第39話 ガキと成長

 「ショーワル!!」

 「どした?フレイ」

 「新しく魔法を使えるようになったわ!!見なさい!!」

 「どれどれ」


 早いものであれから2年の月日が経過した。

 護衛騎士として正式にフレイを守れるようになるまでは後2年ある。


 俺達は既に8歳になっていた。


 「ふっ!!」

 「おぉ!!無詠唱!!」


 フレイの成長は著しく、既に無詠唱である程度の魔法を使えるまでの腕に達していた。

 今も片手で無詠唱で氷のバラを生み出し、それをもう片手の炎で溶かしていた。


 「どう?」

 「凄い凄い!!やっぱフレイは器用だなぁ」

 「でしょ?ショーワルの生活魔法なんて目じゃないわ!!」

 「は?負けないが?今だって『サル型モンスターではもはや追いつかない、追いつかせない!!進化した最先端の生活魔法〜門外不出の秘法〜』を読んでいる途中だが?」

 「長いのよ、そのシリーズ。って言うか門外不出なら本にしちゃダメなんじゃない?」


 俺はと言えばあいも変わらず生活魔法しか使えなかった。

 それでも農家スキルやその他の武器スキルにより俺の身体はかなり強くなっていた。


 それはアホンドゥラも同様で、今や厩舎のボス馬として今日も元気に糞を撒き散らしている。


 ちまちまと料理スキルも上げているし、自身の成長にも余念はない。

 料理の味もかなり良くなっている。

 ……それは料理長が俺の作ったお菓子をこっそりフレイに与えており、フレイ直々に味の審査をされていたので間違いない。

 まぁそれは別の話。


 正直純粋なステータスだけで見れば同年代のメインキャラと遜色ないのでは無いか?

 メインキャラ達が本腰を入れて鍛え始めたらあっという間に追い抜かれてしまうレベルではあるが。


 それになりより戦技の習得だ。

 俺はこの2年で更に2つ程戦技を獲得している。


 そのうちの1つが盾の戦技、『パリィ』だ。

 これに関しては俺が盾を持ち、ひたすらにネリングさんやマガルガルドに打ち込んでもらい、やっとな事で獲得した戦技だ。

 効果は盾に触れた相手の攻撃を弾くだけのシンプルなものだが、消費SPから見れば破格の性能だ。


 そしてもう1つがナイフの戦技、『致命回避』だった。

 これは以前公爵家を襲撃したナイフの男が使っていたものと同様で、致命傷に至る攻撃を一定時間ごとに一度だけ回避できる戦技だ。

 こっちは消費SPがかなり多いが、その分有用だ。


 2年間いろいろな武器を振り回したが、獲得できたのはこの防御系の戦技2つだ。


 剣の戦技、『一刀両断』もひたすら練習し、なんとか実用可能なレベルに達している。

 これなら近い将来ザコモンスター狩りで一気にスキルレベルを稼げるかもしれない。


 まぁそんなこんなで俺だって着々と成長しているのだ。

 ……魔法の成長著しいフレイへの嫉妬とかじゃないんだからね!!いや、マジで。


 そうして俺達が庭でキャッキャと騒いでいると、遠くから見覚えのある筋肉の山が手を振りながら駆け寄ってきた。


 「息子よ!!」

 「父上!!」


 マガルガルドは俺に駆け寄ると、ありったけの力を込めて抱き締める。

 ははは、こやつめ。

 俺じゃなかったら骨の1、2本はイカれてたぞ。


 「ショーワルのお、お義父さま!!」

 「フレイお嬢様。本日もお元気そうで何よりです」

 「は、はい!!」


 む?心なしかフレイの声がうわずっているような気がするぞ?

 もしや……フレイはマッチョがタイプなんだろうか?


 「父上、今日は如何なされたのですか?」

 「うむ、これを見てくれ!!」

 「これは……『青少年武術大会』?」

 「そうだ!!行くぞ!!」

 「いや、あの……何ですかこれ」


 マガルガルドが広げて見せたのは一枚の紙。

 そこには『青少年武術大会』と書いており、参加者の名を書く欄には俺の名前が記入されていた。


 「聞いて驚け、これはな、アースランド・コアで行われる武術大会だ!!」

 「武術大会……と言うと戦う感じですか?」

 「そうだ!!何よりもこの武術大会はな、例年国王陛下もご覧になるのだ!!」

 「ご、御前試合みたいな事ですか?」

 「その通り!!さぁ!!行くぞ!!」

 「ちょ、ちょっと待ってください」


 興奮しているのか、鼻息の荒いマガルガルドに担がれて馬車に乗せられかかるが、これではあまりにも急だろう。

 仮とは言え今の俺はフレイの護衛騎士。

 そう易々と他所に出かけて剣を振るうなど許されるのだろうか。


 「なぁに、心配するな息子よ!!公爵様には既に許可を頂いている!!と言うよりも公爵様がこの話を持ってきてくれたのだ!!」

 「えぇ……」

 「さぁ行こう!!因みに開催は今日だ!!」

 「何で当日に言うんですか!!」

 「すまん!!忘れてた!!」

 「お、お義父さま!!お待ち下さい!!ショーワルは私の護衛騎士です!!怪我でもされては困ります!!」


 ナイス!!ナイスアシストだフレイ!!

 そうだよな、試合をするってことはそれすなわち怪我の危険性もついて回るものだ。

 おいそれと許可はできないだろう。


 「む?お嫌ですか?」

 「当たり前です!!」

 「ですがそうなると残念ですな」

 「何がです?」

 「私の主観も混ざりますが、息子の戦う様はとてもカッコいいと思いますが」

 「それは……!!確かに!!」

 「それに以前お嬢様をお救いした時よりももっと息子は強くなっております……見たいでしょう?我が息子の勇姿を!!」

 「見たい……!!」

 「流されないで……!!」


 俺の祈りも虚しく、フレイは自分がついていく事を条件に俺の武術大会行きを許可してしまった。


 はぁ。

 ……そんなキラキラした目で見られては断れないじゃないか。


 そうして俺はニコニコ顔で俺を見つめる2人にため息を吐きつつ、アースランド行きの馬車に揺られるのであった。

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