2 隠蔽大好き

 セシア村長とセシルは翌日ミミール村に帰ることになった。セシルは勇者として十歳から学園都市フィーロに住むことになっていたが、それまでは家で暮らしていいらしい。


「本当にいいのかい?」

「はい。俺は七歳になったら一人で生きるって決めてましたから!」

「そうかい。止めても無駄そうだね。なら、これあげるよ」


 そう言って馬車に乗っているセシア村長が窓から何かを投げてきた。俺はそれをキャッチして見る。それは紙筒だった。


「私の証書だ。しかるべきときに使うといい」

「あ、はい! ありがとうございます!」

「では、達者でな」

「ばい、ばい……ハンス」


 セシア村長とセシルを俺は見送った。幼女趣味ではないが、幼気なセシルが手を振る様は可愛かったので、心のシャッターで写真を保存しておいた。


 そして俺は一人残された。いや、やっと一人になれた! これからだ! 俺の冒険はこれから始まる!


 そうと決まれば先ずは冒険者ギルドだ!


「ごめんなさい。冒険者ギルドは10歳からなの」


 はい、出鼻くじかれたー。冒険者ギルドの受付で、妖艶なお姉さんから告げられたのは無慈悲な制約だった。仕方ない。今は一旦諦めるか。


 そもそも冒険者ギルドに入るメリットは、仕事の斡旋と冒険者ランクというネームバリューがメインだ。あとは、その人物の信頼度をギルド側が保証してくれるということもあるが、俺、別に有名になってちやほやされたいわけじゃないからなー。


 俺がやりたいのは、レベリング。俺はレベリング一筋で前世も生きてきた。ゲームの話だけど。だが、レベリングのためには魔物を倒さないといけない。とにかく町から出なければ。


「10歳までは一人での外出は認められない」


 はい、また出鼻くじかれたー。タンテの町の門番に告げられたのは残酷な制約だった。でも俺は諦めない。俺は次に自身のスキルを使うことを考えた。


 ツリーマスター。ツリーマスターってことは木でも操れるのか?そうしたら町を囲う壁を木を使って乗り越えられるかもしれん。


「………」


 木、無反応な件について。俺、かれこれ一時間ほど門から外れたところの壁近くの木に語りかけているのに反応がない。木を操れる職業ではないのか?


【名 前】ハンス・ハイルナー

【種 族】ヒト

【性 別】オス

【年 齢】7歳

【職 業】ツリーマスター

【レベル】7

【体 力】21/21

【魔 力】21/21

【攻撃力】7

【防御力】7

【知 力】7

【精神力】7

【俊敏性】7

【幸 運】7

《スキル》

 なし

《魔法》

 なし

《その他》

 ツリーポイント21p

【生命の樹】(未解放︙解放1p)

【技能の樹】(未解放︙解放1p)

【知恵の樹】(未解放︙解放1p)


 そう言えば、このツリーポイントとか【生命の樹】【技能の樹】【知恵の樹】ってなんだ?セシア村長に見せてもらったステータス欄は確か《その他》は空欄だったはず。


 俺は興味本位に【知恵の樹】をタップした。


『ツリーポイント1を消費して魔法を司る【知恵の樹】を解放しますか? はい/いいえ』


「なんだこれ?」


 魔法を司るって響きなんだそれ。面白そうじゃないか!だが、こんなの親にもセシア村長にも聞いたことがない。まぁ、解放しないと何も始まらなさそうだしな。


 ということで俺は喜々として「はい」を選んだ。


 ツリーポイント20p

【知恵の樹】

 1火(未解放︙解放1p)

 1水(未解放︙解放1p)

 1木(未解放︙解放1p)

 1土(未解放︙解放1p)

 1雷(未解放︙解放1p)

 1闇(未解放︙解放1p)

 1光(未解放︙解放1p)

 1異常(未解放︙解放1p)

 1その他(未解放︙解放1p)


「おお! なんだなんだ!」


 俺は思わず声を上げる。ゲームでたまにあるスキルツリーのように枝分かれしているそれは、男心をくすぐるものだった。


 待て。ここは慎重にいかねばならない。ひとまず他の樹も見てみるか。


 ツリーポイント20p

【生命の樹】(未解放︙解放1p)

【技能の樹】(未解放︙解放1p)

【知恵の樹】


『ツリーポイント1を消費してステータスを司る【生命の樹】を解放しますか? はい/いいえ』


 ステータスを司る……か。とりあえず今は「いいえ」で。


『ツリーポイント1を消費してスキルを司る【技能の樹】を解放しますか? はい/いいえ』


 スキル……。武器スキルとかなのか? とりあえずこれも今はパスで。


 ツリーポイント20p

【知恵の樹】

 1火(未解放︙解放1p)

 1水(未解放︙解放1p)

 1木(未解放︙解放1p)

 1土(未解放︙解放1p)

 1雷(未解放︙解放1p)

 1闇(未解放︙解放1p)

 1光(未解放︙解放1p)

 1異常(未解放︙解放1p)

 1その他(未解放︙解放1p)


 俺は【知恵の樹】とにらめっこする。レベル的にツリーポイントはレベルが一つ上がると3ポイント得られると推測できる。セシア先生に教えてもらったことだが、七歳のステータスが得られるときは皆レベル7から始まるそうだ。


