Chapter 1-4

 轟棋ごうきが目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。


「ここは……」

「おっ、目ぇ覚めたか」


 布団わきに座っていた京太きょうたは、轟棋が起きるのに気付くと笑みを浮かべる。


「あんた……。なにが、どうなって……」

「覚えてねぇか? あの天苗黄泉あまなえ よみって野郎とは仕切り直しになった。したら気が抜けちまったのか、お前は気ぃ失っちまったからウチに連れてきたのよ」


 あのあと、京太が拳を下ろすと、黄泉は悠々とその場から立ち去って行った。

 それから轟棋だけではなく、健司けんじや他のメンバーたちも運んで京太たちは屋敷に戻ってきた。


 もう少し休んでな、と促して京太は立ち上がる。


「すまん、扇空寺せんくうじ

「京太でいいぜ。なんなら、アニキとか呼んでくれてもいいし」

「……いや、あんたは俺の兄貴じゃないだろう」


 ………………。


「冗談に決まってんだろ。意外と天然かよ」

「??????」

「ウチのもんを一人付けといてやるから、腹が減ったらそいつに言ってくれ。用意するように言っといてやるよ」


 それだけを言い残して部屋から出ると、外には割烹着姿の少女が控えていた。


「悪い、こっちは頼む」

「かしこまりました、若様」


 次に京太が向かったのは、大広間だった。近づくほどに大きくなる喧噪けんそう

 ふすまを開くと、中では大勢の強面たちが我先にと鍋をつついていた。


 京太は大きく息を吸って口を開く。


「よし、やってるなお前ら! しっかり食って気合入れろ!!」

「ウス!! 男、上げさせていただきやす!!」


 声を揃えて返ってきた返事に、京太は頷き、小上がりにある自分の席に着く。


「若、火つけます」

「おう」


 京太の鍋になつめが火をつける。ぐつぐつと煮立っていき、すき焼きの肉に火が入る。


「さーさー、ほーれ、お肉でい。おー、食いねぇ食いねぇ、どんどん食いねぇー」


 声の方を見ると、そらが肉の追加を配りながらあおり倒していた。なにやってんのあいつ。

 ふと目が合うと、にへらと笑みを浮かべてきたので、笑い返してやった。


「棗、紗悠里には吉田よしだたちを任せてきたからな。今日はお前が側近頭だ。やれるな?」

「押忍。もちろんっすよ」

「うっし、お前もしっかり食っとけよ」


 肉がいい色になってきたところで、京太は箸を取って鍋に手を付けた。

 どんどん皿に取って、どんどん口に運んでいく。


「わ、若、がっつきすぎじゃねぇっすか」

「うっせ。こっちはいいようにやられてムカついてんだよ。がっつかずにいられるかってんだ」


 どんどんと飯をかきこんでいく京太を見て、棗も負けじと食べ始める。


 やがて食べ終えた者から広間を出ていく。

 京太も完食すると、身支度のために広間をあとにする。


 歯を磨き、髪を整えて着替える。袖を通したのは赤みがかった黒い着物だ。

 帯を巻き終え、離れへ向かう。外はもう、完全に夜のとばりが降りていた。


 離れは道場となっており、京太は礼をして中に入る。

 この道場で、京太は今は亡き祖父によってきたえ上げられた。思い返すと厳しい日々だったが、今となっては感謝しかない。


 道場の奥には大振りの刀が一本、飾られていた。京太はそれを手に取る。


「行くぜ、相棒」


 それは京太の身の丈をはるかに凌ぐ大太刀だ。それを片手で持ち上げ、腰にいた。


 準備を終えて道場から出ると、外には強面たちが整列して佇んでいた。

 その先頭に立つ棗が、京太に外套を着せる。背には一文字、「龍」の字が刻まれていた。


「若、お願いします」


 棗に促され、京太は口を開く。


「全員、いい面してるじゃねぇか。気後れしてるヤツがいねぇなら問題はねぇ。行くぜてめぇら! 討ち入りだ!!」


 拳を振り上げた男たちの雄叫びが、夜空にごうと響き渡った。

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