第五話・最悪=◯◯◯

 「モーテラが現れる前、人種によって違いはあるけど、髪の毛は染めない限り黒や茶色、金だった。

 だけど、今は産まれた時からそれぞれの色があって、それは目の色だって同じなんだよ。

 モーテラが現れたことで、人類は一歩前に踏み出したのかもね。」


 ふと、昔小一くらいのときに会った、お兄さんが言っていた言葉を思い出した。


 あの時のお兄さんのことはよく覚えてないけど、医者みたいな格好で、笑顔が綺麗だったことだけは鮮明に覚えている。


 教室に足を一歩踏み入れて中を見渡した。数人の生徒と目が合った。気まずい。

 前列から3、4、3の数で、3列席が並べられている。10人のクラスだ。

 少人数のクラスでもよく目につく、白色やピンク色の髪の生徒たち。大人しい色の子も少しいるけど、余裕で打ち消されている。俺は黒髪だから本当に間反対だ。


 見た目から既に個性の強さを感じる生徒。

そして、生徒達をまとめるかのように、椅子ではなく教卓の木板の上に座っている男性。この人が恐らく担任なんだろう。


 このクラス、大丈夫だろうか。


 生徒ではなく教師までもの個性の強さに、呆気に取られる。俺に気づいたらしいその男性が話しかけてきた。



 「こんにちは。君が黒瀬くんですか?」



 天然パーマの白髪に、小柄な体格。身長は俺と同じくらいか、それより小さいぐらい。顔はマスクでよく見えない。でも、優しそうな雰囲気を感じる。


 さも当たり前かのように教卓に腰掛けてるのを見ると、この人も天照の隊員だったんだろうな、なんて思う。


 返事を促すように見つめてくるのでとりあえず頷く。先生は満足そうに、にこっと笑うと、窓側の席を指差した。



 「じゃあ、そこの空いている席に座って下さい。」



 やべぇ、ボッチになるかもしれない。

周りは二、三人でかたまっているし、俺は後から来た人間で入る隙がなさそうだ。


 一部の人間を除いて中学生・高校生にとってボッチとは何よりも辛いものである。

 話し合いのときや二人一組で何かするときにも困るし、喋る人もいない。


 ボッチイコール最悪という訳だ。


 立ち尽くしていると、足をぶらぶらさせながら、座らないの?とでも言いたげに先生が首を傾げている。


 仕方なく椅子を引いて座った。集まる視線に居心地の悪さを感じる。

 受験勉強してた方がマシだった。なんで俺選ばれたんだろうか。



 「全員揃ったし、少し時間ください。

 はい、僕は君達の担任になります、一谷 雪いちたに ゆきです。担任は卒業するまで変わらないから五年間よろしく。

 さっき外にいた人は副担任ね。名前は後で聞いてみて。」



 割と雑な自己紹介だが、教室内にぱらぱらと拍手が湧く。十人しかいないクラスなのに拍手もクソもないが。

 拍手が止むのを待って先生が話し出す。足をぶらぶら貧乏ゆすりしながら。



 「じゃあ、今から軽く施設の説明します。


 まず今、僕たちがいるのが一年生の棟です。一階のホールの奥に通路があるよね。あの奥の円形の塔が君らの寮ね。それ以外は後で配る紙に書いてます。」



 先生が窓から見える塔を指差しながら話す。つい塔に目がいって見てみると、かなりの大きさの塔で驚く。

 すげー、絶対アレ一人部屋じゃん。マジで嬉しい。どうせボッチだろうし。なんて思いながら先生の話そっちのけで少し観察。



 「黒瀬くーん、聞いてます?

 僕、この後会議あるからこれで終わり。

 この冊子に寮の規則とか色々書いてるから、必ず取って帰ってね。解散。」



 いきなり両手を合わせてぱん、と小さく叩いた。先生は教卓から飛び降りると、スタスタと教室を出て行く。後に残されたのは俺達生徒だけ。


 え?教師がそれで大丈夫なのか?他の生徒もそう思ったらしく、戸惑いを隠しきれず顔に出ている。勿論、俺も。


 全員が黙って座っているこの状況。おまけに先生はどこかへ行った。


 どうしたら良いんだろう。こんなとき、誰か動いてくれたら楽なんだけど。

 頼むから誰か動いてくれ。そう念じるも、誰一人動かない。俺が行動に移すしかないか、そう思って席を立つ。


 視線が俺に集中しているのを感じる。

 苦手なんだよなぁ、視線も、ボッチもそうだけど、この中には一緒にふざけてくれるヤツがいるのかも分からない。

 深い溜め息をつくと、教卓の上に置かれた冊子に手を伸ばした人がいた。



 「私が配るので回してください。」



 隣に座っていた、ザ・優等生なんて言葉が似合いそうな女の子。冊子を全員分取ると、配り始めたので、椅子に座り直した。

 ……俺が恥をかいただけじゃないか?なんだか損した気分になった。


 さっきの女の子が俺の前にやってきて冊子を差し出した。ありがたく両手で受け取る。



 「ありがと。」


 「いいえ。」



 たったそれだけの会話だったけど、とりあえず話してみた感じは俺の苦手なタイプではなさそうだったので一安心。


 配られた冊子をぱらぱらと捲ってみると、施設内の地図や寮の食事の時間など、色々なことが載っていた。後で読んでおかないと。


 にしても、ここで五年間も生活するのか。施設や整備は十分すぎるくらい整ってるし、ボッチ(仮)のことを除けば、寮生活も案外楽しそうに見えてくる。


 冊子を捲りながら考えていると、配ってくれた隣の席の女の子が、手を挙げて遠慮がちに話し出した。



 「あの、全員揃ったことですし自己紹介しませんか?さっき、一応しましたけど……」



 やっぱり仲間外れにされてたらしい。他の生徒たちは「良いやん!」なんて暢気に騒いでいる。


 これだから嫌なんだ。勝手に自己紹介とかされると、輪に入れないだろ。


 でも、仲良くなれるチャンスだ。

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