補論3 米豪分断作戦とガダルカナル島

 史実において日本軍がガダルカナル島に基地を建設し始めたのは、一九四二年七月六日に設営隊がガ島ルンガに到着してからです。

 ガダルカナル島に飛行場が設置された背景には、珊瑚海海戦の影響でポートモレスビー攻略作戦「MO作戦」が頓挫してしまったことがあります。

 ポートモレスビーを確保出来なかったために、ラバウルの航空隊は航続距離などの問題で作戦行動が制限されてしまうことになりました。その解決策として、ガダルカナルを中心とするソロモン諸島に航空基地が建設されることになったのです。

 ただし、現地部隊では五月上旬頃からソロモン諸島で飛行場建設に適した土地を探し始めており、五月二十五日にガ島のルンガの地を発見しました。

 実際にGF司令部から飛行場の建設許可が下りるのはミッドウェー海戦後ですが、作中世界ではそもそもMO作戦自体が行われておりません。

 そのため、ポートモレスビーやオーストラリアの連合軍航空隊に対抗する必要性から、史実よりも早期にガ島飛行場建設が決定される可能性があります。

 仮に六月初旬に飛行場建設が許可されれば、史実珊瑚海海戦に参加した第七駆逐隊(曙、潮、朧、漣)に護衛された設営部隊がガ島に上陸、史実の建設速度を考えれば七月初旬には戦闘機用の滑走路は完成していると想定出来ます。

 そこから陸攻用の滑走路を整備したとして、九月中から十月上旬にはガ島飛行場は全面的に使用可能となるでしょう。

 この方面を担当する第八艦隊も、史実通り重巡鳥海を旗艦として編成されるはずです。

 日本軍のガ島飛行場は、B17などによる妨害を受けつつも、順調に拡張出来るはずです。

 ミッドウェー海戦での損害でFS作戦は中止となるでしょうが、代わりに米豪遮断を目指したSN作戦は基地航空隊や潜水艦を中心とした兵力を以て実施されることになると思われます。

 インド洋での通商破壊作戦「B作戦」の成功を受けて、南太平洋での大規模な通商破壊作戦を実施する可能性もあるでしょう。

 そうなりますと、第十一航空艦隊への増援として飛龍、瑞鶴、瑞鳳、祥鳳という健在な空母戦力が内地での整備と航空隊の補充、再訓練を終えた九月から十月頃にトラック島に進出することが考えられます。

 これら空母艦隊と基地航空隊、潜水艦を以て南太平洋での通商破壊作戦やオーストラリア沿岸部の襲撃作戦を行えれば、米豪側にとってかなり危機的な事態になります。

 一方、ミッドウェー海戦で主要な艦艇を失った米海軍は、史実のようにミッドウェー海戦から二ヶ月後にガ島攻略作戦を行うような力はないでしょう。

 ただ、史実珊瑚海海戦での米軍は空母翔鶴と幻の “空母龍鶴”撃沈(祥鳳の誤認)という判断を下しておりますので、作中ミッドウェー海戦での戦果を過大に評価する可能性は残ります。

 そうなれば、日本海軍の空母戦力が回復しない内にワスプとレンジャーを太平洋に回航して先手を打つ、という考えに至っても不思議ではありません。

 なお、作中ミッドウェー海戦後に米太平洋艦隊に残された主要な戦力は次のようなものとなります。


【戦艦】〈コロラド〉〈テネシー〉〈ニューメキシコ〉〈ミシシッピ〉〈アイダホ〉

【護衛空母】〈ロングアイランド〉

【重巡】〈ソルトレイクシティ〉〈シカゴ〉〈インディアナポリス〉〈サンフランシスコ〉〈クインシー〉

【軽巡】〈ナッシュビル〉〈フェニックス〉〈ボイシ〉〈ホノルル〉〈セントルイス〉〈ヘレナ〉〈ローリー〉〈デトロイト〉〈リッチモンド〉


 実際のところ、日本側の主力空母の半数が当面の間、稼働状態にないことを考えると、これでも十分な兵力です。

 ここに新鋭戦艦サウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツに加え、空母ワスプ、レンジャーを加えれば、太平洋戦線を重視するアーネスト・キング作戦部長はオーストラリア援護のため、史実のようなガ島攻略作戦「ウォッチタワー作戦」の実施を強く主張することになるでしょう。

