第11話

「マイス、結局おやすみがおやすみじゃなくなったから申し訳ないんだけど、ナビをマイスの分も作ってくれる?」


休み明けにアオイさんが申し訳なさそうに言った。家作りは楽しいから気にしなくて良いのに。ナビは材料もあるし、1時間程で完成した。


「早いね?!」


「作り方はもう分かってますし、材料もありましたからね」


「とはいえこんなに早いなんて。一日何個作れそう?」


「スムーズにいけば、100くらいでしょうか」


「多いね?!」


「まとめて作業すれば効率が良いですからね。もちろん、就業時間内で作れる数ですよ。頑張れば1日150くらいはいけるでしょうけど」


「そんなに頑張らなくて良いよ。ナビをマイスの分も連携させるね。これで通信できるんだよね? 距離の制限はある?」


「ありません。大陸が離れていても繋がります」


「便利だね。ちょっとテストするね」


4人で離れて、通信と居場所の確認が問題なく機能する事を確認した。


「凄い! これ転移ポイントもナビで分かる!」


「うわぁ!」


アオイさんが、ぼくの所に転移してきた。っていうか、僕の上に乗ってます。僕、潰れてます! アオイさんは軽いから怪我はないですけどどうして良いかわかりません。良い匂いしますけど!


「あ、ごめん! 転移も出来るなんてすっごい便利ね! これで冒険が楽になるわ!」


ニコニコ笑うアオイさんに起こされて、回復魔法をかけてもらう。


「怪我はなかったですよ?」


「念のためってやつよ。転移はちょっとだけ位置をずらさなきゃダメね。でもこれ、かなり便利ね。別行動しても、危険があれば駆けつけられるし、離れた仲間の所にもすぐに行ける」


「アオイさんみたいに優秀な魔術師じゃないと転移ポイントとして利用するなんて不可能ですけどね」


転移魔法を使える魔術師自体レアだ。転移ポイントをどうやって付けるのかは知らないけど、ナビがあればあちこちに転移出来るらしい。消費魔力も減るらしく、大喜びされた。


「ね、これもう1個作るくらいの材料ある?」


「ありますよ」


すぐに作って渡した。


「さっきより早くない?」


「複数作るかもしれないと思って、さっき作る時に材料を磨いておいたんです。まとめてやれば早いので」


「さすがね、これは連携してここに隠しておくわ。埋めたりしても大丈夫?」


「多分大丈夫ですが、テストして下さい」


テストの結果、問題がないと分かったので、土魔法で固めて動かないように埋めた。


「これで、どこに行ってもすぐ帰ってこれるわ! 魔力消費も少ないから、これからは転移の魔道具は不要ね。材料を取ってくるし、あとでまたいくつか作ってくれる?」


「わかりました。それにしても、転移の魔道具なんてあったんですか?」


「遺跡で見つけたの。2つセットで、それぞれの魔道具の場所に転移するってやつ。今はここと、片割れが街外れに隠してあるの。街に簡単に行けて良いんだけど、魔力を大量に消費するしキツくてさ。あの日は2人を転移させたら疲れ切っちゃって寝てたの。そしたらマイスが来てびっくりしたわ」


「その節は失礼しました……」


「良いのよ。私こそ言葉がキツくてごめんなさい。魔力不足でイライラしてたの」


「そんな時に不法侵入して申し訳ありません」


「ううん、マイスに出会えて本当に良かった。ある程度ナビを作って主要な街に埋めたら、転移の魔道具は売るわ。結構高く売れるはずよっ!」


ウキウキしているアオイさんは、商売人の顔をしていた。それからすぐに、アオイさん達は毎日お出かけするようになった。お昼にお弁当まで作ってくれて、夜は帰って来てくれて、家の探索をして毎日褒めちぎってくれる。ナビの材料が届く度に作るんだけど、量が少ないからすぐ終わってしまうので午後は家を作っているんだ。


アオイさん達は疲れてるのに帰ってからご飯を作ってくれるから申し訳なくて、料理を覚える事にした。みなさん料理上手だけど、特にカナさんはお上手だ。丁寧に教えて貰ううちに、段々料理が楽しくなってきた。


そんな日々を過ごすうちに、ナビの在庫が増えて、遂に売り込む日が来た。


「アオイってば、昨日から売値をいくらにするかずっと計算してるの! めっちゃ高く売れば良い気がするけど、そうもいかないよね」


「そうなの。迷うよね。材料を取りに行けば原価はひとつ銀貨3枚程度なんだけど、マイスの手間賃もかかってるし、材料は価格が変動するし。通話の魔道具は金貨3枚だから、金貨5枚くらいで売れるかなって思ってる」


貨幣は、金貨、銀貨、銅貨、銅銭。


銅銭10枚で銅貨1枚。

銅貨10枚で銀貨1枚。

銀貨100枚で金貨1枚。


僕の給料が、前はレンタル料を引いて月に銀貨2枚くらい。今は銀貨8枚だ。宿屋一泊は最低額で、銅貨2枚くらい。ご飯は銅銭3枚くらいで屋台で食べられるから、以前はなんとかご飯を食べられるくらいの給料だった。ダン親方はご飯を賄いで食べさせてくれたし、今は3食食べさせて貰えるから問題ないけど、その前はいつもお腹が空いていたなぁ。


材料を高く見積もっても金貨3枚には絶対ならない。金貨5枚って高過ぎないですか?!


「き、金貨5枚ですか?!」


「あ、やっぱり安い? んー、金貨6枚でもいけるかな?」


「利便性を考えると、通信魔道具の倍でも安いと思いますね」


「だよね! 6枚でもいけるんじゃない? どうやって売るの?」


あ、あれ? 高くなったよ?!


「そこよ! 商会でも作る?」


「……いえ、まずは権力のある人に売って出方をみましょう。かなり便利な代物ですし、変に目をつけられたら面倒です」


「そっか、そうね。カナ、頼める?」


「お任せ下さいな。その辺りは得意分野です」


そう言って、みんなは出掛けて行った。


さて、しばらくナビの作成はお休みだからその間に家を仕上げてしまおう。それぞれの部屋の家具の希望も聞いている。頑張って良い部屋を作ろう。

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