第13話 王子と侍女の旅立ち

「ネリカ、どうしたの!?」

 ネリカの叫び声を聞いて侍従長たちがやってきた。

「あ、侍従長・・なんでもありません」

「本当になんでもないの?城中に響き渡るような声だったけど」

「今から王子様を探しに行こう!ってひとり言を言ってたんです。」

「ちょっと声が大きかったかなって反省しています」

「かなり大きい声だったけど・・」

「ま、いいわ。気を付けて行ってくるのよ」

「はい」

 侍従長たちは不思議な顔をしていたが、納得して城の中へ戻って行った。


「ネリカ、大きな声を出したらダメだよ」

「あなたのせいです!」

「私が魔物と戦えるはずないでしょ!」

「そうだよ。ネリカが魔物と戦ったら殺されるかも」

「だったら、どうして?」

「僕が力を貸してあげる」

「ちから?」

「そう。ゾーゼスとの戦いでちょっとした力が付いたみたい。でも今の僕では力を使う事が出来ないんだ」

「だからね、僕がネリカに力を貸そうと思うんだ」

「そうしたらネリカは戦えるよ」

「人気者になれるかも」

「人気者になんかなりたくありません!わたしは王子様にだけ認めてもらえれば・・・」

なんって言ったの?」

「人気者になりたくないって言ったん・で・す!」

「ネリカなら人気者になれると思うんだけどな」

「おうじさま・・」


サーニは続けて「国から出たら王子様と呼ぶのめてね」と言った。

「え、どうしてですか?」

「兵士たちもいないし国の外では普通の霊体冒険者だから。」

「霊体って普通かな?」とネリカは小さくつぶやいた。」

「なにか言った?」

「いいえ、何でもありません」


「嫌ならよいけど、僕はネリカには王子様って呼んで欲しくないんだ」

ネリカはサーニの言葉にドキッとした。

「わかりました。国の外ではサーニさまと名前でお呼びいたします」

「”さま”もいらないよ」

「いいえ、”さま”だけは付けるのをお許しください」

「良いよ。ネリカを困らせるのは悪いからね」

「ありがとうございます」

肝心かんじんの王子さまは霊体だけど戻ってきた事と二人旅をできる嬉しさでネリカは自然に笑みをこぼす。


「ネリカ、楽しそうだね」

「え?そんな事ないです!」

サーニの急な言葉にドキッとしたが、咄嗟とっさに否定した。

「そう?」

サーニは不思議そうにしているが、すぐにいつものお気楽笑顔に変わった。


ネリカは生まれた時からお城で暮らしていてサーニの姉的存在で、昔は「王子さま」ではなく「サーニさま」と呼んでいたネリカ。成長するに従って「サーニさま」から「王子さま」に呼び方を変えていったのだ。

再び昔の「サーニさま」と呼べることに小さいながらも幸せを感じるネリカ。


「サーニさま。後になってやっぱり”王子さま”って呼んでと言っても聞きませんからね」

「うん、わかってるよ」


サーニの余計な一言

「ネリカ、僕の事をお坊ちゃんって呼んでもいいよ」

「それとも若旦那様?」

「サーニさま、冗談はやめてください!本当に怒りますからね!!」

「怒りますと言って怒っているよね。」

「もう!!」

ネリカは頬を膨らませながら怒っている。


こうして強い?力を手にしたのに戦えない王子と力を分け与えられて望んでいないのに魔物と戦う事になった侍女の自分探しの旅が始まった。

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