第6話

新しい職場は天国だ。今まで食べた事もないような美味しい食事が食べられて、家賃もかからないし、服まで貰えた。しかも、上司はみんな優しくて可愛い。


「マイス! お昼ご飯だよ。今日はホントに1人でいいの?」


レナさんが、ご飯を持ってきてくれた。


「ええ、わざわざ持ってきて頂いてすいません。今日は、ちょっと集中したくて……」


あと、もう少し調整したら完成するんだ。


「良いの良いの! あたしこそ最初に無茶言ってごめんね。あたし方向音痴でさ、思わずテンション上がっちゃって」


「僕も方向音痴ですよ。だからこの魔道具を作ったんです。他にも必要としてる人がいるとは思わなかったけど役に立ちそうで良かったです」


「え?! 方向音痴なんて、いっぱいいるよ! これ、売るからね!」


「え?! 売り物になりますか? 職場で方向音痴なんて僕だけで、いつも叱られてたんですよね。だから魔道具職人に就職した時、最初の練習に思いついたんです。森ならともかく、街なら迷わないでしょ?」


「迷うわよ! あたしいっつも迷うの! それに、この魔道具って初めて行く所でも教えてくれるでしょ?」


「そうですね。そう設計しましたし」


「だから、かなり需要があるだろうって。パーティーにひとつあれば便利って品になるんじゃないかな?」


そうか。ならもうちょっと機能を加えてみるか。


「すいません、レナさん。僕ちょっとやりたい事ができたので仕事しますね」


「ダメだよ! ちゃんとご飯食べさせろって言われたんだから!」


「わかりました、ちゃんと食べます。でも、忘れちゃう前に作業に戻りたいんです」


「あらあら、レナじゃ止めきれませんでしたか」


「カナ!」


「アオイから伝言です。作業に集中したい時は仕方ないけど、その分早めに仕事上がるか、休みを取るようにとのことです」


休み? 僕は今まで15年休んだ事はないよ? 仕事してなかったのは、クビになった時くらいかな。


「休みですか? 僕、休んだ事なんてほとんどないですけど」


「嘘でしょ?! 休んだ事ないってなんで?!」


「休めば給料ないですし、暮らしていけないからですね。ダン親方は休みをくれましたけど、他の親方は休みなんてくれませんでしたし」


「マイスさんは週休2日です。給料は規定通りで、減りませんのでご安心下さい」


「なんですかそれ? 週休2日?」


契約書に書いてあったっけ? ちゃんと読んだつもりだったんだけど。


「契約には、休みは応相談と書いてありましたよね。マイスさんの働きぶりだと、休日を決めないとずっと働くと思ったので、わたくしとアオイで決めました。明日と明後日は休んでください」


「週休2日は、週に2日は、休みって事! 今日で働き始めて5日目なんだから、明日と明後日は休み! 来週もそうだよ! お休みは、いっぱい遊ぼうよ」


「そんなに休んだら申し訳ないですよ」


「ちゃんと休まないと、雇用主命令だってもっと休日を増やされるよ。アオイの事だから、週の半分をお休みにしちゃうかも」


「そ、それはちょっと……」


「でしょ、だからちゃんと休んで」


「分かりました」


急に休みが出来てどうして良いか分からないけど、とても嬉しい。みんなが僕を気遣ってくれてるのが分かる。ダン親方は優しくて休みをくれたけど、ギルド長が訪ねて来るから休めなかった。ギルド長は、休日じゃなくてもしょっちゅう訪ねて来たもんな。ここではそんな事ないから嬉しい。それに、夜もゆっくり休める。ここに来てからゆっくり休んでいるからか、良いものが作れてる気がする。新しい職場は、本当に天国だ。

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