第9話:テント村の村長

「一人で来るなら、会ってくれるって。何書いたんだ?」


「さぁね。それで君は……」


「あぁ、名乗ってなかったっけ。俺はミルカ。アルバート、改めてよろしくな」


 はぐらかして、握手を交わす。

 アンナの方をちらっと見ると、彼女は軽くうなずいた。


「じゃあミルカ、俺が話に行っている間、この子にこのテント村を案内してやってくれないか? 見せられるところだけでいいから」


「いいけど。スパイじゃねーだろうな」


「こんな女の子が?」


 珍しい小柄な鬼は、彼女には悪いが警戒されないだろう。

 ミルカはアンナをじろじろと見ると、彼女に向かって脳天気な笑顔を浮かべた。


「全然見えないわ。よし君、名前は?」


「アンナ、ですぅ」


 エルフと話すと頭痛がする、って言っていた割には頑張ってるな。偉いぞアンナ。


「アンナちゃんか。ついて来てくれ」


「はぁい。じゃあ係長、がんばってくださいねぇ」


 そんな彼女は、俺に手を振って。

 ペンと手帳を持って、大人しくミルカの後について行った。

 そして俺は、テント村の玉座へ足を踏み入れる。


「……タルヴォ」


 目深に被ったフードから、エルフらしい亜麻色の長髪が溢れる。

 形の良い唇が無愛想に動くと、彼は名前を名乗った。


「アルバートだ。お兄さんと違って、無口だな」


兄貴エルノの話は止めろ」


 握手しようと差し出した手が空振って、格好悪く引っ込める。

 メモにつられて会ってくれた割に、なかなか時間がかかりそうだ。


「それを望んだと思ったんだけどなぁ」


「度胸がある。顔を見たかっただけだ」


「エルノ族長には俺も、ケツを割られた恨みがある」


「元々割れているだろ、という話ではなくか?」


 あ、あれ? 麻薬の元締めの割に、意外とお硬いのかな。

 少しくだけた感じに接してみてもいいかもしれない。


「タルヴォさん、あまり冗談が通じないね。まぁいいや。帝国は嫌いかい?」


「好きではない。ただ、あの森を滅ぼすなら協力はできるという話だ」


 大丈夫そうだな。と分析をして。

 帰ってきた彼の言葉に、俺の目的は違うとは言いづらかった。


「……俺は捜査局の人間じゃない。敵の敵は味方、みたいな背中の取り合いは好まないよ」


「なら考えさせてくれ。来週、また来てくれないか」


「分かった。こちらも、初対面でできる話だとは思っていないよ。タルヴォさん」


 ただ、意外と好感触だったようで、正直めちゃくちゃホッとした。

 来週会う約束を取り付けてテント村を出てベンチに座っていると、しばらくして出てきたアンナが良い報告を持ってきた。


「接待に使えそうなもの、まとめてきましたよぉ」


「おー、凄いなアンナ。ありがとう」


 洗濯機、冷蔵庫といった生活家電の他に、玩具や電子楽器の項目もある。

 なるほど、”面白い”とか”楽しい”が優先してるんだな。ジェフに教えてやろう。

 そんな事を考えていると、彼女はにこにこと笑顔を向けてきた。


「えへへ。そっちはどうだったんですぅ?」


「兄貴に似てるし、少し時間がかかるかも。最悪、アンナの作ってくれたリストだけで何とかする方法も考えとく」


 機嫌よく笑ってくる彼女に、素直に進展しなかったことを告げると。


「じゃあ今日は、あたしの勝ちですねぇ!」


「……そういうのあるの?」


「んふふ~」


 すっげぇ喜んでる。まぁ、それでいいか。

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