第45話 マリンSIDE



私は今、人生の岐路に立たされているのです。


『この王冠を捨てる事が出来るかどうか?』


これさえ捨てればゼクト様の所にいく事が出来ます。


本当に困ります。


恐らく以前のゼクト様に婚約破棄をされても私は何とも思わなかったと思います。


『顔が良いだけの貴族と同じ欲まみれの俗物』


それが私のゼクト様の昔の印象でした。


そんな方ですから、別に他の方になった所でどうとも思いません。


勇者と聞いていたから少しは期待しましたが…貴族と何も変わらない俗物にしか私には見えませんでした。


それが…一体何があったのでしょうか?


婚約の話をしにきたゼクト様はまるで別人の様でした。


何と言うか、上手く言えませんが『信念』を持っているというか…


『凛々しい』そう感じてしまいました。


王家に生まれたら『恋』なんて出来ません。


政略結婚の道具…それが王族としての贅沢な生活の代償なのかも知れません。


それに私は慣れていました。


そして、その運命を私は受け入れるつもりでした。


ですが、ゼクト様から目が離せなくなり、婚約を断れているのに心が奪われて行くのです。


『あの方でも良い』


そんな気持ちが


『あの方じゃなくちゃ駄目』


そう切り替わってしまいました。


頭の中で本当にどうして良いのか解らなくなってしまいます。


何度、王冠を捨てようとしたか解りません。


ですが…


これを捨てて良いのかは凄く悩みます。


私が今迄贅沢してこられたのは『王女』だからです。


この王冠やドレスは平民が一生働いても手にする事は出来ません。


今迄、そんな恩恵を受けて生きていた人間が、それをして良い訳がありません。


女性としてなら王冠なんて捨てるのは簡単です。


ですが『王女の義務』がそれを拒むのです。


◆◆◆


お父様に呼ばれました。


しかも謁見室にです。


これは親子の話ではなく、恐らく王としてのお話の筈です。


何かあるのでしょうか?


「よく来たな、マリンよ、これは余からお前へのお願いだ。かなり酷い内容だから、お前が嫌だと言うのであれば二度とは言わぬ、約束しよう!」


態々『よく来たな』という事は重要な話ですね。


大した話でないなら、直接私の部屋にきて話して終わりで良い筈です。


「王としての頼みであれば王女たる私が拒む理由はありません、何でもおっしゃって下さい!」


「これはあくまでも命令でなくお願いだ…申し訳ないが、その王冠を外しゼクト殿の所に嫁いで貰えないか?」


「ゼクト様の所に…でございますか?」


散々悩んでいましたのに、まさか許可をお父様かの方から頂けるなんて…


「それは王女を辞めて、ゼクト様の所に嫁いで良い、そう言う事でございますか?」


「それで間違いない…帝国の城を一人で半壊させる程の強者をそのまま放置するわけにはいかぬ。今ゼクト殿にはどの国も妻を送り込めていない。本来なら王女として嫁がせたいが、それをゼクト殿は拒んだ、この手しか余にもドーベルにも思いつかない」



これはお父様からのお願いだ。


『お願い』を聞いたから王冠を捨てた。


これなら王女としても問題ないわ。


まるで女神が急に味方になった気がして怖いですが。


これに乗らない手はありません。


「解りました!お父様、私もゼクト様をお慕いしております。喜んで嫁がせて頂きます!」


こうして私は父である国王から許可を貰いゼクト様の所に旅立ちました。









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