第3話 記憶のない転生者。
二度寝しようかと思ったけど、今日に限って全然寝れねえ。
今日もいつも通りに迷宮行くか?
ただ、ここ数日ぶっ続けで行ってるし、たまには別の事してもいい気がするんだよな。
「暇なら散策でもしにいく?」
いつのまにか起きていたシノンが言う。
シノンの提案にYesとは答えなかった。まあ、Noとも答えなかったんだけど。
「どうしよっかな?」
「ココ最近ずっと迷宮に行ってるからたまには気休めも必要なんじゃない?
なんなら久しぶりに湖にでも行く?」
へえ。シノンも最近迷宮に行く回数多いこと気にしてるんだ。
っというか、あの事件以来ずっと迷宮に行こうとすると心配されるんだよな。
でも、俺だって最近行き過ぎ感は否めなかったし、久々に湖に行ってみるのもアリかな。
「んじゃあ行くかー。久しぶりに」
それからやることがあるとついてこなかった辰爾と別れ、ふたりで湖へと歩いていった。
「それにしても、本当久しぶりだな。
もう一年は行ってないのかな?」
「そうだね。前の騒ぎの後は、なかなか来れなかったもんね」
前の騒ぎ。それは約一年前に起きた事件だ。数人の異世界人の集まりと接触したのをトリガーにした、記憶の不完全覚醒のせいで俺が一時的な暴走状態に落ち込んだ事件である。
そのとき、ここの湖に来てたんだ。
鎮静と魔素含有の特性を持つこの湖にはお世話になったもんだ。
あのときはキツかったな。
まるで自分が誰か分からなくなったようだった。
極稀にある転生者の記憶の不完全覚醒。
それを強制的に覚醒させようとすると自己保護のために暴走するという仕組みらしい。
精神の免疫機能だそうだ。
「よく来ていたのに来なくなったよね」
「そうだな。なんでだろ」
理由はない。
ただ来なくなっただけ、それだけだ。
「いつ見ても綺麗だ。
ここ本当に空気が澄んでるなら、なんかリラックスとるというかなんというか。
でもさ、来たところでさ、やることなくね?」
「………あ………」
「いや、別に今は夏でもないから泳がないし、ピクニックにしては色々無いし、リラックスしに来たにしては、別に行き詰まってないし」
「確かに………ね………」
「んじゃ、よし!迷宮潜るか!」
「やっぱそうなっちゃうよね。
うん、なんとなく予想はしてたけどさ、やっぱ迷宮行っちゃうよね。
しょうがない、やることないし」
やっぱふたりで居るとこうなっちゃうんだよな。
湖から迷宮までは走って20分というところかな?(十数キロメートルくらい)
それくらいだからそれ程遠くはない。
行く間ちょっとした会話を挟んだりして、20分が過ぎた。
「結局今日も迷宮に潜ってしまったな」
「そうだね」
「今日こそは何か新しい手がかりを掴めるといいなぁ。マッピングとやらも覚えてきたし、階層階段ぐらいは見つけたいところだけど、そこまで求めちゃ欲張りか」
シノンに持ってもらっていた(っというか亜空間に保管してもらってた)地図を取り出し、
探索系の
「今日はなんの問題もなさそうだ、ネェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!」
いつもと同じ道を通っていた筈なのに、何故か足元に吸い込まれていった。
魔法かなにかで細工された様子。
落ちていった先は足場がなく、次の足場までは数十メートル下、咄嗟にスライムへと擬態して衝撃を抑えたものの、スライム二匹が穴に落ちていくというなんともシュールな絵が完成してしまう。
最後まで落ちていった俺たちが到着したのは、
「誰だ?此処まで来た愚者は」
異常なほどの殺気と
それはあまりに強大で、膨大で、絶大で。
俺が今までに見たことのないほどの巨体を誇る魔物がそこにあった。
まるで、
「龍だ………。
って 痛ってッ!」
何処からか湧き出してきた単語、それが脳裏に浮かんだ途端、急激な頭痛がし、膨大な魔素が溢れ出した。それと同時に理性が薄れまた暴走しかけてしまった。
「ふたりとも落ち着け。
辰爾、僕たちだ。愚者じゃない」
この場で唯一冷静なシノンが宥め、辰爾の覇気と俺の暴走を鎮めた。
「ふたりとも、なんでここにいるんだ!?
