第6話 男性恐怖症

 病院に行き、診察を受けると先生から男性恐怖症と診断された。原因はやはり先日男に襲われたことだった。男性恐怖症で起きる症状や治療方法などの説明を受けて今日の診察は終わった。

 病院から帰宅して少しすると奏君がプリントを届けに来てくれた。嬉しくなり会いに行こうと部屋を出たとき彼の声が聞こえた。その瞬間、体が萎縮してしまい、その場から動くことが出来なかった。奏君が帰った後、体が動くようになった後すぐにトイレへいき吐いた。彼のことを好きだと頭では理解しているのだが、体が拒否してしまう。その事を理解してしまった私は絶望し、その事が悲しくて眠ることができなかった。次の日カウンセリングに行き昨日あったことを話した。カウンセリングの先生は神妙な顔をして


「これは想像以上に深刻な状態です。男性が目の前にいると萎縮してしまいうまく話せなかったり、体が震えることが一般的な症状と言われています。凛さんのように対面していない状態でさらに声を聞いただけで吐いてしまうというのは極めて危ない状態でして無茶をしてしまうとあまりの辛さに自殺する可能性があるということを覚えておいてください。実際に恐怖症の方で無茶をして自殺をした事例がいます。」


「ですので焦らず少しずつ治療していくことが大切になります。」


「まずは見ず知らずの安全な方の声を聞くことから始めましょう。そうですね、テレビに出ている方の声を聞いてみると良いでしょう。」


「先生、そういえば襲われた時助けていただいた男性に対してはほぼいつも通り話せていたと思います。」


「そうですか、その時は混乱していたため大丈夫だった可能性もあります。一度その方と話してみて大丈夫そうでしたら、その方に手伝って頂くと一番良いかも知れません。」


 帰宅後、香さんに事情を説明して林先輩と一緒にきて貰えないか頼んだ。香さんは林先輩に聞いてみると部活後なら大丈夫だと言ってくれた。早速部活後にきて貰った。

 不安に思いながらも林先輩達が来るのを待っていると香さんがインターホン越しに『こんばんは』と言った後、林先輩が心配そうに『こんばんは』と言ってきた。声を聞いたとき少し体が震えたがそれだけで済んだ。

 香さん達がいてくれたおかげで少し緊張はするものの夕飯を食べながら会話をすることが出来た。

 次の日カウンセリングに行き先生に、昨日あったことを話した。

「昨日話した男性と1対1ではなかったのですが話すことが出来ました。」


そういうと先生は


「良かったです。それではなるべくその方と話して慣れて行きましょう。そして少しづつ他の付き添いの方を減らしていき1対1で話せるように頑張りましょう。何か聞いておきたいことはありますか?」


「大丈夫です。」


 今日のカウンセリングが終了帰宅した。帰宅してからはテレビをつけ男性の声を聞いて少しでも慣れるように頑張った。昨日のおかげで声を聞くだけならそこまで萎縮することがなかった。朝はカウンセリング、昼はテレビで治療、放課後は林先輩と治療というふうに一週間過ごした。そうすることで先輩とはある程度話せるようになったので、週末にグループに『元気になりました。』とメッセージをおくった。


 一週間ぶりの登校だが、まだ1人では電車に乗れないので林先輩に付き添って貰い通学することにした。駅では1人で奏君を待つことにした。すれ違う程度なら男性を意識しなければ大丈夫だったので奏君が声を掛けてるくるまで別のことに集中した。すると、奏君から声を掛けられた。体が緊張してしまったが、なんとか挨拶をするすることが出来た。


「おはよう、凛。元気になって良かった」


「お、おはようございます。心配かけて申し訳ございません。」


奏君と二人きりで登校するのは辛かったが一緒に学校へ向かった。学校へ着くと1度お手洗いに行き気持ちを落ち着かせた。その後教室につくとゆうかさんと沙也加さんが、こちらに気付き駆け寄ってきた。


「おはよう、凛。もう大丈夫か?まだしんどかったら言ってよ~奏よりウチの方が頼りがいあるからね、ニシシ」


「ゆうちゃん、凛さんは病み上がりなのですからそんなに一気に話しかけては駄目でしょ。すみません、凛さん。でも皆それだけ心配してたので元気になって良かったです。」


「ありがとうございます。そして、ご心配かけてしまい申し訳ございません。」


ゆうかさん達と話していると朝練終わりの根戸君が教室に入ってきた。


「清水さん、元気になって良かった。どっかの誰かさんは会えなくてずっと脱け殻になってたからね~」


根戸君は私の心配をしつつ、奏君をからかっていた。やっといつもの日常が少しずつ戻ってきたと思っているとチャイムがなった。

 昼休憩になり、いつものメンバーでご飯を食べていた。根戸君が


「先週の奏はまじで酷かったよな~清水さんがいなかっただけでずっとボケーとしてて先生に指名されても反応なくて、『斎藤』って怒鳴られてから初めて『何でしょう?』て言ってたもんなw」


