第7話  おじさんはサラのパパ?

「て感じ」とあたしは退院のための荷物の準備をしている智に全てを話した。

まだ退院の日取りが決まったわけではないけれど、間近と言う感じ。

「ねえ、どうしたらいいと思う」

智はかたずけの手を止めて、あたしの顔を見つめる。

「嫌、ここまできたらサラちゃんがどうしたいかだろう」

「うん、そうなんだよね」

「でも、お前良いやつだな」

「何それ」

「だってわざわざ行ってきたんだろう」

「うん、だってほっとけなくて」

「そうだよな」

そこで話は終わった。

結局はサラがどうしたいかなんだ、あたし達がどうにか出来るということではない。


サラの帰国が1ヶ月後に迫ったある日、一人の患者が担ぎ込まれた。

駅の階段から落ちて足首を複雑骨折したおじさんだった。

担ぎ込まれた時は意識不明、酸素吸入をしていた。

骨折ってこんなに大変なんだと思った。

智にそんな話をすると、

「痛いんだよ、最初は俺も吸入していたよ」

と大仰にいってくる。

そしてあたしは冷めたように、

「そうなんだ」と答える。

するとそんなあたしの反応が不満だったのか、

「考えてみてよタンスの角に脛ぶつけたって相当痛いだろう、それが骨折するくらい強くいぶつけるんだ」とさらに大仰にいってくる。

仕方がないなと思いつつ、はたと考える。

ちょっと想像してみる。

「確かにそれは痛いわ」あたしは智の心配よりも感心してしまった。

三日ほどでオジサンは集中治療室から一般病棟に移って来た。

なんと智の横のベッドにだ。

おじさんは釣られた足で智に挨拶をした。

他が元気なのに、足だけが動かないう智と全く同じ状態のせいか、智とおじさんは馬があったのかすぐに打ち解けた。


おじさんは奥さんと娘さんの3人家族だった。

奥さんは、はじめのうちは毎日来ていて、果物なんかのお裾分けをもらったりしたが、娘はたまにという感じだった。

まあ無理もない、この年頃は父親を避けるもんだ。

その延長線上で、娘は私たちに極力接触しないようにしていたように見える。

それは父親に接たくないので、その関係者である私たちとも関係したくないのか、余計な人とは関係をもちたくないのか分からなかった。

その分奥さんは気さくで、あたしに話しかけてきたりした。

でもその時に気づいた。

この人はサラから教えてもらった、住所にいたおばさんと女子大生だ。

と言うことはこのおじさんがサラのパパということか。

そんな偶然。

やはりここはサラが言うようにハレルヤプレイスなのか。



仲良くなったらオジサンが智に話しかけてくる。

あたしも横で話に加わる。

「ご夫婦では無いですよね、お付き合いをしているんですか」とおじさん。

「はあ、まあ」智が照れたようにいう。

「仲が宜しくて、羨ましいですね」

「ほかに誰もいないんですよ。彼、実家東京で、仕方なく私が世話をしている感じで」とあたしも照れ隠しで、雑に言ってみる。

「だからといって、こんなに献身的にお世話はしないですよ」

「仕方なくです」とあたしはさらに謙遜とも自慢とも付かないようなことを言った。

初めにうちは奥さんと娘が交代で顔を出していた。

まああたしのように、年中いると言うことはなかったけれど、娘さんの方は割と頑なで、父親とのある程度の距離感で止まっている感じだったので、父親の関係者とも極力関係を持ちたくないということかなと思ったが、嫌々な感じはしないので、ちょと不思議だった。

あたしが思うに、本当はお父さんのことを嫌ってはいないけれど、変にツッパって、頑なな態度に出ている、そんな感じだった。

子供だなと思った。

あたしがなぜ、見も知らない二人をここまで観察してうるのかといえば当然サラのためだ。

この二人がサラをどう思うか、サラが名乗り出たらどう思うかが、気になるからで、100%サラのためだ。


ある時おじさんがあたしと智が並んでテレビなど見ていると暇なのか話かけてきた。

病室のテレビはイヤホーンで聴くのが礼儀となっている。

あたしと智は両耳のイヤホーンを片耳づつ付けていた。

片耳は空いているので、横のおじさんが声をかけてきたことに気づき、すぐに反応した。

「彼女さんはハーフなの」私は久しぶりの問いかけに懐かしさすら覚えた。

「はい父が日本人で母がフィリピンなんですよ」

「あっ、そうなの」と言って、オジサンは言葉が止まった。

やはりサラのパパなんだろう。

だから言葉が止まった。

何か思うところがあったと言うことだろう。

「今は、どこに」

「実家は長野なんです。大学で名古屋なんです。もう卒業で暇なので。ここにいりびたっているかんじですね」

「ああそうなんだ」とおじさんは少し考えるようにトーンが低くなった。

「でも娘さんの偉いですね、二日にいっぺんくらいお見舞いにくてくれて、仲がいいんですね」

「いやそんなんじゃなかったんですけれどね。なぜか怪我をしたら、良く来てくれるようになって、どう言う心境の変化だか」

「何はともあれ、仲良くなれてよかったじゃないですか」

「仲良くなれたのかな」

その時サラが病室の前を通りかかった。

サラ、グットタイミング、とあたしは心の中で避けんだ。

「あっサラ」と私はサラに声をかけた。

「何」とサラが反応した。

「今日何時まで、お茶でもしようよ」

「うん、いいよ」と言いながらサラがおじさんのほうを見た。

おじさんに反応なし。

おじさんは、分っていないんだ。

「9時までだから」

「じゃあ終わったら中庭で」

「うん、じゃ後で」といってサラはいってしまった。

「いいよね」と私は智に尋ねた。

「いや別に、いいよ、と言うか俺に聞かなくても」と智は戸惑ったように言う。

「なんか、二人夫婦みたいだね」とそんな智の反応をおじさんは見逃さない。

「イヤイヤそんな」

「ところで、今前を通った子は」

「ああ、サラですか。あの子はフィリピンからの留学生なんです、もうすぐ帰るんですけれど」これはチャンスだとあたしは俄然燃えた。

「ああそうなんだ」

「彼女と私と凄い共通点があるんですよ」

「共通点」

「はい。まず名前も同じサラだし。お父さんが日本人でお母さんがフィリピン人なんですよ。まあ違うのは私は日本生まれの日本育ち、で彼女は生まれも育ちもフィリピンてところですかね」

「そうなんだ」とだけ言うとおじさんは黙り込んでしまった。

そこで私は追い討ちをかける。

サラについて、あたしが知っている限り情報を話す。

心あたりがあれば、表情に出るだろう。

出身地。

お母さんの名前なんて言えば確実なんだろうけれど流石に知らない。

でも明らかにに疑ってきていた。

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