第6話 〇〇しないと出られないドア!

「それではテストを返していくぞ。呼ばれた者は前に出なさい」

(あー、テストの返却かー。今回何点だったかなー?)

「東京太郎くん! 100点だ。よくがんばった!」

「わーい☆! ありがとうございます!」

(あっ! さすが太郎くん! すごぉーい!)

「北海道くん」

「はーい!」


 ハナコが先生の前に立つと、先生が鞭を構えた。


「君はいつになったら良い点数を取るのかね。たるんでる! そこに手をついておしりを向けなさい!」

「えー!? どうしてですか!? 先生!」

「どうしても何も理由はひとつ! 君の成績が今回も0点だったからだ!」

「まーあ! 聞きましたこと!? サチコさん! ハナコったらまた0点なんですって!」

「ネタもいい加減にしやがれ! ハナコぉ!」


 教室内で笑い声が響き渡り、ハナコがショックを受けた。


(た、太郎くんは笑ってないよね!?)

「0点だなんて、ハナコちゃんはあいかわらずお茶目さんだな☆ はっはっはっはっはっ!!」

(ちょー爆笑されちゃったー!!)


 放課後、さんぽセルを引きずらせてハナコが家に飛び込んできた。


「あーん! ドジえもーん!」

「どうしたんだい。ハナコちゃん」

「またテストで0点取って、太郎くんに笑われちゃったよー! あーん! あーん!」

「それは勉強しねえお前が悪いだろ」

「わたし、きょうから変わる!」


 ハナコがハチマキを巻いた。


「勉強して、太郎くんに似合う女の子になるんだから!」

「おう。がんばれー」

「やってやる!」


 しかし、1分後、ハナコは部屋の漫画を見ていた。


「はー。やっぱりおとつみおもしろーい」

「こら! ハナコ! 勉強するんじゃなかったのかよ!」

「ち、ちがうよ! ちょっと休憩してたの! よーし、がんばるぞー!」


 しかし、1分後、ハナコは自由帳に絵を描いていた。


「ふんふんふーん♪」

「だめだ。こりゃ」

「あっ! もうこんな時間! 夕方のアニメがはじまる時間だわ!」

「お前、そんなんだからいつまで経っても0点取るんだぞ」

「だってわたしのおへや、いっぱい好きなものが置かれてるんだもん。集中もできないよ。そうだ! ドジえもん! 集中できるおへやの道具とかないの?」

「なんだよ。集中できる部屋の道具って……あ……そういえば最近買ったやつで……」


 たららら、ららら、ごまだれー!


「〇〇しないと出られないドアー!」

「○○しないと出られないドアー? なーに? それ?」

「このドアを壁に貼り付けたら異空間に部屋が現れてだな、○○の部分を設定して、それをしない限りこのドアから出られなくなるっていう道具だ」

「あ! それなら宿題もできそうだね! さっそくつかわせてよ!」

「じゃあ、まずはあまり無理しないように宿題しないと出られない部屋っていう設定でやるぞ。ほら、どうぞ」

「おじゃましまーす!」


 ハナコがドアを開けると、真っ白な部屋が現れた。


「わー! ひろーい! あれ!? 家具も付いてるー!」

「設定に因んだ家具をAIが自動で用意してくれるんだよ。あとは好きにやれ」

「はーい!」


 そして5分後。ハナコが部屋から出てきた。


「ドジえもん! 宿題終わったよー!」

「おう。そうか。偉いぞ。ハナコ」

「これならいくらでも勉強できるね!」

「だけど無理な設定はよくねえから、最初はドリル1ページとかにしておけ。お前どうせ100ページとか設定して出られなくなるのがオチなんだから」

「そんなことないよぉー!」


 その時、お父さんが一階からハナコを呼んだ。


「ハナコー。チヨコちゃんとサチコちゃんが来てるぞー」

「あれー? なんの用事だろー?」


 ハナコが玄関に行くと、二人が待ち構えていた。


「ごきげんよう! ハナコ! あそびに誘ってあげにきましたわよ! あっ! それとも宿題がまだでしたかしら!? おっほっほっほっ!」

「ううん。もう宿題はおわったからあそべるよー」

「え? あら……そうでしたの? ハナコが、宿題を?」

「ドジえもんがすごい道具出してくれたの! あ、二人とも見ていく?」

「え! いいの? ぜひ見たいわ!」

「うん! 上においでよ!」


 というわけでハナコが二人を連れて壁に貼り付けたドアを見せた。


「〇〇を設定するとね、その○○をしないとへやから出られないんだって!」

「おもしろそうですわ! わたくしも入りたい!」

「いいよー」

「やった! それじゃあね! わたくしは……!」


 チヨコが設定した。一回ジャンプしないと出られない部屋。三人が中に入った。一回ジャンプした。出られた。


「すごい! おもしろいですわ!」

「どんどんやってこ!」

(ガキはなんでもオモチャに出来るからすげーよなー。サチコも楽しそうだし……あ、虫)


 ドジえもんが一瞬、目を逸らしたその瞬間、サチコが躊躇なく動いた。高速で設定を入力し、ハナコを引っ張った。ドアが閉められた。


「あら、サチコさんとハナコったら!」

(ん?)