「それに凛に会いたいからって毎日、先生からプリント貰って家に届けに行ってたもんな」


「ば、馬鹿、恥ずかしいからやめろよ。そりゃ彼女が病気になったら心配するだろ、雄二だって五反田が病気になったら心配するだろ!」


「そりゃ心配はするけどあそこまで酷くはならんだろ。」


「そ、そこまで心配をかけてしまったのですね。ありがとうございます。」


先週の奏君の状態について話しているとご飯を食べ終わった私が


「用事がありますので席をはずしますね。」


と言って教室を出ていった。指定場所は校舎裏だった。路地裏みたいに少し薄暗く事件のことを思い出してしまうので早く帰りたかった。


手紙の差出人を待っているとバスケ部のキャプテンが来た。この人は元々苦手だったが今では特に無理だった。早く帰りたかった。


「今日は来てくれてありがとう。清水さんは、斎藤ってやつと付き合ってるのはしってる。でもあいつより俺の方が格好いいし運動も出来る、俺と付き合ってくれ。」


「え、えっと」


(断りたいのに体が萎縮して上手く言葉がでない。)

断らない私のことを恥ずかしがって断ろうとしないと勘違いしたのか


「そんなに恥ずかしがって悩むくらいなら試しに付き合ってみないか?」


「えっと」


キャプテンはしびれを斬らしたのか私に強引に迫って来たとき、私はあの時の夜のことがフラッシュバックした。


「きゃー止めてください。」


私が悲鳴をあげると奏君が急いで助けに入った。


「先輩、凛が嫌がっているので止めてください。」


先輩は舌打ちをしながら帰っていった。私を慰めようと奏君が近づいてきたが「すいません」と言って走っていった。限界で吐きそうになったので急いでトイレへ向かった。その時、奏君の悲しそうな横顔が見えた。このままじゃ奏君を傷つけ続けてしまうと、思うとより一層気持ち悪くなった。先程の件で症状がまたしても悪くなった。男子が近くにいるだけで我慢できないほどではないが気持ち悪くなってしまった。気付けばHRの時間になり席替えを行うことになった。

 自分の席は窓際の真ん中の席になった。奇跡的に自分の周りには男子生徒がいなかった。その事で少し体調が良くなったことで考えることが出来た。

 このままでは放課後は、奏君と一緒に帰らないといけないが二人きりは避けたい。どうしようか考えていると横の席の本田さんから


「清水さん、茶道部に入りませんか?不安なら最初は体験入部でもいいですよ。」


どうやら今茶道部の部員が7人で今年の3年が辞めると4人になり同好会に降格してしまうようだ。それで帰宅部の私に声を掛けてきたらしい。


「本田さん、少し考えてみますね。」


 下校中ゆうかさん達と今週末にあるサッカー部の練習試合の話をしていると、奏君は考え事をしており


「斎藤、斎藤!」


「うん?どうした?」


「どうしたじゃないわよ、何度も呼び掛けても反応しないからよ。」


「すまん、考え事してた。でどうした?」


「今週末のサッカー部の練習試合見に行くかの話をしてました。根戸君がベンチに入ってて試合に出れるかもしれないって言ってましたので。」


ゆうかさんが説明してくれた。


「はぁ、どうせ凛のことでも考えてたんでしょ。」と小林が呆れていた。


「本当にすまん。場所と時間は?」


「ウチらの学園で朝の10時からよ。」


「ありがとう。」


そう言って駅に着いたので解散した。スマホを見ると香さんからホームで待っているとメッセージが来ていたので香さんと一緒に帰った。


 次の日、教室に入ると本田さんが声を掛けてきた。

「今日、昨日話してた茶道部の体験入部どう?」


「行ってみたいです。」


私がそう答えると本田さんは嬉しそうに笑った。そしてチャイムが鳴った。

 授業が始まり、なんとなく外を眺めていると2年生が外で体育をしていた。中に林先輩がいて、目があった。林先輩は笑顔でこちらに手を振っていたが私はお世話になりっぱなしで気まずかったのですぐに顔を背けた。

 昼休憩になると奏君が根戸君を連れてどこかに行ったので私たちは3人でご飯を食べることにした。


「凛って茶道部に入るんだって?急にどうした?」


「昨日隣の席の本田さんが『体験入部だけでもいいからどうですか?』ってお誘い頂いたので折角の機会と思いお受けしました。」


話題は私が茶道部に入ることについてだった。経緯などを話しながら食べた。休憩が終わる頃に奏君達が帰ってきた。

 放課後、茶道部へ顔を出した。茶道をやったことがなく作法など分からなかったが、皆さんが丁寧に教えてくれて楽しかった。最初は奏君との二人きりを避けるために入った茶道部だったが同じ抹茶でもたてる人が違うだけで風味が変わったりしてとても奥が深いと思った。気付けば楽しくて毎日顔を出していた。

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