【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?!

as

第1話この時を待ってました!

「アーシアのような意地悪で優しさの欠けらも無い女と結婚しなきゃいけないなんてお先真っ暗だ。」


私の悪口を言っているのはドォルド公爵令息カルゼ。


ちなみに私の婚約者です。


申し遅れました。


私はラゼントリオ伯爵家の次女アーシアと申します。


現在トラットリア王立学園の特別食堂Aの扉前にてお送りしています。


そして中では婚約者が私の悪口をお仲間に愚痴り中。


お仲間の中にはなんとトラットリア王国の第二王子もいる。


何故わかるかって?


特別食堂って個室になっててAからHまであるの。


Aが一番豪華で王宮の貴賓室並み。


H位になると最低限の設備があるってだけだから、お金さえ払えば誰でも使える。


今は学園に第二王子がいるので特別食堂Aは王子専用なのよ。


だから王子もいるし、王子とカルゼのお気に入りシフォンもいるんだろう。


シフォン・ハウゼン男爵令嬢。


ピンクブロンドの髪と深い青の瞳の可愛らしい少女で、男女問わず大人気。


普通だったら女性には嫌われそうだけど、あの可愛らしい顔なら可愛い物好きの女性に好かれるのもわかる。うん。


かくいう私も可愛いものは好きだ。


なのでシフォンも嫌いでは無い。(ついでにシフォンケーキも大好き♡)


今はそれはどうでもいい。


大事なのはカルゼが私と結婚したくないと言った事だ。


薄々知っていたけど、態度に出されるだけなのと、第三者が聞いている所で結婚が嫌だと言うのでは大きな差がある。


政略結婚が当たり前の貴族でも表面上は取り繕わなければならないのに、はっきり言ってくれました!


普通の婚約者ならこんな悪口を聞いたら逃げ出すだろうが、私は違う。


呼吸を落ち着かせ特A(特別食堂A)をノックする。


中から「どうぞ~」と言ってくるので遠慮なく入らせて貰った。


「失礼致します。」


私が中に入ると思っていた人物と違っていたからか皆が驚いていた。


ですよね~。

あの言い方からして給仕か誰かと間違えたよね。


知ってました!

それでもこの好機を逃しては商売上手、守銭奴、冷酷と言われているラゼントリオの名が泣く!!


一番驚いてるの、私の婚約者。


さっきまで悪口言ってたもんね。

そりゃ動揺するわ。


カルゼは音を立てて椅子から立ち上がり、私の側まで急いできた。


「アーシア、何か用か?」


用がなきゃ誰が特Aなんて入るか!


突っ込みたいが我慢だ。

今は勝負の時。


「先程この扉の前を通ろうとしたらカルゼの声が聞こえて来て⋯」


ちょっとためる。

皆さんの顔色が変わりましたね。


わかりますよ。

あなた達カルゼを窘めもせずに聞いてましたもんね。


「私と結婚したくないって⋯」


ハンカチを取り出し斜め下に向いて髪で表情が隠れるように。


商談で有利に運ぶ為に劇団の指導を受けといて良かった。


女優でも食べて行けるかも。


「いや、あれは違うんだ。」


何も違わないでしょうが。


「でもはっきり聞こえたんです!

『アーシアのような意地悪で優しさの欠けらも無い女と結婚しなきゃいけないなんてお先真っ暗だ。』って。」


どうよ、私の記憶力。


「いや、だから⋯」


ここは畳み掛けたろ。


「わかっています。

私のような意地悪で冷たい女がカルゼの婚約者だなんて分不相応だって。

それなのにいつまでも婚約者で居てごめんなさい。

ずっと我慢させてばかりでどうお詫びすれば!」


「だから違うって!」


カルゼは私の肩を掴んで嘆き節を止めてきた。


ちょっ、痛いんですけど!

あんたに本気で掴まれたら骨が折れる!!


「あぁ!」


痛みに耐えられず声を出してしまったけど、淑女の声になってたよね。


「姉上を離せ!」


カルゼがハッとして肩から手を離したのと、私とカルゼの間に深緑色の髪の男が割って入ったのは同時だった。


「シア、ごめんっ!」


力加減を調節出来ないほど焦るなんて珍しいけど、これも使わせてもらいましょう。


「姉上大丈夫ですか?」


助けてくれたのはありがたいけど、今が私のターニングポイント。


こいつの弱みは私の強み!


わかった?!


私は全ての気持ちを金茶の瞳に乗せて一つ下の弟アジスを見た。


アイコンタクトは通じたようでアジスは真っ青な顔で了解と黄緑の瞳で言ってきた。


よし、いい子。


演技再開といきましょう。


「カルゼにこんな酷い真似をさせるのも私のせいですね。今まで縛り付けてしまったけど婚約を解消しましょう。」


「どうしてそうなるんだ!」


どうしても何もあんたが言ったんじゃない。


ここはやっぱり権力者の一声が欲しい。


ここにいる第二王子と騎士団長子息シリルも巻き込んだろ。


「殿下もシリル様も聞いておられましたよね。

私と結婚したらお先真っ暗だって!」


二人はビクッと体を揺らして見つめあっている。


そっちの趣味もあったの、第二王子。


「いや、あれは⋯」

「言っていたような、なかったような⋯」


濁して逃げようたってそうは問屋が卸さない。


「殿下もシリル様もそう思ったから、否定しなかったんですよね!」


早く言ったって認めないともっと攻撃しちゃうぞ🎵


「殿下もシリル様も私のーー」


「言っていた。確かに意地悪で冷たい性悪女だって言ってた!!」


王子、性悪女は言ってませんでしたよ。


後で覚えておいて下さいね。


シリルをチロリと見ると高速で頷いた。


よっしゃ!

