5.フォローするもの

 彼女によび出しは毎日ある。朝食と夕食、夜食を頼まれることが多い。

 二人分。

 きっと相方の分だろうから疑問に思うことなくコンビニ、ケータリングの注文と受け取り。


 一応年頃の女性だからカロリーを気にして頼むところがあり、どうしてもサラダだけとかの注文になってしまう。だがしかし、他の栄養素だって大切だ。


 無理に炭水化物とたんぱく質を入れたサラダにしたり気を配った。

 だんだんと任される仕事も増えてきた。前職に比べたら、責任が軽くて働きやすい。

 まぁ、最低賃金だから贅沢はできないし、これから先に不安もあるが推しの安全と健康を守ると思えば悔いはない。

 ダンススタジオに呼び出しもあるし、事務所に呼び出しも多い。

「ありがとう」

「助かります」

「お手数をかけますが2人前お願いします」



 必ずありがとうとごめんなさいとお手数かけますという彼女にますます推しという感情が湧き上がる。


 ☆☆

 あゆみの内心は案腹黒い考えがあった。


 (質問コーナーの内容ってっほぼ嘘なんだなぁ。

 純粋な人そうで助かった。

 あとは評判を書くサクラの仕事お願いしなくっちゃね?)

「いつもありがとうございます」


 あとは彼を掲示板に向かわせるだけ!

 私たちの評判上げてねくれるかな。


「あのね。もしよかったらなんだけど、曲の感想とか、ユニットの練習風景とか見てSNSで発信できる言葉があったらマネージャーと相談して書いてほしいんだけど……可能でしょうか」

「お、お任せください」

 さっそく彼はスマホに書き付けている。

「マネージャーさんに許可とってみますね」

「いつもありがとうぅ」

 さて、SNSを見てみるとさっそく公式SNSの欄にコメントがついていた。


『西川あゆみ可愛いしめちゃくちゃ礼儀正しいいい子だよ。

 歌マジうまい。

 ファンの男女とも仲良くするんだぜ』


 きっとこれ彼の呟きだわ。

 ナイスです!

 もうもうもうもう、超いい子。


 でも、契約1年で解約する携帯だし、事務所通しての契約だし。

 メールも文字媒体で残るものもやり取りはなしだから。ちょっともったいないことしているなぁとは思う。

 計画を変更するわけにもいかない。

 1度はひやりとしたなぁ。

 彼氏を見られてしまうなんて。

 一生の不覚だわ。


 使い君にストーカーかもしれないと情報を渡していたものだから胡乱な目で見てくる。

(ごめんね。彼氏)

「なんすかこのひと?」

「あぁ。ごめんなさい。その方はよく来てくださるファンの方なの。仲良くしてください」

 にっこり。


 危ない危ない。

 彼氏持ちってばれるとこだったなぁ。


 それが使い君を使う事務所との約束なの。


 使い君をマネージャーのもとに向かわせている間、なつと2人だけになる。


 ガチャン。


 誰も来ないスタジオの1室。鍵をかけてユニット2人だけの会話だ。

「彼の元の勤め先、システムエンジニアの中企業って」

「いい企業入っていたのに。あんたのためにやめて芸能関係入ったんだよ。滅茶苦茶愛されてるじゃん」

「愛されるのは彼氏だけで十分だよ」

 恋する乙女は1人だけを見ていたいようだ。

「かわいそうに思うなら夏海が雇ってあげればいいじゃん」

「そうしたらあんた刺されるよ」

「それは困るなぁ」

 まだ、夏海の相方は決まっていない。



「世間は厳しいってこと知らなくっちゃね!」

 これはどちらの呟きか。

 ☆☆


 衝撃の告白から1か月。まだまだあゆみのラブラブモードは衰えない。


「はぁぁぁ? ついに私服まで変わって来てるんですけれど?」


 相方の夏海はキレ気味だ。


「どうすんの? これからじゃん! お互いにメンバーカラー決めたでしょ? 何黒に染まってんのよ!!」


 あゆはかわいい系がテーマであるからして、淡いピンクや白などが多かったはずなのに、彼女に私服は黒色になっている。


 これではゴスロリにも見えてくる。


「そうなんだけど、好きなんだもん」

「ありえないでしょ」

「1度やってみたかったのっ」

「マネージャー。どう思います?」

「うん。ありえないわね」

 相棒とも、マネージャーとも喧嘩。

 当たり前か。こんなの理解されるわけないもんね。


「あんたにはがっかりだよ。

 かわりを探すからそれまで禁止してくれればそれでいい」

 今まで笑いあって頑張ってきた戦友の目にも侮蔑の色が浮かんでいた。


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