第22話 恋のから騒ぎ

 言わずもがなヤンデレの友香子。

 何も分かってないのに生贄いけにえにされそうな寧音ちゃん。

 そして旦那がいるのにガチっぽい雰囲気で俺にコナ掛けてくる友香子ママ。


 胃が痛くなる女性陣の攻勢が始まった。


「不満ですか? 身内びいきですが、友香子も寧音も美人になると思いますよ?」

「そういう問題じゃねぇ!」

「ではスタイルですか? 友香子はDですし、私も――」

「言わんでよろしいッ!」

「Gですよ?」

「言わなくていいって言ったろうがァッ!」


 人妻相手に何かをするわけないだろ!?

 そもそも旦那さんいるじゃん! 中庭で吐血してたけども!


「駄目ですよ優斗さん。主も他人の奥さんに手を出しちゃ駄目って言ってます! 出すのが手じゃなくて股間に生えてるポークビッツでも駄目ですからね!? 小さくても猥褻物わいせつぶつは猥褻物です!」

「レリエル……お前マジで頭の中何が詰まってるの? 生クリーム?」

「やだなぁ脳みそに決まってるじゃないですかー」

「入ってるか疑わしいから確認していい?」

「駄目ですよ!? そもそも自分の頭の中なんて優斗さんだって確認したことないでしょ!?」


 駄目だ、このぽんこつマジでろくなこと言わねぇ……。

 はぁ、と溜息を吐いたところでサキさんからアシストが入る。


「とりあえず今日のところは保留でいかがでしょう?」

「保留って……」

「厳正なる審査を行いますので少々お待ち下さい。なお、当選通知は発表をもって代えさせていただきますというやつです」

「懸賞かよ!?」

「優斗さん……この状況をまともに切り抜ける方法なんてあるとお思いですか?」


 マジな顔で言われてしまえば、確かにその通りではある。


「と、とりあえず持ち帰って検討しても良いですか……?」

「まぁ、検討のために三人ともお持ち帰りなんて、大胆ですのね?」

「そういう意味じゃねぇぇぇぇぇッ!!!」


 友香子ママの提案に脳の血管がキレそうになるが、サキさんが間に入ってしてくれた。

 いやまぁ執り成すというか、諦める方向で説得するつもりっぽいけども。


「えっと、優斗さんすぐ怒鳴りますし情緒不安定ですけど本当に良いんですか?」

「大丈夫です。夫よりずっと理知的なので」

「じゃあしょうがないですね」


 キリッとした表情で言い切った友香子ママ。

 その傍にいる娘二人も普通にうなずいている辺りお父さんの扱いが可哀想な気もしないでもないけど、まぁ話通じない系の人だったし仕方ないだろう。

 っていうかサキさん、じゃあしょうがないですね、じゃないんだよ。完全に俺がディスられ損じゃないですか。

 再び大きな溜息を吐いたところで、野点のだて会場に怒声が響き渡った。


「き、貴様ー! 友香子だけでは飽き足らず寧音と志保にまで!」


 復活したらしい友香子パパである。


「お父さんうるさーい」

「あなた、お客様に向かって失礼だわ」

「すぐ怒鳴るお父さんなんて大っ嫌い」


 血縁を感じさせる冷徹な三重奏によって友香子パパはがっくりと地面に膝をついた。

 いやもう少し優しくしてやれよ。さっき血を吐いたばっかだろ。


「ぐっ……ここで折れては娘たちの貞操と妻の豊満なワガママボディを守れない……! 変態高校生に我が家をNTRハーレムなんぞにされてたまるかッ!」


 何とか吐血せずに踏みとどまったようだけども前言撤回。

 さっさとトドメ刺してやれ。

 俺の祈りが通じたのか、友香子ママが立ち上がる。


「白神さん、大変申し訳ないんですけども」


 言いながら、控えていた組員から乗馬鞭みたいなのを受けとった友香子ママが素振りをする。その後ろでは友香子が匕首を鞘から抜いていたし、寧音ちゃんもどこから持ってきたのか金属バットを手に持って微笑んでいる。


「夫のしつけがありますので、私や娘たちを堪能たんのうするのは少々お待ちいただいても?」

「……ハイ」


 待つも何も、そんな機会は永遠に訪れなくて良いです。






 再び客間に戻された俺たちを待っていたのはおばあさんだった。

 ずっとそこでお茶飲んでたんですか……?


