第35話 大切な人
帰り道で散々「にゃー」「やってもたー」と叫ぶうちを優しくユウがなだめてくれながら、家に帰る。
するとおかんが帰ってきとった。
台所で晩飯の支度しとるみたい。
「あら、早かったやん二人とも」
「おかんこそ、早いやん」
「夜にまた出かけるけど。あんたらは出歩かんとうちおりよ」
「へーへー。で、今日の晩飯なんなん?」
「ビーフシチューにしたで。今週はお父さんも出張でいないし、好きなもの作ってパーッとやるんやー」
はしゃぐおかんは別におとんと仲が悪いとかやないけど。
おとんはおとんで結構口うるさいから出張の時はいつもこんな感じや。
一回二人が喧嘩しておとんがそんまま出張行ってしもた時におかんに「なんで好きなもん同士でこない喧嘩すんねん」と聞いたことがあったっけ。
そん時おかんは「好きだからこそよ」と言うてたけど。
まだうちにはわからん。
そんうち、ユウとも喧嘩ばっかするんかなあ。
なんて考えながら部屋に戻ると、ユウがまたうちの手を握る。
「なんか、地元だと窮屈だな」
「ユウ……でも、狭い部屋で二人っきりなんは嬉しいかも」
「はは、そうだな。でも、彰の件は他のやつにいうなよ。あいつなりに信用して話してくれてるだろうし」
「わーっとるって。なあ、今はあっくんの話はええやん」
「うん、そうだな。何する?」
「……ちょっと眠い」
甘えてみたい気持ちはずっとあったけど。
付き合ってから距離感ってやつがわからんまま一週間を過ごしてきたせいか、その気持ちが爆発しそうになってる。
ユウの膝をとんとんってしてから、勝手に頭をのせる。
「……膝枕って普通逆じゃね?」
「え、ええねん。うちがしてもらいたいねん」
「はいはい。京香、今日は彰の為に色々世話焼いて疲れたもんな」
「……せやから今はあっくんの話はええて。うちだけ見て?」
「京香……うん。ゆっくりしような、今日は」
「えへっ、なんや昔ユウの部屋にお泊り行ってた時思い出すわ。なんや楽しいな」
「昔の話だろ。今日はさすがに別で寝るぞ」
「わかっとるもん。おかんにあれこれ言われたないし」
「だな。向こう帰ったら自由だし、ちょっとの我慢だ」
「うん。でも今はこんまま、ね?」
「はいはい」
ユウの膝枕でしばらく落ち着いて。
そのあとおかんが「ご飯できたわよー」と呼びに来たので慌てて部屋を出る。
一緒の部屋から出てきたうちらを見て「部屋でなにしててーん?」とにやにやしながらいじってくるおかんやったけど、そんなん無視して台所へ。
今日は久々に三人で夕食となった。
「いやあ、でも二人が帰ってきてちょっとにぎやかでええなあ」
「おかん、食べたらまた飲みいくんやろ? ほどほどしときや」
「わかってるってー。でも、あんたらが大きくなるまでずっと遊べんかったし、たまにはいいやん」
「まあ別にかまんけど。おかんはいうて美人なんやし、ちょっかいかけてくる男もおるやろ」
「あはは、そっちの心配? 案外おるようでおらんって。それに、私も父さんのことが大好きなんよ。あんたらにはそう見えへんかもやけど、好きで一緒になった人が家族ん為に頑張ってくれとんのに、そない最低なことするもんかい」
「大好き……ふーん、大好きなんや」
「もちろん。京香がユウのこと、大好きなようにな」
「そ、そない話はええやん! は、はよ食べて寝るで」
「えー、もっと二人の話聞かせてえやあ」
「いやや。黙秘するで」
とは言いながらも、おかんはユウに「ねえ、どっちから告白したん?」とか「いつから好きなったん?」とか根掘り葉掘り。
ユウもユウで馬鹿正直に答えようとするからうちが「いらんこと言わんでええねん」と横やりいれて。
なんやかんや盛り上がって、楽しい夕食になった。
◇
「ふああ、なんや疲れた」
「だな、今日は移動も長かったしゆっくりしよう」
夕食を終えて片付けして。
おかんが出て行ったあと、二人でまったりテレビを見てから部屋に戻る。
今日は別々ん部屋。
まあ、同じ屋根の下やしいつでも会えるから寂しいとかはないけど。
「おやすみ、京香」
「うん、また朝起こすな」
部屋に一人で戻るとちょっと寂しい。
なんやもっと恋人ってイチャイチャしたりするもんやとばっか思ってたけど。
ユウが落ち着いてるせいかなあ。
いや、ずっと一緒すぎて新鮮味がないっちゅうのもあるな。
うーん、人の心配する前に自分の心配せなな。
明日、ちいとばっか攻めてみようかな。
なあんて。
ずっと一緒なだけで幸せやから。
でも、あっくんにも幸せが来たらええのになあ。
……せや、りこぴんにちょっとライン送ってみよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます