第2話 ダンジョンに置き去りにされて


 今日もダビデ街の冒険者ギルドには、朝から依頼を張り出されている掲示板の前に大勢の冒険者が集まり自分に合った依頼を探していた。


 そんな冒険者の4人のグループが依頼書を掲示板から剥がし受付で依頼の手続きを終えて、リーダのイケメンの男性が側にいる大柄で体格の良い男性に身振り手振りで何か指示をすると、指示された男性は頷き、沢山の荷物を背負い、手にも荷物を持って4人の冒険者グループの後を追って行ったのだ。


 4人の冒険者は男性3人、女性1人のグループでイケメンのリーダは剣士のソンダイ、女性は魔法使いのスブス、残りの男性は槍使ガルシ、斧使いのカバラだ。


 4人の冒険者グループは鷹の爪のパーティーで今、最も勢いのあるグループのA級冒険者で勇者候補なのだ。


 この国には勇者制度があり、勇者になると国から特別待遇されて支援金の他に宿代の無料や将来は貴族になる道もあるのです。


  リーダのソンダイが仲間に。


「今日はダンジョンの20階まで攻略して魔石を50以上持ち帰ればこの国で4番目の勇者に近づくから頑張ろうぜ」


魔法使いのスブスが。


「それにしても荷物運びの馬鹿は遅いわね。

まぁー、あれだけの重い荷物を1人で運んでいるから仕方ないけどね」


 斧使いのカバラが。


「ソンダイ、何であんな耳も聞こない話す事も出来な男を臨時とはいえ時々雇ってやるのだ」


「決まっているだろう、僕たちの評判を上げる為だよ。あんな誰も雇わない身障者を雇うと僕たちの評判が良くなるだろう。それに身軽になって魔獣と戦えるから一石二鳥だよ、アッハハ今日はダンジョンの中まで荷物運びをさせても良い許可をとったから楽だぜ」


 前を歩く4人がそんな事を話しているとは知らない荷物運びの男の名はトムと言い、18歳で身長が185cmのガッチリした体格で見た目は強い冒険者に見える。

 


 今日も荷物運びを頼まれて重い沢山の荷物を運び目的地のダンジョンの入り口に着き、荷物を下ろして帰ろうとするとリーダのソンダイが、手招きして身振り手振りで荷物を持って付いて来るように言ったのだ。


 トムは、冒険者証が無いのでダンジョンに入れないはずなのに何故かダンジョンの入り口にいる係員も知っているはずなのに止めないで中に入れたのだ。


 初めて入ったダンジョンの中は広い洞窟で少し歩くと洞窟の先には、驚く事に所々に小さな森のある草原が広がっていたのです。


 地下なのに地上と同じ光景に驚いてトムが立ち止まっていると、後ろからソンダイに押されて歩き始めた。


 草原には兎や1メータ位の動物が走り回り、孤児院の野菜畑で栽培している薬草が生えていてまるで楽園みたいだとトムは思ったのです。


 30分位歩くと下に降りる階段が現れて地下2階に降りると、1階と同じ景色だが2メータ位の灰色の狼10匹が長い牙を剥いて現れた。


 魔法使いのスブスが火の魔法で火の玉を作り狼に撃ち、他の3人の男性の冒険者が得意の武器でアッと言う間に狼を殺して全滅させると、不思議な事に狼は煙のように消えてしまい、後には魔石が残っていたのです。


 呆然として見ていたトムは、冒険者たちは強くて凄いと感心したのだ。



 地下3階も同じで狼が倍の20匹も出たが簡単に全滅させて地下5階には、猪の魔獣が5匹出て此れも全滅させて地下6階に降りるとそこは景色が変わり森で。



  青い鬼のような140cmくらいの角を生やしたゴブリンを見たのも初めてなので驚きの余り身体が硬直して逃げる事さえ忘れていたのです。


 冒険者たちはゴブリンと戦い10分位で全滅させてトムを見て、斧使いのカバラが。


「アイツ、阿保じゃないのか、ゴブリンが近くに来たのに逃げもしないで」


 それを聞いて他の冒険者も笑っていたのです。


 トムは逃げて帰りたかったが帰りかたを分からないので重い荷物を持たされて4人の後を付いて行き、地下10階まで来るとそこは、大きな洞窟で不気味な赤黒い花をウネウネと動かす植物が生えていた。


 トムは思い荷物を長い間、持ち歩き流石に疲れて歩くのが遅くなり、4人から大分離されて姿が見えなくなっていたので少し休憩しようとするとトムには聞こえないが冒険者が。



「何で10階にS級魔物のオーガキングが出るんだよ」


「あんな、化け物に勝てるはずないから早く逃げようぜ」


「うわー! 近づいて来たぞー 」


 トムは冒険者たちが物凄い早さで走ってくるのが見えたが、その後ろから巨大オーガキングの化け物が金棒を持って追いかけて来ていたのだ。




 トムは3メータ以上ある豚顔のオーガキングを見て恐ろしさの余り、小水を漏らして足がすくんで動けないでいた。


 斧使いのカバラが耳の聞こえないトムを怒鳴り。


「馬鹿―! お前も早く逃げろー」


 リーダの剣士ソンダイがニヤリとして。


「おい、そいつをオーガキングのエサにして食べている間に逃げようぜ」


 さっきはトムに逃げろと言ったカバラ、魔法使いのスブス、槍使ガルシも。


「ソンダイ頭良いわ、「流石リーダだ」」


 ソンダイが震えているトムを後ろから蹴り上げてオーガキングの前に押し出して。


「皆な今のうちに急いで逃げようぜ」


 トムをオーガキングのエサにして4人は脱兎のごとく逃げ去ったのだ。


 エサとしてオーガキングの前に押し出されたトムは、逃げようとしたが身体が動かずオーガキングの振り下ろした金棒を無意識で持っていた荷物で受けたのだ。


 腕が折れる音がして吹き飛ばされ、洞窟の壁に激突すると、洞窟の壁が崩れて洞窟の外に放り出された。


 エサの人間がいなくなったオーガキングが慌てて壁に行くと壁は元に戻りオーガキングは首を傾げていたのだ。


 洞窟の外は真っ暗な暗闇で身体が落下し始めてトムは、これで死ぬのだと思うと、今までの生きていた時の事が走馬灯のように流れて。


 此の世界に転生してからは何にも良い事のない短い人生で、これで楽になれると思ったのだ。


 トムは、最後に今度、産まれ変わるならもっとまともな人生を神様に願って意識を失ったのです。


 バァシャーンと言う音がして冷たさで気が付くと急流の川の中で目の前に滝が迫り滝に呑まれて又意識を失ったのだ。

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