全てを奪われた娘の復讐を手伝ってくれたのは魔族でした。

三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5

第1話 始まり

「ボブロスキー…あなた今なんて言ったの?」


ナディアは震える手を必死に抑え込みながら平静を装った。


本当は今にも叫んで暴れて取り乱したかった。


だけど目の前で不敵に笑うボブロスキーにそんな姿を見せたくなく必死に歯を食いしばる。


「亡き父が一文無しのあなたを救って従者にまでしたのを忘れたの?」


「いえ、忘れてませんよ。あなたのお父上はなんて馬鹿なんだと感謝してました。いつか自分の屋敷や地位も全て奪われるとも知らずに…恨むならお人好しの父親を恨むんだな」


「お父様を馬鹿にするな!」


ナディアは父を笑われてたまらずにボブロスキーに飛びかかる。


「おっと!この野蛮なお嬢さんを放り出してくれるかな?」


「はい、旦那様」


使用人達は既にボブロスキーに寝返ったのかナディアを見ようともせずにボブロスキーに頭を下げると飛びかかるナディアの腕を掴んで屋敷の外へと放り出した。


「みんな!」


「お嬢様、すみません」


門の外から声をかけるがこの屋敷に来たばかりの使用人達は顔をそらす。


お父様の代から仕える使用人は皆最近になり辞めていった。


今思えばボブロスキーになにかされていたのかもしれない。


ボブロスキーが新しく雇った使用人達とはナディアはほとんど話した事もなかった。


お父様が亡くなった時、自分が力になると一緒に泣いてくれたボブロスキーを信用して屋敷の事を任せていたのだ。


まさか屋敷を乗っ取るためだったとは考えもしなかった。


唖然として地面に座り込むナディアにボブロスキーが声をかける。


「ああ、なんにも持たせないで放り出したら世間体が悪いので少しのお金と服は用意しておいてあげましたよ」


ポンッ!


と中からナディアのカバンが落ちてきた。


中はパンパンに詰まっていいるのか膨らんでいる。


睨みつけようとするがボブロスキーはもう既にそこにはいなかった。


どうやら屋敷に入ってしまったようだ。


ナディアはここに居てもどうにもなならないとカバンを掴むと町に向かった。





「だからこれはボブロスキーがずっと企んでた事なの!お願いあの男を捕まえて!」


ナディアは町長にボブロスキーの事を訴えた。


「しかしなぁ、ボブロスキーさんの書類になんの不備もない。ナディアさんもちゃんと承諾のサインをしてあるじゃないか」


町長に渋い顔をされながら書類を見せられる。


それはボブロスキーに屋敷の管理を任せるという内容の書類だった…


キチンと読んでからサインをしたつもりだったが最後の方に全ての権利と資産をボブロスキーに譲ると書いてあったのだ。


「私、こんなの今日まで知らなかった…」


「そう言われてもな…可哀想だと思うが彼はこの町の権力者になった、私からは何もできないよ」


迷惑そうな態度にナディアはもう何を言っても無駄なのだと悟った。


重いカバンを大事そうに抱えて町をふらつく。


見慣れた町なのに初めて来た町のように一人っきりになってしまった。


町の顔見知りの町民もナディアの顔をみて目をそらす。


ナディアは誰にも助けを求められずにそっと町を出た。





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