第24話 マモン襲来
「助けてくれー-っ」
「お父さん…お母さんうえぇぇぇぇぇー――ん」
「誰か、誰か妻を娘を助けてくれー―――っ」
向かった先は正は正に地獄と化していた。
周りの建物は壊され沢山の人間が下敷きになっている。
その先の土煙の先に2メートルを超える大男が暴れている。
「魔族と言うのはあれか…」
「はい」
いま、俺達を呼びに来た男が目を伏せたような気がした。
「先手、必勝…爆炎、氷結いけぇぇぇぇー――っ」
メルは賢者だ…普通は一度に一つの魔法しか使えないが、メルは二つの魔法を同時に打ち出せる。
爆発させた状態で更に凍らせる、結構えげつない魔法だ。
「それじゃリダ行くぞ」
「うぉぉぉぉー-っ斬鉄」
「これが俺の奥義、光の翼だぁぁぁぁぁぁー――」
リダが鉄すら切断する剣聖の奥義、斬鉄。
それに合わせて俺が光と聖魔法を複合させた勇者の奥義、光の翼を放つ。
沢山の敵には使えない。
だが、先手を打て、相手が単体なら必ず相手を倒せる必殺技だ。
だが、リダの様子が可笑しい。
「嘘だろう…剣が折れた」
今のリダは魔剣を持っていない。
だが剣聖は剣を選ばない。
例え安物の剣を持ってもその剣の力を目一杯引き出す。
少なくとも1度の攻撃で剣を折ることはありえない。
もし、斬鉄を使い、剣が折れたとするなら、それは鉄よりも固いという事だ。
そして、俺が放った光の翼は勇者が使う奥義の一つ、魔法で出来た大きな鳥が4枚の翼を広げ相手を斬りに行く。
がががががー-っばんっ!
大きな音を立てて光の鳥が消えた。
何かが可笑しい!
あそこに居る魔族は、並みの魔族じゃない。
土煙の中から男が顔を出した。
この顔を俺は知っている。
俺は此処に案内してきた男の方を見た。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
俺を見て狂ったように謝ってきた。
此奴は知っていて情報を教えなかったのか。
男は走って逃げていた。
名前を明かすと俺が来ない。
そう思ったんだろうな。
そしてそれは正解だ。
勇者で無くなった今、相手が此奴ならペナルティなんて気にしないで逃げる。
いや、此奴相手に戦えなんて誰も強制なんてしない。
「ようこそ!勇者ゼクト、俺の名はマモン、四天王の剛腕のマモン、さぁ殺しあおうぜ!」
「うわぁぁぁぁー―――マ、マモン」
「嫌ぁぁぁぁー――」
駄目だ、リダもメルも竜の時の恐怖が蘇っている。
駄目だ、もう満足に戦えない!
竜の時にもう二人は心が折れたのだろう。
俺ですらさっきから体が小刻みに震えている。
『怖い』『逃げ出したい』
だが、それはもう出来ない。
背を見せた瞬間に殺される。
「マリア…早くホーリーウォールを…なっ」
「たたたたたすけ…てよ、ゼクト!」
マモンはこの一瞬でマリアの後ろに回り込んでいた。
大柄なのに俺より速いのか…
マモンは杖事マリアの手を握りそのまま、マリアの両手は握りつぶされた。
「いやぁぁぁぁぁぁー―――っ、うぎゃぁぁぁぁぁー-痛い痛いー-っ」
俺はマリアを助けるためにマモンの元に走り込む。
「食らえー-っ!カイザー――スラッシュー-ッ」
嘘だろう。
剣が折れた。
「俺の体はミスリルの剣すら折れる、そんな鈍らじゃ傷すらつかないな」
今の俺には聖剣デオルフが無い。
駄目だ。
普通の鋼の剣じゃマモンは斬れない。
「ならば…」
「遅いー――っ」
マモンは俺の腕をつかむと『ただ振った』
だが、それだけの事で俺の腕は千切れ体がふっ飛ばされた。
こんな奴一体どうしろと言うんだよ。
『痛覚軽減』
俺はスキルを使い、痛みをやわらげた。
「リダ、メルー――っ! ぼうっとしないで逃げろー――っ」
「嘘嘘、いやぁぁぁぁー-っ」
駄目だ二人は動けないし、もう間に合わない。
一瞬にしてリダの両腕が握りしめられ爆ぜた。
「嫌ぁぁぁぁー――私の手が、嫌だよぉー―――っ」
この野郎、怒りの感情を抑えメルの方に向かった。
「ここここ来ないで、来ないでー―――っ」
メルの方に素早く向かい間一髪、予備の剣でマモンの拳を受け止めた。
冗談じゃない!只の拳を剣で受け止めてこれかよ!
手が痺れて大きな木が折れるような音がした。
多分腕の骨が折れた気がする。
マモンは俺に近づいてきて俺の顔を掴み持ちあげるとそのまま俺をぶん投げた。
そのままレンガでできた壁に激突した。
大きな音と共に壁が崩れ落ちた。
駄目だ。
腰を強く打ち付けたのか、もう立つ事も出来ない。
メルが殴られ動けなくなっていた。
駄目だ、このままじゃ、考えろ。
俺は良い、せめてあいつ等だけでも逃がしてやりたい。
俺は動く手でポーションを飲み立ち上がる。
だが、もう俺にやれることは無い。
「お前ら本当に勇者パーティか?弱すぎるぞ!何処かに強い奴は居ないのか?」
「俺は人類最強の勇者だ!俺を超える奴等居ない!」
もう俺達は助からない!
ならばセレスの事を言うことは無い。
彼奴迄死なせる必要は無いな。
「そうか!実につまらないな、ならば死ね!なんだお前!」
「お父さんの仇だぁぁぁー-っ」
近くの子供が石を投げていた。
「馬鹿、何やっているんだ、逃げろー――っ」
「俺は子供でも攻撃した者には容赦しない」
「お前なんか、お前なんか、セレス様が倒してくれる」
馬鹿…止めろよ…セレスを巻き込むな。
俺には解る。
幾ら彼奴でもマモンには敵わない。
「セレス? そいつは何者だ?」
「英雄だよ!竜ですら倒すんだ、お前なんか敵わない!セレス様がきっとお前を倒してくれる」
「そうか、勇者パーティは5人だったな、だったら連れて来い!そうだな、7日間此奴らを含み処刑は待ってやる!そのセレスとやらの到着を待ってやろう!ガキ命は助けてやる!その代りセレスを連れてくるように誰かに頼め!」
そう言うとマモンは俺を突き飛ばした。
もう俺には戦う力は残されていない。
無様に転がるしか無かった。
そして、三人も同じだ…
セレス、俺たちはもう駄目だ。
絶対に…来るんじゃねーぞ。
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