第27話:新しい門出

 それから一週間ほど。

 百周年祭の後始末に忙しかった俺とザフラの所に、外務省に行っていたアンナも帰ってきて。

 夏季休暇を取っていた部員たちも皆戻ってくると、そろそろ帝都は秋の気配。

 異動のシーズンの初っ端、早速辞令が回ってきた。


「国土開発部”エルフの森再開発課”ねぇ。しかも、あんたが課長……出世早すぎて笑うわ」


「お前よりは遅いけど。こないだ係長になったばっかなんだけどなぁ」


 これから本当に結婚しようという俺たちを引き裂くように、それはやってくる。

 たった一枚の電報を見ながら、二人で嘆いていた。


「はぁ……寂しくなるわ……あっち行ったら会えないじゃない……」


 それなんだよなぁ。と、思わず机にへたり込む。

 来年の春からはエルフの森現地で仕事をすることが決まり、俺を指名してくれたエルノ族長には申し訳ないが、恨み節の一つくらいは言いたいもので。

 どうしようかなぁ。と嘆いていると、カンバール大臣が現れた。


「あぁザフラくん。国土交通省は移転するから心配しなくていいぞ」


「へ? 大臣?」


 フットワーク軽いなぁこの人。なんて思っていると、大臣は分厚い資料を渡してきた。


「エルフの森はまだ開発前だし立地も良いから、大規模鉄道輸送拠点ターミナルを作るんだ。そこにウチの下部組織として、鉄道局ってのが新設される。全国を飛び回る我が省にはちょうどいいし、国土交通省の本部を移転することにした。こっちの建物には各部ごと何人か残ってもらう形だな」


 全部署を自分で回り、直接説明しているらしい大臣は、スラスラと話す。

 鉄道の話は置いといて、本部が移転するってことは。


「アルと一緒に、行って良いんですか!?」


「半年後に引っ越しだ」


 素っ頓狂な声を上げて、大臣の肩を掴むザフラ。

 優しい返答を聞くと、彼女は声にならない咆哮を上げた。


「別に君たちの為じゃないがね。君たち夫婦と、国益が一致した。良かったな」


「あれ、大臣。以前の計画では三年だと」


 ザフラはさておき、俺は計画書をめくって首を傾げる。

 随分工期が短いし、予算も桁が二つほど少ない。どういうことだろうと聞いてみると。


「偉大なるハーフドラゴン様とエルノ族長が、おふたりで作ると言っていた。おめでとうアルバートくん、君が仲を取り持ったからだよ」


 あー、そういう事かぁ。確かにあの二人なら、きっとなんでも出来るんだろうな。

 罵倒し合いながら工事するおふたりを想像して、思わず笑ってしまうが。

 まぁきっと、仲良くやってくれるんだろうな。


「入札に来ていた業者は商売あがったりだがね。はっはっは」


 大臣は俺の肩を叩いて手柄を労うと、いつもの高笑いで出ていった。

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