今日は湖に行くって言ってただろ」
驚いたような反応をする辰爾。
俺たちは落っこちてきただけだからなんでと言われても迂闊としか。
………うん、っというかさ。
我慢してた事言っていい?いいよね。
「はぁぁぁぁ!?
この馬鹿デカいのが辰爾だと?」
「あれ?言ったこと無かったっけ?w」
「言ってねえよ………」
「そっか。言ってなかったか。
………。
俺は世界に七柱しか存在しない龍種のうちの一柱だ。超少数の種族にして、最強の一柱。
後、それとついでに
「おいおい、封印とか初耳………聞いてないぞ」
「そうだったっけ?w」
本当辰爾は昔から抜けてるというか言葉足らずというか、まあ色々欠けてるということだ。
封印の内容は察するに、
「俺の封印の内容は秘めている魔素の強制大量放出、能力の大半の使用制限、身体能力の制限、行動・移動の制限などなど、だ」
そんなもんだろうな。
最後の行動・移動の制限ってのは意外だったが、これで辰爾が湖まで一回もついてこなかったことに説明がつくな。
「だからここはこんなにも魔素で充ちているのか。辰爾から漏れ出した魔素で」
それと、一つ疑問もある。
「なあ、秘めた魔素が全部なくなったらどうなるんだ?」
「どうなるって。そんなの死ぬに決まってるだろ?」
「決まってねえよ!
っていうかそんな大切なことなんで今まで言ってこなかったんだ」
「え、言ってなかったっけ───」
「言ってなかったっけ?じゃねえんだよ!
それで、その魔素切れはいつ起こるんだ?」
「数百年後ぐらいか?」
「結構生きるんだな。
人間の人生数周分って結構長生きだな」
………って、今辰爾は
後数百年は生きれるって相当な長生きだぞ?一定間隔で魔素を放出するならもう結構な歳月を生きてるってことだ。
「というかなんでまた封印なんかされたんだ。何やらかした?」
「う〜ん、強いて言えば昔人種の国二〜三十個潰したことか?それとも人種支配寸前の王を殺したことか?それとも………」
「アホか!」
渾身のチョップが辰爾の頭に入る。
「いったい幾つの悪事を働いてるんだよ!?強いてどころじゃないだろ、それ全部だろ!それ全部含めて災厄龍とか邪龍とか呼ばれるんだろうが!」
ヤバい、久しぶりに辰爾に呆れた。
「その封印解除する方法はないのか?
俺だって辰爾が死ぬのを待ってるだけはヤだし、数百年あるならその間に解除する方法探せないのか?」
種族が分からないから寿命も推定できないけど、人よりは長生きだと信じたい。
「だけどね、シャルル。辰爾が死ぬのはこれが理由じゃないかも知れない」
「は?」
俺に抱えられたシノンが久しぶりに口を開く。
それと同時か、少し後に辰爾が妙な気配を察知したと言って警戒態勢を取った瞬間、辰爾が俺を連れて最上階へと行った。
そこは、自然力と魔力が充ちた空間。ここなら滅多なことでは魔力切れなんて起こらなさそうだ。ただ、これらの魔素も辰爾から漏れ出たものなんだろう。
ここは迷宮の特別階層、俗に言う第零階層らしい。外部と直結してるのに、並のことでは外からは入れないとも言っていた。
「お前か、異常な魔力の正体は」
その階層の中心あたりに誰かひとり、人間が立っていた。
その人間は長髪で仮面をつけていて………。 って
「貴女は、あの時の!」
そこに居たのは俺が一週間前に助けられた女性だった。
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