 今のところ目標は町の外に出ること。レベル上げが出来なければ元も子もないからだ。そのためには10歳にならないといけない。いや、10歳であると思わせられればいい。


「あるとしたら「その他」かな……」


『ツリーポイント1を消費して【知恵の樹】の「その他」を解放しますか? はい/いいえ』


「はい」


 ツリーポイント19p

【知恵の樹】

 1その他

 2空間把握(未解放︙解放2p)

 2時間把握(未解放︙解放2p)

 2鑑定Ⅰ(名前と種族)(未解放︙解放2p)

 2隠蔽Ⅰ(名前と種族)(未解放︙解放2p)

 2武器付与Ⅰ(未解放︙解放2p)

 2防具付与Ⅰ(未解放︙解放2p)


 やはりあった! 俺は迷わず「隠蔽」を選んだ。


『ツリーポイント2を消費して【知恵の樹】の「隠蔽Ⅰ」(効果︙名前と種族を書き換える)を解放しますか?  はい/いいえ』


 今度はツリーポイント2もいるのか。でも致し方ない。俺は「はい」を選んだ。


 ツリーポイント17p

【知恵の樹】

 1その他

 2空間把握(未解放︙解放2p)

 2時間把握(未解放︙解放2p)

 2鑑定Ⅰ(名前と種族)(未解放︙解放2p)

 2隠蔽Ⅰ(名前と種族)

 3隠蔽Ⅱ(年齢と性別)(未解放︙解放3p)

 2武器付与Ⅰ(未解放︙解放2p)

 2防具付与Ⅰ(未解放︙解放2p)


 おぉ! 来た来た。年齢と性別の隠蔽。俺はすかさず選んで解放する。


 ツリーポイント14p

【知恵の樹】

 1その他

 2空間把握(未解放︙解放2p)

 2時間把握(未解放︙解放2p)

 2鑑定Ⅰ(名前と種族)(未解放︙解放2p)

 2隠蔽Ⅰ(名前と種族)

 3隠蔽Ⅱ(年齢と性別)

 4隠蔽Ⅲ(職業とレベル)(未解放︙解放5p)

 2武器付与Ⅰ(未解放︙解放2p)

 2防具付与Ⅰ(未解放︙解放2p)


 よし。これで二つ魔法を得られた。


【名 前】ハンス・ハイルナー

【種 族】ヒト

【性 別】オス

【年 齢】7歳

【職 業】ツリーマスター

【レベル】7

【体 力】21/21

【魔 力】21/21

【攻撃力】7

【防御力】7

【知 力】7

【精神力】7

【俊敏性】7

【幸 運】7

《スキル》

 なし

《魔法》

【隠蔽Ⅰ】【隠蔽Ⅱ】

《その他》

 ツリーポイント14p

【生命の樹】(未解放︙解放1p)

【技能の樹】(未解放︙解放1p)

【知恵の樹】


 ステータスにも開放した魔法が反映されている。よし、じゃあ早速隠蔽しますか!


 名前……。確かハイルナーって農民によくある名字らしいからな。うーん。名前は前世の名前からとってユーイチにするとして。まぁテキトーに異世界小説の主人公っぽい名前をつけておこう。


 種族か。この年で10歳以上とするなら話に聞いたことのあるハーフリンクにするか? ハーフリンクと人間の違いと言ったらハーフリンクは人間より身長が3/4くらいだという身体的特徴だけだったはず。もしハーフリンクで押し通すなら年齢も12歳くらいにしてもよさそうだな。性別は男のままで。


【名 前】ユーイチ・フォン・シルヴァーナ

【種 族】ハーフリンク

【性 別】オス

【年 齢】12歳

【職 業】ツリーマスター

【レベル】7

【体 力】21/21

【魔 力】21/21

【攻撃力】7

【防御力】7

【知 力】7

【精神力】7

【俊敏性】7

【幸 運】7

《スキル》

 なし

《その他》

【隠蔽Ⅰ】【隠蔽Ⅱ】

《魔法》

 ツリーポイント14p

【生命の樹】(未解放︙解放1p)

【技能の樹】(未解放︙解放1p)

【知恵の樹】


 よし。これでいくか。いや、待て。これだと魔法【隠蔽】が隠蔽できてないではないか!


 今すぐに隠蔽を強化しなければ! いや、だが、待て。序盤に隠蔽ばかりにツリーポイントを振ってもいいのだろうか。うーん。しかし、気づかれるかもしれないしな……。


 とりあえず俺はさっきの門番には顔を覚えられてそうだし、反対の北門から出ることにした。俺が恐る恐る門を通ろうとしたところ、案の定止められた。


「君、保護者は? 10歳までは外に出るには保護者か監督者が必要だ」

「俺は12歳だ」

「またまた……。ほら、ステータス確認させてもらうよ?」


 俺は緊張を隠すように堂々と振る舞ってステータスウィンドウを見せた。すると門番は奇声を上げて尻餅をついた。


 やばい、隠蔽がバレたか?


「な、ななな! シルヴァーナの王侯貴族のお方が何故ここに?」

「え?」


 え? 何の話?

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