第五回『花の少女は美しく微笑む』感想文

物語要約/花と花言葉をモチーフに高校生の男の子ととある女の子が交流する、ちょっと切なくでもほっこりとする物語。場面がきれいで盛り上がりを意識した筆致が長所。


◆タイトル

花の少女は美しく微笑む


◆作者

天野月影 @amanogami 様


◆文字数

4,000文字


【フルスロットルでネタバレしています。ご注意ください】

※カクヨム甲子園2022の規約を私が読んでいなかったため、公開後に少し追記をいたしました。作者様には深くお詫び申し上げます。


◆読了後に思ったこと

 ほっこりする物語で、花言葉を使った交流がかわいらしく思いました。花畑が、廃墟になっている教会と対比されて、より美しく思いました。全体的に静かできれいな作品だと思いました。


 野春菊という言い方を私は知らなかったのですが、ここがミソですよね。一般に言う「ミヤコワスレ」にしてしまうと一気に内容がばれてしまう(笑)という。花言葉も鍵ですから、なかなか難しいシチュエーションでしたね。


 私もこういう、植物がたくさんあって、森の中を歩いていると急に開けた野原に出るというようなシチュエーションが好きでした。高校のときそういうシーンが出てくるほのぼの作品を書いていました。


 読後感が優しくて、良い掌編とおもいました。


◆読中わからなかったところ

 ちょっとわからなかったところがあります。


「パタリと姿を消した。」


のあとです。


 ミヤコワスレが一面に咲き乱れている→宮古さんが姿を消す→?→宮古さんがいる→最初のシチュエーションで再会を喜び合う


 という物語の流れになっています。

 調べてみるとミヤコワスレは多年草だそうです。私もそうなんだろうなと予想はしていました。

 なので再会できたこと自体はよくわかります。


 ですが、パタリと姿を消したその後の楓斗君。

 彼女と再会するまでの経過と心情がまったく描かれていないので、いまいち再会のシーンとのつながりがピンとこないように見えました。


 例えば、

・久しぶりにくるとミヤコワスレが一面に咲いている。

・宮古さんが、いない…!?【ここが薄い】

 ◇花言葉による焦りと嫌な予感が現実となって、楓斗君は死ぬほどがっくりくるのでは…。


・楓斗君が何年も、何回も訪れる。あるいは東京でミヤコワスレの鉢を買うなど【ここがない】

 ◇宮古さんに会いたくて会いたくて会いたくてたまらないはずでは…。


・宮古さんがいた!!!!!【ここが薄い】

 ◇やっと、やっと、やっと会えた、いた!!!! と楓斗君が死ぬほど驚き、悦んだ瞬間なのでは…。


・初めて会ったときのシーンを二人で再現する

 ◇「がっくり度」「会いたい度」「会えない度」が高ければ高いほどこのシーンは輝くのでは…。


 のような感じですね。


 要するに、『楓斗君にとっての宮古さんって、どれだけ大事な人なんだろう?』が見えてこないのですね。


 ここはアイデアと感動の核心となる部分だと思いますので、ちょっとつながりが悪く、もうちょっと筆を足しても良かったのでは…と思いました。


◆最後に

 作品制作、お疲れ様でした。


 アイデアやお話が非常に優しい雰囲気に包まれており、とっつきやすくて楽しく読めました。

 核心に迫るあたりが少々アイデア先行というか、筆が先走ってしまったのかなと思うところもありましたが、一読して「あ、いいな」と思いました。また、花言葉などのモチーフを優しく使う感性もとても素敵だと思いました。


 作品をお教えくださりありがとうございます。

 今後のご活躍と、ご健勝をお祈りいたします。


◆追記

 カクヨム甲子園の応募規約である四千字以下という制約の中で書かれたお作だとの作者様からのご指摘がありました。

 規約まで読んでいなかったため、不適切な感想になってしまったこと、お詫び申し上げます。


 四千字はなかなか厳しい文字数ですよね。六~七千字であればもう少し文章を費やせますので、その中での制作は大変だったことと思います。


 読後に思ったことはその通りとしても、四千字の中でどこを削り、どこを残し、どこを伸ばすか…難しい問題ですね。


 読者としては、この物語では「心」を見たかったな、という気はします。

 男の子と女の子の交流がどんな気持ちで行われたのか、どう移っていったか…ともあれ、不器用な男子と、不思議な女子の交流は、今後も続いていくのでしょう。


 教会とその花畑がいつまでも残っているといいなあ、と思いました。

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