。


「留守みたいですね」

「しかし、この時間帯に留守と言うのは変だな。」

「サーチを使ってみます」


ロアナは、分析魔法「サーチ」を使うが、


「やっぱりサーチ避けしてますね。ダメでした」


するとダリルは、


「直接確認してみるか」


 そう言うと針金を取り出し、鍵をこじ開けだす。


実はダリルは、元盗賊である。もちろんアベルたちは知っている。


「よし開いた!」


扉の鍵は、いとも簡単に開いた。そして早朝なので、

周囲には、誰もいないので、気づかれずに二人は家に入った。

家の中は、静まり返っていて、留守の様だった。


 その後、二人は手分けして家の中を探すが、


「やっぱり、居ませんね」

「何処に行っちまったんだ。ライトの奴……」


この二人の目的は、ライトを拉致する事であった。

しかし、ここに住んでいるはずのライトはいない。

昨夜、彼が家に帰って来て、その後、出かけた様子はない。

ただ、一晩中、見張っていたわけじゃないから、

見て無い時間、夜中に出ていった可能性がある。

しかし、そのこと自体疑問がある事だが。


 取り敢えず、二人はライトが帰って来るのを待った。

戻って来たところを拉致しようと思ったのであるが、

しかし、それだけ待っても帰ってくる気配がない。


「まずいな、そろそろアベルに連絡しないといけないのに」


なおアベルは遠方にいて、連絡は、マジックアイテムを使う。

ただどれだけ待っても、戻ってきそうになかったので、

結局、マジックアイテムで、状況を伝える事にした。


「でもいいんですかね」

「何がだ?」

「最初と話が違ってきてるじゃないですか」


ライトの拉致までは、当初の予定通りであったが、

事は変化していた。


「大丈夫だよ、アベルに任せときゃな」

「ならいいですけど」


不安気なロアナに対し、自信たっぷりなダリル

しかし、この自信には根拠がない。

そして根拠のない自信は、破滅への片道切符である。

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