12. 一難去って、また

「ねぇ、パクはどこ?」

「くっ……教えるわけないでしょ!!」

 まだ意識のある女を見下ろす。マント勢に性差は無いらしい。フードと口隠しで分からなかったが、よくやるものだと思う。

 アクールは剣の柄部分で鳩尾をつつく。女は痛みに顔を歪めた。

「そもそも、お前らはなぜドールを回収している?」

 場違いにも感ぜられる冷静な声に、アクールが、そして女ですら戸惑ったようにクリスを見上げた。けれどすぐにキッと眉を吊り上げる。

「単純に利用するためよ。それ以上を教える義理があって?」

「利用? なぜ? どうやって? ドールが持ち主の手を離れて他者に従うことは考えられない」

「な、何よアンタ、気持ち悪い……」

「それには私も同感だわ」

 アクールが肩を竦める。が、尋問を止めることは無かった。

 上手くすれば、何かを聞き出せるかもしれない。

「話せ。ドールを無理に労働力にでもするのか? それとも、従わせる方法があるのか? グラシアではそんな事聞いたことがない」

「あぁぁそうよ! そうです! ドールを持ち主と切り離す方法があるのよ! これで満足!?」

「何だって?」

 ヤケクソに放たれた言葉に。ショウが驚き、クリスも動きを止めた。尋問が止んだことに女は息を吐く。

 ドールと持ち主を切り離す、方法。そんなものがあるのか。グラシアには無い。当然だ。グラシアでドールを切り離そうなんて考える輩はいない。彼らは。敵は。赤マントや青マントは。

(グラシア国民よりドールに詳しい。別方面で)

 これは、貴重な情報源なのではないか。

「アクール」

「え、は? パク!?」

 その時、薄暗い廊下の奥から歩いてくる影があった。屍の如く積み上がる意識不明の青マントを乗り越え、音もなく。それは紛れもなくパクだった。

 唐突な救出対象にアクールが目を白黒させている。感動も何も無い。

「あ、アンタ捕まってんじゃなかったの!?」

「捕まってた。けど、自分で出てきた。見張りや中の人間、全部眠らせて」

 キラリ。光るのは針のついたかぎ爪。

「はーーっ!?」と、再び少女の叫びがこだました。

「じゃあ私たち助けに来なくて良かったじゃない! パクって本当、流石っていうか……呆れるわ」

 体全身から力が抜ける。心なしか、金色の長いポニーテールまで一緒に項垂れていた。その様子を見ていたクリスが、「良かったな、無事で」と声を掛けると、アクールは顔を赤くした。

「べ、別に心配なんてしてなかったわよ!」

 クリスから目を逸らす。するとその先に、パクがいて。アクールは気まずそうな顔をした。無口な少女ドールは、持ち主を不思議そうな目で見つめる。

「……アンタが捕まったの、私を庇ったからよね」

 ぼそり、と。

 そう。屋上のあの時。視界の端に青マントを見た。彼らは、ドールより先に持ち主を襲おうとして、それでパクが、目の前で交戦してくれたのだった。

「別に庇ったつもりはない。ドールだから、当然」

「そ、それでも私はねぇ……!」

「うん。ありがとうアクール」

 素直な言葉は、アクールを固めてしまった。数回口をぱくぱくさせて。頬を染めて、唇を尖らせて。顔だけでじたばた照れを逃がした後に。

 ふんっとまたそっぽを向いてしまった。パクは肩をすくめる。

「本当、素直じゃない」

「うっさいわね!!」

 クリスは息を吐く。ひとまず、これで解決だろうか。パクの話を聞く限り、中にいる人間はほぼ眠っていると言っていい。後は落ち着いて、このコンテナから出ることが出来れば……。

 そう、考えた時だった。


 ガタン! と突然機体が揺れたのは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る