 日本海軍の通商破壊作戦で南太平洋の海上交通路が遮断されかかっているとなれば、なおさらです。

 そのため、作中ミッドウェー海戦後二ヶ月以内のガ島上陸は戦力の再編などを考えると流石に難しいにせよ、ワスプやサウスダコタの太平洋回航が完了する四二年十月以降に史実通り、ガ島に上陸する可能性はあります。

 ただし、この時点でガ島の日本軍飛行場はそれなりに拡張・強化されているでしょうから、アメリカ側としても史実のように簡単に上陸を成功させられるとは思えません。

 上陸前に日本側の第十一航空艦隊と米側のワスプ、レンジャーとの航空戦が起こるでしょうし、史実のように南太平洋に派遣された日本軍潜水艦によってワスプなりレンジャーなりが撃沈される可能性もあります。

 その後のアメリカ軍によるガ島の維持は、空母戦力の少なさもあってかなりの困難が伴うはずです。

 ガ島に上陸した第一海兵師団は、補給の途絶によって飢えと弾薬不足に苦しめられることも考えられます。

 さて、一方の日本側も、十月頃にはミッドウェー海戦での損害をある程度、回復していることでしょう。

 そのため、史実通り艦隊編制の変更が行われたとして、正式な空母機動部隊となった第三艦隊の編成は次のような形になると思われます。

 司令長官も、インド洋、ミッドウェーで二度も反転した南雲中将はGF司令部の不興を買って更迭されている可能性があります。


  第三艦隊  小沢治三郎中将

第一航空戦隊【空母】〈赤城〉〈加賀〉〈龍鳳〉

第二航空戦隊【空母】〈蒼龍〉〈飛龍〉〈祥鳳〉

第五航空戦隊【空母】〈翔鶴〉〈瑞鶴〉〈瑞鳳〉

第十一戦隊【戦艦】〈比叡〉〈霧島〉

第八戦隊【重巡】〈利根〉〈筑摩〉

第十戦隊【軽巡】〈長良〉

 第四駆逐隊【駆逐艦】〈萩風〉〈舞風〉〈野分〉〈嵐〉

 第十駆逐隊【駆逐艦】〈夕雲〉〈秋雲〉〈巻雲〉〈風雲〉

 第十七駆逐隊【駆逐艦】〈谷風〉〈浦風〉〈磯風〉〈浜風〉

 第六十一駆逐隊【駆逐艦】〈秋月〉〈照月〉


 上記編成では、インド洋に派遣されている第四航空戦隊が抜けていますが、編制上は四航戦も第三艦隊所属となります。龍鳳の竣工は一九四二年十一月のことですから、彼女についてはあくまでも編成上の存在になります。

 ただし、それですと第三艦隊が空母十二隻と大所帯になり過ぎますから、場合によっては航空戦隊を分けて、別に第七艦隊(空いている番号)を編制して、六隻六隻の二個空母艦隊を創設することも考えられます。

 恐らく、インド洋での作戦が一段落して、年度が変わる一九四三年四月段階で、再度戦時艦隊編制は改められるでしょう。

 また、作中ミッドウェー海戦で空母を一ヶ所にまとめておくことの危険性は理解したはずですから、史実マリアナ沖海戦のように海戦に際しては一個航空戦隊ごとに輪形陣を組む形に戦術が変更となると思われます。

 そうなると三個の輪形陣を作るには第三艦隊だけ護衛艦艇が不足していますから、他に第五戦隊(妙高、羽黒)や第四水雷戦隊などが臨時で第三艦隊の指揮下に入ることも考えられます。

 このように日米両海軍の戦力を比較しますと、ミッドウェー海戦で大戦果を挙げたとはいえ、日本海軍が劣勢であることは明らかです。

 特に船団護衛など後方支援を考えますと、インド洋と南太平洋に戦力を展開するだけの十分な余力が日本にあるとは思えません。

 唯一、一時的に空母戦力でアメリカに勝っているくらいです。ただし、それも一九四三年中頃までの話でしょう。

 アメリカ側としてもかなりの危険を冒してのガ島攻略となりますので、出来ればキングの主張が受け入れられず、米軍の反攻時期が遅くなることが日本側にとっては望ましいです。

 とはいえ、史実を考えればやはりエセックス級などの戦力化を待たずにアメリカは反攻作戦に打って出てくることは確実と思われるので、ミッドウェー海戦で大戦果を挙げたからといって、あまり薔薇色の未来は見えてこないです。

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