そろそろ締めたろ。


「やっぱり私の幻聴ではなかったんですね。

カルゼ、今までありがとうございました。

どうか私以外・・・の人と幸せになって下さい。」


そして私は退場。


「シア!」


カルゼの悲鳴が聞こえたけど、放っておこう。


私にはまだやるべき事が残っている。


そのまま下駄箱に行き靴を履き替えて学園を出た。


辻馬車を拾ってラゼントリオ邸まで帰る。


お昼過ぎに帰ってきた私を執事長が驚いて急ぎ足で近くまで来た。


「お嬢様、体調でも崩しましたか?

それとも食べ過ぎですか?」


食べ過ぎで早退なんてしないわ!


「お父様とお母様に大至急会いたいの!

邸にいる?」


私の剣幕に若干引いてるけどスルーしよ。


「奥様は中庭で食後のお茶を召し上がっておられます。

旦那様は商談で18時にお戻りになられると。」


「ありがとう!」


まずはお母様に報告しなきゃ。


中庭ではミルクブラウンの髪を結わず、風に靡かせた年齢不詳の美女が優雅にお茶を楽しんでいた。


「お母様!」


私を見た母は驚いて金茶の瞳を丸くしている。


「まあ、どうしたの?

食べ過ぎてお腹が痛くなったの?

エリー、お医者様を呼んで。

ケリー、お腹に乗せる湯たんぽを用意して。」


お母様といい執事長といい、何故食べ過ぎなのよ。


それは子供の頃の話でしょ!


「お母様、食べ過ぎじゃないわよ。

お昼ご飯まだ食べてないし。」


それを聞いたお母様の目が更に見開いた。


「どうしたの?貴女がご飯を食べないなんて!

何があったの?!」


そんな悲鳴のような声を出さないで。


私が食い意地が張ってるみたいじゃない。


でもこれで本題に入れる。


「それが、」


「その前にご飯を食べなさい。

エリー、シアのお昼ご飯を持ってきて。

ケリーは食後のお茶とお菓子をお願い。」


⋯お母様、ご飯から離れてよ。




仕方なく先にご飯を食べて、食後のシュークリームと紅茶を頂いた。


今日のシュークリームは中のクリームがピスタチオクリームでコクのあるクリームがたまらない!

3つ食べて満足した私をお母様がニコニコと笑顔で見ていた。


お母様ってお父様や子供が食べてる姿をいつも笑顔で見てるのよね。


食べられるのは元気な証拠だとか言って。


お母様のお姉様が病弱で14才になる前にお亡くなりになったから、仕方ないのかも。


「それでご飯も食べずに帰ってきたのはどうして?」


心配そうなお顔に戻っちゃった。


うーん、何処かで時間を潰してから帰ってきた方が良かったかも。


でも早く報告したかったし。


お母様に今日食堂でカルゼに言われた私と結婚したらお先真っ暗発言を報告した。


そして最後まで聞いたお母様は⋯失神してしまった。


何故に?




「何故に?ではないわ!

アリシアは繊細なんだ。

そんな話をしたら倒れるに決まっておるだろうが!!」


お母様命のお父様から雷が落ちた。


お母様気絶を聞いたお父様は商談をキャンセルして急いで帰宅し、お母様の手を握り泣きながらお母様の名前を呼んでいた。


危篤じゃなくて失神なんだけど。


そして目を覚ましたお母様が私の話をリプレイ。


お父様の書斎に呼ばれお説教中。


お母様がノミの心臓だって事を忘れてた私も悪いけど、婚約解消くらいでぶっ倒れないで欲しい。


「ノミではない。

アリーの心臓は桃だ。

柔らかく少しの衝撃でも傷つく繊細でいい匂いがする。」


匂ったことあるんかい!


我が父ながらお母様が絡むと気持ち悪いな。


普段は冷徹で容赦のない緑の悪魔と言われているのに、お母様にはポンコツポエム男になる。


しかも表現がおかしい。


スルーして本題に入ろう。


「それで婚約は解消出来ますか?」


「ん?ああ、できる。

政略ではあるが別にそれ程利益のある話でもなかったしな。

向こうが嫌がっているし、第二王子と騎士団長の息子が証人なんだ。

大丈夫だろう。」


「では任せても?」


「構わん。」


「お願いします。」


お父様は話が終わった瞬間にお母様の元にすっ飛んで行った。


ここ、お父様の書斎でしょ。


主が先に出ていかないでよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る