第4話長い付き合い

石田三成「確かに私は嫌われ者である。それは十分に理解している。その原因も存じておる。相手の立場も弁えず、直言し続けているからである。故に私は命を狙われた。前田利家と言う後ろ盾を失うと同時に。しかし私の立場もわかってくれ。太閤殿下が仰った事をそのまま伝えるわけにはいかないのだから。わかるだろ?私なりに咀嚼し、大丈夫な形にして述べて来たまでの事。それがわからないあいつらでは無いハズ。


……と思っていたのだが。


 ただそんな私であるが、皆が皆。私の事を嫌っているわけでは無い。家臣は頼りになる。


『金で繋がっているだけの関係だろ?』


否定はしない。だがもしそれだけだったら渡辺勘兵衛はどうであろう?私がまだ500石の小姓であった時、500石で以て雇い入れた家臣である。他所からは2万石の話も舞い込んでいた彼が、わずか500石しか出す事が出来ない私の所に来てくれた。私が100万石になった暁には10万石を与える約束を取り交わしているのだが。当然、100万石など遠く実現不可能な話。にも関わらず私について来てくれた。今私は蟄居の身ではあるが、20万石近い所領を得ている。当然、加増の話をした。しかし彼は拒絶した。


『殿はまだ100万石取りになっていないのでありますから。』


と……。


 私を嫌っていない人物は他にも居る。慕われているかどうかの自信は今は無い。たぶんであるが、大名層とは折り合いが付いていないかもしれない。がしかし、実際に領国の運営をしている家老連中とは仲良くする事が出来ている。私が太閤殿下からどのような命令を下されているかを各々の主君から身を以て体験しているからであろう。特に昵懇にしているのが、今は米沢に居る直江兼続だ。


 彼との付き合いは古い。亡き太閤殿下が柴田勝家に勝利を収めた際、景勝と講和を結ぶ事になった。その交渉の任にあたったのが私と直江兼続。つい先日まで信長様と対立していた事もあり、なかなか警戒心を解く事の無かった景勝に


『何も気にする事はありません。護衛など必要ありません。そうすれば、決して秀吉はあなた様を蔑ろには致しません。』


と説得。実現させるまでの難しい過程を共同で成し遂げてから、お互い。腹を割って話し合う事の出来る仲になった。


 そのような人物は他にも居る。ただ伊集院忠棟を始め、主君の猜疑心により命を失った者。冷や飯を食わされている者も居る。人の苦労も知らずに……。


 そして今、上杉景勝も苦境に立たされている。しかしそれは兼続の狙いでもある。」

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