第12話 抜け道





 冬の世界から無事に春の世界に戻り、ゆらゆらと揺らめき心を安らかにさせる焚き火を見ながら、旬の野菜と魚が使われた温かい食事をいただいたおかげだろう。

 原符が用意してくれた食事を食べ終えては即寝落ちしてしまった竹葉が自然と目を覚まして、立ち上がり、背伸びをして、新鮮で木々と土の匂いが立つ濃い空気を吸い込んで今。いきなり。突然。

 原符に言われたのであった。

 秘密の竹林を自力で見つけてちょーだい、と。






 七歳。

 一枚の竹の葉が掌から浮き出て来たかと思えば、瞬時に引っ込み痣となって残る。

 竹職人の証であり、この痣がないと竹職人にはなれない。


 十歳。

 竹職人だけしか知らない秘密の竹林へと行けるようになる。


 十三歳。

 竹の刃を含む色々な竹工芸品を作る為に必要な、大小様々な形に変化する刀を手にする事ができる。


 十五歳。

 長の了承を得て一人前になり、これ以降竹工芸品を作る事ができる。


 ちなみに。

 隕石を破壊する竹の刃(これ以降、必破竹刃と呼ぶ)(呼び方はそれぞれに任せる)は、水の刃、金の刃、火の刃、木の刃、土の刃を持つ剣士と闘い、剣と仲良くできたら完成。






「あんたは今十五歳でしょ。ギリギリセーフ。本当は痣がほしいんだけど、もうしょうがない。痣なし竹職人を目指してもらう為にも、まずは自力で秘密の竹林に行ってちょーだい」

「はい」


 痣なしでも竹職人になれるのか。

 疑問は抱かない。

 竹職人にならなければならないのだ。

 どんな規則にも抜け道はあるのだ。


「うん。いいお返事。じゃあ、わしは家に戻るから」

「え?え?え?」

「え?なーに?」

「いや。いやいやいやいやいや。手がかり一つもないんですか?ついて来てくれないんですか?」

「えー?」

「………わかりました。秘密の竹林を探し出して戻ってきます!」

「うん。がんばってねー!」

「はい!」


 背を向けて走り出した竹葉を見送った原符は掌を見つめて、にやりと笑った。

 










(2022.10.2)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る