「わたくしがまだ入っておりませんわよー!」


 ドアを引っ張るが開かない。


「わたくしも入れてよー!」

(なんだ? すげー嫌な予感が……)


 ドジえもんが設定画面を確認した。ディープキスしないと出られない部屋。


「ドジっちまったぜーーーー!!!」

「ぴゃぁあああ!」


 アダルティなピンク部屋の中で木刀を構えて近づいてくるサチコから、ハナコが泣きながら逃げていく。


「こわいよぉ! ごめんなさい! ごめんなさーい!」

「ハナコぉ……! 楽しもうぜぇ……!」

「いやああああ!」


 ハナコが前方に気付いた。


「あ! もう逃げ場がない!」

「おらぁあああ!!」

「きゃああああ!!」


 サチコがハナコを両腕に抱え、ベッドに投げ込んだ。パニック状態のハナコの上に鼻息の荒いサチコが覆い被さり、ハナコが我に返り、逃げようとベッドを這いずるが、スカートを引っ張られ、位置を戻される。


「ひぃ! ゆるして! ゆるしてください!」


 ついでに思いきりスカートをめくられる。なるほど。きょうはネコちゃんぱんつか。


「きゃー!」

「ハナコぉ……」

「ごめんなさーい! なんかわかんないけど、ごめんなさーい!」


 邪魔者はいない。誰も来ない。この空間では、ハナコと自分の二人だけ。なんて興奮する夢の世界。サチコの純愛性欲ボルテージは既にMAXを超えていた。


「ハナコぉ……! 歯ぁ食いしばれぇ!」

「いやーーーーー!!」

「ぜってーキスだけで終わらねーーー!」


 青い顔のドジえもんがドアの解体工事を始めた。


「早くこのドアなんとかしねーとハナコの処女喪失の歴史が変わっちまう! くそー! サチコのちくしょうから目を離すなんて……ドジっちまったぜ!」

「ドジえもん、わたくしヒマだからなにかおもしろい道具出しなさい」

「うるせー! あとで好きなだけ出してやるからお前も手伝いやがれー!!」

(た……たすけて……ドジえもん……)


 ハナコが血の気を引かせ、体を震わせながらひたすら頭の中で叫ぶ。


(わたし……サチコさんに抱きしめ潰されちゃうよ……)


 無言のサチコがハナコを潰す勢いで抱き締めている。


(このまま腕力でわたしをぼきってやるのかな。こわいよぉ! こわいよぉ!)

「……おら、こっち向け……」

「あっ……!」


 無理矢理顔を向かせられる。


「さ、サチコさん……」

「黙らねえと痛い目に遭わせるぞ」

「……ん……」


 怯えるハナコが口を閉ざした。その唇が……まあなんというぷにぷに唇。思わずサチコが――見惚れて動けなくなる。涙目の上目遣い。逃げ走ったことにより荒くなった呼吸。自分を見つめてくるハナコ。邪魔者はいない。顔が近づく。楽しみは最後に取っておこう。まずは額にキスをした。


「んっ!」


 頬にキスをした。


「ん、んん……」


 瞼や鼻、耳にすると、ハナコが体をよじらせた。


「……くすぐっ……たいよぅ……」


 首にキスをすると、ハナコの肩がびくっと揺れた。


「ふぅん……!」

「っ」

「さ、サチコさん……やめてよぉ……!」


 そんな煽るような声で言われたら、止まらなくなってしまう。ハナコの腿を欲望だらけの手で撫でると、ハナコがまたびくびくっと反応する。それが可愛い。もう一度見たくて、何度も何度も撫でていると、ハナコの呼吸がおかしくなってきた。


「はぁ……サチコさん……わたし……おかしな気分だよぉ……」

「……。……。……」

「くすぐったいよぅ……なんか……むずむずするよぅ……」

「……っ」

「んむっ!」


 耐えられなくなったサチコが唇を重ね、抵抗できないハナコはそれを受け入れるしかない。中では、お互いの舌が激しく絡み合っていた。


(な、なんか……いつもより、激しいよぅ……!)

(……)

(サチコさんの舌……あつい……)

(………………………)

「あっ……!」


 サチコの手がハナコの服のボタンを外した。それを見たハナコがはっと頬を赤らめる。


「さ、サチコさん、だめ! きょうわたし……!」


 サチコがはっとした。ボタンを脱がした先には――。


「み、見ちゃいやぁ……!」


 成長期の胸を隠すため、猫柄のスポーツブラが着用されていた。


「……」

「は……恥ずかしいよぅ……!」

「………………」


 その瞬間、サチコの脳内で会議が開かれた。この成長したての胸を隠すスポーツブラを外した先に存在する乳首は、果たして何色なのか。肌色なのか、それとも黒ずんでいるのか、それとも――ピンク色なのか……。将来の嫁の色なら……今、確認したって良いではないか!


 サチコの手がぐわっと開かれた――直後、


「こらぁーー! このエロガキー!!」


 ドジえもんがぴこぴこ音が鳴るハリセンを取り出し、サチコの頭をぶっ叩いた。それを見たハナコが涙目で叫んだ。


「あ! あれは怪獣の被り物を被ったふしぎな女の子! ドジえもーん!」

「……」

「サチコ! お前があたしを睨む筋合いないからな! よくもやりやがったな! この野郎! 人がドジして目を離してる隙に! 珍しく良い子にしてると思ったら、この時代からとんでもねえ女だよ! お前は!!」


 ドジえもんがサチコの首根っこを引っ張った。


「来い!! こっちで説教してやる!」

「まあ! かわいいお部屋! なにここ!」

「わあっ」

「まあ! かわいいベッドが! まわってるわ!」

「なにこれ! すごーい!」

「あん! ハナコばっかりずるい! わたくしも乗るー!」


 アダルティ部屋で遊ぶハナコとチヨコを置いて、サチコを正座させたドジえもんが目を吊り上げさせ、説教を始めるのだった。





「……次は下着脱がないと出られない部屋に設定してやる……」

「お前、あたしの耳をなめるなよ? 聞いたからな? まじで、サチコ、もう絶対あの道具、お前には貸さねえからな?」

「……」

「睨んでもだめ!」


 サチコがむすっ! と頬を膨らませた。



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