20.賢者様、王都の武器屋さんに到着し、ライカと一緒にテンションMAX。名品どころか伝説の武器を発見する

「いらっしゃいませー、こんにちはぁー」


 ワイへ王都の武器・防具屋さんにさっそくお邪魔した私達である。

 時刻は朝の十二時前ぐらい。

 ちょうどお昼時であり、お客さんもほとんどいない頃合いだった。


 ここで私達にふさわしい武器を選ぼうっていう魂胆なのである。



「うわぁああ、品揃えがすごいですね! お師匠先輩! 見てくださいよ、これ、詠唱時間短縮ですって! これは炎魔法強化ですよ! ひゃっほぉおお!」


 ライカはずらりと並んだ魔法の杖の前で嬉しそうにしている。


 これだから駆け出し冒険者しょうがないなぁ、などと思ったりもする。

 だが、それはしょうがない。

 優れた武器や防具を前にするだけで、自分の可能性が広がって見えるからだ。


 剣を持てば、剣士になった自分が見える!


 杖を持てば、魔法使いになった自分が見える!


 覆面して斧を持てば、殺人鬼になった自分が見え……かねないから止めとこう。 


 とにもかくにも、私たち冒険者にとって、ここは心躍る場所なのだ。



「見てください! これこれ! 女魔導士の服ですってぇええ!」


 ライカはテンションが上がり過ぎてバカになっているのか、異様に露出した服を着て登場。

 ばばーんと開いた胸元のといい、すっごいド迫力である。

 下半身には大きくスリットが入っていて、かなりチラチラしている。


 ぐぅむ、これを使って敵の集中力を削ぐのだろうか。

 

 正直、私には装備できない……。


 いや、別に着られなくはないと思うけどね?

 そういうふうに敵を倒したって面白くないって言うか?

 やっぱり、正々堂々と戦いたいものじゃない? ねぇ? 


「これもすごいです! 女魔導士のビキニ!」


 私の思考が暗黒めんどくさい方面に行こうとしている一方で、ライカはさらに露出の大きな服装に着替えて現れる。

 

「うわ、それ、ほとんど水着じゃん!!」


 着る人を選ぶ装備に思わず叫んでしまう私である。

 いったいぜんたい、どうしてこんなのが魔導士の装備なのか。

 これを開発した防具職人には小一時間説教をかませる自信がある。


 まぁ、確かに一部の女魔導士はほとんど露出狂みたいな服を着ている連中もいる。

 

 他人様の服装にとやかく言うつもりはないけど、寒くないのか不思議だ。

 女の子は体を冷やしちゃいけないんだぞ!

 おばあちゃん譲りにそんなことを思ってしまう私なのである。


 別に自分が装備できないから悔しいとかじゃないからね?


「ちょっと恥ずかしいですけど、面白いですねっ! このまま水遊びできますよ!」


 未知の防具を装備して、ライカはとっても嬉しそうである。

 ぐぅむ、普段はローブ姿で体のラインは分からないけど、この子、脱いだらすっごい体つきである。

 いっそのことビキニアーマーを着て女剣士でもやればいいのに……。

 

「ひへへ~、面白いですねっ!」


 ライカは再びローブ姿に戻って、店内をぴょんぴょん飛び回る。

 その子供っぷりを私は微笑ましく眺めるのだった。



 とはいえ。


 何を隠そう、私だってテンションが上がっているのは確かだ。

 これまで武器防具をお店で買う機会などほとんどなかったのだから。


 変身前は王宮からとんでもない杖や防具を勝手に支給されていたからね。

 正直、装備のお値段の相場すらよくわかっていない。

 


「壮観だねぇ……」


 その意味で、私の目の前に広がる、この光景は素晴らしいったらありゃしない。

 この、『駆け出し冒険者コーナー』という看板のあるエリアには、震えるほどの武器や防具が置いてあるのだ。


 雑多に貼られた『お買い得』『今なら半額』のラベルも心憎い。

 その安っぽさに私の心が躍るわけである。

 こん棒を三つ買ったら一本タダとか、そういうやる気満々なセールもいいよね。


 ただ疑問なのはこん棒なんて、三本どころか四本もいらないってことである。

 普通の人は運ぶだけでも大変だろうし。



「んむ!? ライカ、これ見てよっ! すごいものがあるよっ!」 


 そして、私が手にしたのは珠玉の逸品!


「……ぼ、棒ですか?」


 ライカはきょとんとした顔で小首をかしげる。


「ふふふ、これはただの棒じゃないよ……ひのきの棒さ!」


 私はばばぁんっとその何の変哲もない棒を見せつける。

 ひのきの棒、それはひのきの枝をちょっと加工した程度のただの棒きれである。


 何の加護もついてないし、何の特性もないし、そもそも頑丈さに欠けている。

 スライムみたいなのならともかく、何度か敵をぶっ叩いたら折れるに違いない。


 でも、このチープさが良いのである!


 駆け出し冒険者の命知らずな感じをうまく表現してくれているというか。

 眺めているだけでニヤニヤが止まらない。


「お師匠様、棒なら私も好きなんですっ! この短い棒はいかがですか? 投げてくれたらとってきますけどっ! はっはっはっ」


 ライカは足元にあった短めの棒を手に取り、冗談とも本気ともわからんことを言う。

 しっぽをぱたぱた振りながら、ちょっと目をキラキラさせて。

 ええい、誰が弟子を使って、取ってこいゲームをするものか。


 そもそも、あんたは犬じゃないでしょうが!


「えぇええ、残念ですぅうう。あっ、このフリスビーみたいなのかわいい! これにしましょうよ! さっそく原っぱにいきましょうよっ!」


 ライカは円盤型のアイテムに興味を示す。


 しかし、それは投擲タイプの武器で、正式名称は「さつじん円盤」というえぐい名前。

 側面に刃(やいば)がついてるやばい奴である。

 こんなんで遊んだら、口が死ぬだろうがし、ここには遊ぶためのものを買いに来たんじゃないし。



「ライカ、ちゃんと自分にぴったりなのを選びなさい! ほら、このお宝の山を見てごらんよ!」


「えぇえ、そっちガラクタ置き場じゃないですかぁ」


「ガラクタっていうな! 最終処分品コーナーたからものおきばって言いなさい!」


 育ちがいいのはわかるけど、ライカは庶民の暮らしに無知であり、大概、失礼な奴なのである。

 自分の目の前にある宝の価値に気づかないらしい。


 彼女と一緒にいるとどうしてもペースが狂ってしまう。

 そんなわけで、私はちょっと離れた場所でじっくりと品物を物色することにした。


「こ、これは……!」


 そして、私は硬直してしまう。

 激安品の棚で、とんでもないものが目に飛び込んできたのだ。

 数々の名品と呼ばれる武器を見てきた私のハートを、そいつはいとも簡単に射抜くのだった。

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