気弱ドワーフと転生エルフの産業革命

みどり

第1話

「はあ……またクビになった」


僕はマイス。ドワーフだ。魔道具職人をしていたが、本日通算10回目のクビとなった。


「親方が引っ越すなら、しょうがないけどさ……」


一緒に行こうと誘って貰ったけど、見習い職人である僕は街を出るには職人ギルドの許可がいる。申請をしたが、却下されたのだ。親方は、街を出てしまえばどうにでもなるから一緒に行こうと誘ってくれた。けど、親がいない僕を雇ってくれたギルド長には逆らえないし、あと1年頑張れば特例で試験を受けさせてくれるって言われたから頑張る事にしたのだ。だって僕はまだ何も成していない。どうせなら、一人前の職人になって親方を追いかけたい。他の町に行ってしまえばまた見習いを最初からやり直しになってしまう。


同じ親方の下で2年見習いをすれば一人前の職人になれて、店が持てる。勿論技術試験はある。けど、毎年の試験内容はどれも出来る事ばかり。だから、試験さえ受けられれば一人前の職人になれる。


2年、同じ親方の下で働くだけで良いのに……いつもクビになる。そのせいで、15年以上職人をしているのに試験を受けられない。


どこで雇われても技術が不足しているから練習が必要だと言われて、色々な商品の開発をさせられる。色々作るんだけど、どの親方も僕の商品を気に入ってくれない。凄く売れた物もあるのに、駄目な所を指摘されて2年以内にクビになる。接客態度が悪いらしい。だから、言葉遣いに気を遣い丁寧な態度を心がけている。けど、どう頑張っても2年経たずにクビになるのだ。親が生きてればと、何度思ったか分からない。僕の両親は優秀な職人で、本当なら僕は両親に弟子入りする筈だった。けど、僕が見習いに入る日に両親は事故で他界した。借金が残り、絶望していた僕を職人ギルド長が拾ってくれて、両親の財産を整理して借金を返したけど、小さな作業場兼住宅しか残らなかった。それからはギルド長に職場を紹介して貰いなんとか食いつないでいる。


ダン親方は弟子がいなかったからか、今までの親方と違い僕を可愛がってくれたし、認めてくれた。ここでなら頑張れると思っていた。急に引っ越す事になるなんて残念過ぎる。


実は職人の才能がないならと、別の仕事をした事もある。けど酒場は2日でクビ、八百屋は3日でクビになり、雇ってくれるところがなくなった。


だから僕は職人をするしかない。職人ギルドなら仕事を紹介して貰えるからね。ものを作るのは好きだし、楽しいから天職だと思う。


けど、見習い期間は給料が安いからお金がないのがとてもツラい。職人の道具は自前だ。それなのに、僕は購入するお金が無くてギルド長からレンタルしている。親の残した道具があったはずなんだけど、葬儀が終わったら無くなっていたのだ。いい道具を使ってたし、誰かに盗まれたらしい。可哀想に思ったギルド長がレンタルしてくれてなんとか仕事をさせて貰えている。ありがたいし感謝しないといけないんだけど、レンタル料がとても高いんだ。少ない見習の給料が半分無くなる。だから暇を見つけては道具を自作している。自作の道具が揃い、もうすぐレンタル料を払わなくて良いと思うタイミングで大体仕事をクビになる。そしたらまた新しい道具が必要になる。だからいつもレンタル料を払っている状態だ。生活はいつもいっぱいいっぱい。ご飯代くらいしか稼ぎがない。親の残してくれた家があって良かったよ。


「今回はともかく、いつも何がいけないのかな……技術がまだ足りないとか?」


3回クビになった辺りで危機感を覚えて、今まで覚えた知識を駆使していろんな技術を開発した。それを披露すると最初は褒めちぎって貰えるのだが、やはりすぐにクビになる。


「でも、今回は親方が道具をくれて助かったなぁ。これで一通りの道具は揃ったからなんとかやっていけそうだよ」


いつもはクビだと追い出されるだけで、ひどい時は給料未払いなんて事もあったが、今回は親方が引っ越すからという事でのクビだ。正直、ここならクビにならずにやっていけるかもと思っていたからだいぶ落ち込んだ。だけど、退職金も貰えたし、道具は全部僕にくれた。まるで正式な職人のような扱いを見習いの僕にしてくれて、涙が出た。


「このお金は誰にも言わず隠しておいて、もし次の仕事が魔道具職人なら道具はしばらくレンタルを続けよう」


そうしないと、親方の評判に傷をつける。見習いに道具をあげるのは、一人前と認めた証だ。僕はまだ資格を満たしていないから本当は道具をあげては駄目なのだ。だから、一人前の職人になって堂々と親方からもらった道具を使うんだ。


「頑張ります、親方」


ダン親方は素晴らしい職人だ。技術は間違いなくトップクラス。今までの親方の中には僕に見せるなんて勿体無いと仕事を見せてくれない人も多かったけど、ダン親方は最初から最後まで隠さず全部見せてくれた。親方は僕を認めてくれて、一緒に魔道具を沢山作った。マジックバッグが出来た時は、親方と一晩中泣いた。だから、本当は親方について行きたかったけど……僕はまだ半人前だから迷惑をかける。ギルド長に言われたように、一人前になって、自分で独り立ち出来たら親方を追いかけようと思っている。居場所は聞いているしね。


親方にもらったものはお金も含めて作ったマジックバックに入れて隠しておく。見た目はボロい布袋だし、分からないだろう。親方はバッグの事は一人前になるまで職人ギルドに絶対言うなと言われた。売ろうとする時は必ず連絡するようにとも言われてる。マジックバッグは無限に荷物が入れられる。とても軽いし、結構便利な品だ。職人ギルドが知れば親方の引っ越しは邪魔された可能性がある。ギルド長、結構お金にがめついもんなぁ。


「さて、仕事を紹介してもらおう」


今度こそクビになりませんように。そう祈りながら、僕は職人ギルドのドアに手をかけた。

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