第29話 俺の居場所が無い街
俺がギルドに行くと大きな張り紙が貼ってあった。
『魔王との停戦による変更事項について』
何だこれ…
読んで見ると魔王からの話で、魔族側と人間側で停戦協定が結ばれる。
そう言う話だった。
マモンが魔王に英雄セレスと戦わないと進言したのが引き金でこうなったそうだ。
確かにお互いに切り札が使えないからなら、そうなっても可笑しく無いな。
問題なのは、これからは意思疎通できる魔物は狩れない。
それが大きな問題だ。
簡単に言うならゴブリンやオークは普通に狩っても換金できる。
だが、オーガ以上、要は言葉を話せる魔物は狩ってきてもお金が貰えない。
そういう内容だった。
しかも、魔物や魔族に会ったら一声掛けろとの事だ。
基本的に相手も同じなのだそうだ。
オークナイトやゴブリンナイトは話せる。
結構難しいな。
『終わった』
これによって事実上、高位冒険者の価値はほぼ無くなった。
オーガを狩れるかどうか?
そこが冒険者の境界線で、収入が一気にアップする。
それがオーガ以上の存在を狩ってもお金にならないという事は今後は高額なお金を手にする機会は無くなったという事だ。
今もギルドと冒険者で揉めている。
「なんでオークキングやオークジェネラルを狩ってきた査定が0なんだよ」
「その二種類は『話が出来ます』意思疎通が出来る以上は今回の停戦で狩ってはいけない存在になった」
「確かに、話しかけてきて、何もしないで去ろうとしたが、魔物だぜ!」
「ハァ~ 敵が襲って来なかったのに狩っちゃったんですか?降格ですね」
「そんな…」
「時代は変わったんです!それに知能の高い魔族や魔物は魔族の領地に移動中です!退避しようとしていた魔物を狩った!罰則は当たり前です」
「そんな」
こんな話ばかりだ。
もう冒険者の時代は終わりなのかも知れないな。
これじゃ大きく稼ぐ事はもう出来ないだろう。
もし、稼ぐ事が出来るとしたら竜種を狩る事が出来る存在のみだ。
竜は魔物でも魔族でも無い。
オークの上の魔物が狩れなくなり、オークの上はいきなりワイバーンになる。
ワイバーンを狩れる存在など冒険者の中にも殆ど居ない。
これは実質、冒険者の時代の終わりと言えるのかも知れない。
俺はワイバーンや地竜なら狩れる。
だが、それは多少の無理をすればだ。
今はお金も少しはある。
一旦、ジムナ村に帰るか。
母さん達が王都に居るという事は父さんはジムナ村に居る筈だ。
まぁ暫く村に帰って、ゆっくりしてから考えれば良いのだろう。
こうして俺はジムナ村に帰る事にした。
◆◆◆
久しぶりに村に帰ると様子が全く変わっていた。
なんだこれ!
見た感じは村というより少し開けた街に見える。
入口には門番が立っている。
「ようこそ!英雄セレスの街!ジムナの街へようこそ」
ジムナの街だって?
此処は村だった筈だ。
入って見て解ったが此処は間違いなくジムナ村だった場所だ。
だが、随分とひらけていた。
あぜ道だった道がしっかり舗装をされて川にはレンガで出来た橋が出来ている。
粗末な木で出来ていた建物の殆どが2階建てのレンガの家になっていた。
村ではなく、片田舎の街になっていた。
しかも…冒険者ギルドにお店まで数十件出来ていた。
なんだ!此処は?橋には『セレス大橋』と書かれ、通りには『セレス通り』と書かれていた。
そして街の中央には噴水とセレスの像があった。
俺は自分の家へ向かった。
途中、村長に会った。
「よう…ゼクト、ゼクトじゃないか?」
「ナジム村長…お久しぶりです…これは一体!」
「セレス様がな、今迄村に仕送ってくれていたのじゃ、それに『英雄』の名にあやかって街おこし、したのがあたってのう」
セレス…様。
彼奴ここでも頑張っていたのか?
「セレスが仕送りをしていたのですか!」
「そうじゃ、おかげで村は生まれ変わった。この村でセレス様に感謝しておらぬ者はおらぬよ」
「それじゃ、儂たちは、これからカフェで皆で、茶をするのじゃ…またな」
カフェ? そんな物が村に出来たのか?そう言いながらナジム村長は相談役二人と一緒に笑いながらお店の方に向かっていった。
しかし…随分と変わった物だな。
あの田舎の村が街になっている。
これもセレスのおかげか…
家に着いた。
「どうしたゼクト? そう言えば勇者辞めたんだってな?」
「あははっ、父さん俺、四天王にすら歯が立たなかった…」
「そうか…それは残念だったな…それでお前どうするんだ?」
「暫くはこの村に居て…また冒険者に戻ると思う…それで、随分寂れた感じがするがどうかしたのか?」
そう言えば、母さんはセレスと結婚していた。
まさか、父さんはセレスに母さんを売ったのか?
金なら俺の支度金がある筈だ。
何故だ。
「なぁ父さん、母さんを何で売ったんだ! 金なら俺が勇者になった時の支度金があっただろう?」
「ああっ、折角金があるのに静子が煩いからな、奴隷商に叩き売ってやったんだ! 女なんて金があれば幾らでも若い子が買えるからな!」
それで獣人の子が此処にいるのか?
俺はどうして、この父親を尊敬していたんだ。
どう考えてもクズじゃないか?
「その子、どう見ても俺より歳下だよな!」
「まぁな可愛いだろう?」
「チワと申します宜しくお願い致します」
そう挨拶したチワと名乗るその少女のお腹は明らかに大きくなっていた。
「あの、父さん、その子妊娠しているんじゃないか?」
「ああっ、そうだ…息子だから居ても良いが、出来るだけ早めに此処を出ていってくれないか? お前が居たら夜の生活が困る」
母さんを捨てて、これかよ。
クズだな…
だが、俺も似たような者だ。
父さんを責める資格は無い。
チワという少女のお腹をさすっている父さんを見た時、此処には俺の居場所が無いし、居たくない。
心からそう思った。
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