「どうじゃった? ヤったか!?」

「やるわけねぇだろッ! っていうか何で全員がそういうテンションなんだよ!?」

「なんじゃつまらん……友香子を押し付け――ごほん。友香子もまんざらではなかったというに」


 オッケー、目的がはっきりした。

 多分だけど、友香子は元々メンヘラ気質なのだ。

 それを知っていたおばあさんは俺に全てを押し付けようとした、といったところだろう。想定外だったのはスキルとトラウマのせいで友香子が完全にキマってたことくらいだろうか。身内のおばあさんが違和感を覚えなかったレベルなので、元からだいぶエクストリームだった気もするけど。


「友香子は良い肉付きをしておるぞー?」

「何で身内を積極的に売ろうとするんですかね。この家の伝統芸能か何かですか?」

「優斗さん!? 伝統能だなんて! レリエルちゃんが許しても神が御赦おゆるしになりませんよ! 主も同性愛は駄目だよーって言ってますからね!」

「そんなフランクな発言する神様いねぇだろ」


 ジト目になるけれども、レリエルはいつも通りどこ吹く風である。


「優斗さん、暇です! 何か芸をして楽しませてください! 股間に装備されているカンシャク玉以外の方法で」

「やかましい! どこかの王様かお前は!?」

「レリエルちゃんは女性なのであっても女王様ですー! もう! こんなに可愛いレリエルちゃんを見て性別すらわからないとは……実は両刀ですね?」


 とりあえず無視する。

 サキさんはそしらぬ顔でスマホを操作している。真面目な表情なので何かしらの仕事をしてるんだろうな。

 そして友達の寧音ちゃん待ちということでるりもここにいる。


「るり、そういやイワシの頭とかファブリーズはどうした?」

「買ってあるよ?」


 そう言って自らのプールバッグを指差す。


「……あそこに入れたのか?」

「うん。持ってるの面倒だったから」

「……イワシも?」

「うん。ちょっと変な匂いしてきたから」

「腐るだろうがッ!?」


 水着とかプールタオルに匂いついたら大変だぞ!?


「優斗さん、別に食べる訳じゃないのになんで……あっ」

「分からないけど碌でもない発言なのは予想着くから黙ろうな?」

「何ですか失礼なー! るりさんの着用した水着のお汁を吸わせたイワシを――」

「だから黙れって言ってるだろ!? そもそもイワシは汁を吸わねぇよ!」


 どっちかっていうと腐って汁が出てくるだろうが!


「そうですよね。汁を吸うのは優斗さんですもんね」

「えっ……お兄ちゃん本当にやめた方が良いよ? 気持ち悪いから」

冤罪えんざいすぎる……!」


 ナチュラルにるりが敵に回るの本当に辛い。

 とはいえ、ここは一応グッジョブと言わざるを得ないだろう。何しろ、俺たちには予定ができたのだ。イワシが腐る前に家に帰るという目的が。


「おばあさん、ナマモノを持ってるので今日のところはこれで失礼しても良いですか?」

「んー? ええんじゃないかの? 友香子たちにはうまく言っておくよ」


 うまく、の意味合いがそこはかとなく不安ではあるけども、言質げんちも取れたことだし帰ろう。

 おばあさんの命で蒲生さんが再び車を出してくれることになり、俺たちはなんとか獄門組を脱出することができたのだった。


「お嬢が寂しがりやすね……急ぎの用事で?」

「はい! そりゃもう! イワシが腐る前に帰らないと!」

「お兄ちゃん何でイキイキしてるの……?」

「やっぱりるりちゃんの水着についたお汁を……」

「……お嬢とは、少し距離を置いていただけやすか……?」


 誤解だよッ!

 誤解だけど友香子に狙われなくなるなら別に悔しくもなんともないよチキショウ!!!



 Result――158Combo!

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