第123話 ガキ、級友

 「つ、疲れた……」


 子供の相手は慣れていると言う自負はあったのだが、いざ子供同士でとなるとこんなにも体力を使うものか。

 まぁ実際は見た目で怖がられてばかりで誤解を解くのに必死だっただけなのだが。


 全く、誰が殺し屋だ。

 むしろ殺し屋に狙われてる方のポジションだと言うのに。


 そんなこんなで何とか友好的にと悪人面スマイルをしながら数時間過ごし、疲労困憊な状態で自室へと足を向けていた。

 そう、入学したのをきっかけに俺には生徒として自室が与えられたのだ。


 ぶっちゃけ用務員室の方が広かったりするのだが、まぁ良い。

 早くベッドにダイブしたい。

 そんな事を考えながら歩いていると、モゲチーが籠手から顔を出した。


 「お疲れですね父上」

 「まぁな……ってダメだろモゲチー。誰かに見られちまう」

 「すみません、籠手の中は暑くて」

 「そうなんだ」


 まぁモゲチーにも息抜きは必要だろう、物理的にもね。

 ってか普通は土に埋まってるはずのモゲラスッスプンチョがなんで息苦しさを感じているのだ?


 「まぁ暫くは抑えてくれ」

 「待て」

 「誰だッ!?」


 モゲチーと話しながら曲がり角を曲がる瞬間、何者かに声をかけられた。

 慌ててモゲチーを籠手にしまい直し、若干警戒しながらそちらを向くと、壁に背を預けた男子生徒2人がいた。


 「お前は……」


 片方はツンツンした赤髪で若干ヤンキーっぽい見た目の生徒、そしてもう1人は制服を改造しているのか、フードを深くまで被った生徒だった。

 その左手は何やら文字の書かれた包帯のような布に覆われている。


 フードの生徒は続けた。


 「見たぞ」

 「な、何を?」

 「隠すことは無い。貴様も……我となのだろう?」

 「……どう言うことだ」

 

 同じ?同じとは何のことだ?

 まさか……コイツも転生者なのか?

 確かにその可能性は十分にある、ここがゲームの世界であるならば俺と同じように転生し、そのメインとなるフィールド、学園に来るのもまた自然だ。


 モゲチーを下がらせたのは失策だったかもしれない。

 俺はいつでもモッちゃんを抜けるようにディメンション・ポケットの発動準備をした。


 「無駄だ、我には隠し通せんぞ」

 「……『チャージ』」

 「貴様も我と同じく邪神に魅入られた混沌の血族という事がな!!」

 「ごめん、なんだって?」

 「ふふふ、理解できぬとは言うまいな?先程その籠手に話しかけていただろう?貴様も我と同じ、邪悪なる力をその腕に封印しているのだな」

 「えっと、その、えぇ?」


 な、なんだ?何か思ってたのと違うな?

 混沌の?血族?邪悪なる力?一体何のことだ?

 いや、待てよ?もしかしてコイツ……。


 「あー、そろそろ良いか?」

 「おん?」


 何となく発動した『チャージ』を解いた所でヤンキーっぽい生徒が割って入ってきた。


 「俺はバッキャモン。自己紹介したよな」

 「おう」

 「で、こっちはドッジ、俺のダチだ」

 「友よ、それは正確では無い。正しくは『闇を司る闇黒と混沌の落とし子』だ」

 「名前に2回も闇って入ってるけど大丈夫そ?」

 「因みにドッジの魔法適性は闇じゃなくて光と水な。で、俺は火」

 「友よ、我が禁じられた力をそう易々と他人に教えるで無い」


 あっ、うん。

 この子多分ただの中二病だよこれ!!

 良かったぁ!!マジで焦ったわ!!フードを目深に被ってるから黒いローブの連中の仲間かと思ったわ!!


 それにしてもバッキャモンとドッジか……何となく名前にシンパシーを感じる二人組だな……。


 「で?俺に何か用だったのか?」

 「フッ……貴様からは我と同じ匂いがしてな」

 「あぁ、通訳すると自分と同じように手になんかつけてるし、それがカッケェから声かけたんだと」


 ……もしかしなくても俺、中二病っぽく見られてるのか?

 いやいやいやいや、確かに変な籠手とかつけてるけどさ、確かに右手に話しかけたりしてるけどさ。


 え?ちょっと不服なんですけど!!


 「禁じられた力の封印にはかなりの負荷がかかるからな……忠告しに来たと言う訳だ」

 「嘘つけお前、その包帯こないだ街で安売りされてたシャツ破って文字書いただけのやつじゃん」

 「そ、それはだな」

 「文字は自分で考えたヤツだっけ」

 「よ、良くない!!良くないよ!!この世には触っちゃ可哀想なこともあるって!!」

 「ふ、ふっ……常人には理解できんよ、これも我が孤独である所以……」

 「いや、俺たち大体一緒にいるじゃん」

 「もうやめてあげてくれ……!!」


 さっきまではちょっと不服だったがもうここまで来ると可哀想だ!!

 誰にだってあるだろ!!そう言う時期が!!


 「えっと……」

 「困惑しているようだな、だが案ずるな。危害を加えに来た訳ではない……契約に来たのだ」

 「契約?」

 「あぁ、友達になってくれってさ」

 「と、友よ……!!」

 「なんだよ、もし怖い人だったら嫌だからってついてきてって頼んだのはドッジだろ」

 「友よ……」


 うん、警戒してたのが馬鹿みたいだな。

 別に悪い子達じゃなさそうだし、クラスメイトとして今後はうまくやっていこう。


 「良いよ、改めて俺はショーワル。よろしくな、バッキャモン、ドッジ」

 「よろしくな!!」

 「ふん、契約成立だな。良い、貴様には我を真名で呼ぶ事を許そう」


 籠手と包帯で包まれた手で握手し、バカとドジ……もといバッキャモンとドッジと友達になるのであった。

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