第二十話:可憐な皇女様と悪役皇女

 私はむすっとしていた。それはもうすごいむすっとして腕を組んでいた。


 なんでかって?! 簡単よ!

 目の前で甘ったるい雰囲気がこっちまできて口から砂糖を吐きそうだからよ!

 なーにが、「ありがとう、アミラ。いつも好きだ」よ!

 ゲームではアミラお姉様を邪険にしてたくせに!


 私はこれ以上いたら鼻からも砂糖が吹き出そうだったのでバルコニーに出た。


「ふぅ……」


 騎士団長クラヴィエ子爵家の長男の二十歳の誕生日でもあったので、それはもう盛大だった。特にセドリックお兄様はパスカルさんがお酒を飲める年齢になって嬉しいのか、パスカルさんにはもう絡みまくって酒をたくさん飲ませていた。

 だからだろうか、いつもは出さないキザなセリフをバンバン、アミラお姉様に出したり甘ったるいラブラブな雰囲気を出しまくっていた!


 私はそれを思い出して、思わずバルコニーの柱を握りつぶしてしまう。


 なによこれ、脆いわね……。


「マリーお姉様。それは我が修理いたします」

「そう? よろしく」


 いつの間にかアルは身長をさらに十センチほど伸ばし一人称も我になっていた。ただ、それだけで終わらず、もう一人私の傍にいた。


 舎弟一号兼親衛隊特別隊員を背中に書いてある騎士鎧をしたスティード君だ……。


「ふん。じゃ、それやっといてよ、アル。あとは僕がマリーお姉ちゃん警護するから、それ終わったら帰ってもいいよ? その身体じゃ邪魔だし」


 アルは歯をギリギリ立てながら血走った。


「今日はパスカルさんの誕生日会よ?」

「すみませぬ! マリーお姉様!」

「ごめんなさい! マリーお姉ちゃん!」


 二人はすぐに腰を曲げて謝罪してきた。


 言葉としておかしいけど、頭痛が痛いになってきてるわよ……。


「「フンッ!」」


 二人はいつから仲が悪くなったかわからないが、顔を合わせる度に口喧嘩をする。


 昔はもっと仲が良かったはずよね?

 どういうことよ……。




 あなたのせいです。




 ◆◇◆




 第三皇女、アミラ・ド・パロメスの独白


 パスカル様……。


「はぁ……」

「どうされましたか? アミラお嬢様」

「いいえ、なんでも……ないわ」


 頬に手を当てながらパスカル様がいるだろう方向を見る。


「はぁ……」


 侍女は何も言わず私にミーちゃんを抱えてきた。


「あら、ありがとう」

「にゃぁぁ」


 猫を撫でると目を細めて、私の手に頭を擦り付けてくる。


 本当可愛い……。

 昔は魔物なんて、怖くて汚らしいと思っていた自分が恥ずかしいわ……。




 私はマリーの助言通り、子猫の魔物を連れてパスカル様に会いにいった。


 パスカル様は私を無下にせず、いつもと同じようにニッコリと素敵な笑みで向かい入れてくれた。

 パスカル様に連れられて湖畔を歩いていると、ふと胸が苦しくなってくる。


「パスカル様……」

「どうしたんだい? アミラ」


 パスカル様は心配するような表情で私の頭を撫でる。


 あぁ、パスカル様、パスカル様!


 ギュッといきなり抱きついた私に、パスカル様は優しく受け止めてくれた。


 パスカル様は苦笑しながら私の肩を抱いた。私は目を瞑り……。



 その時、湖から頭を出し目をバッキバキにしながら見ていたマリ……ゴホンッ、寵愛の子にして魔を統べる鮮血姫が、見ていたことに彼らは気づいていなかった……。




 ◆◇◆




 私は悲しさと怒りにみちていた。相反する二つに襲われ、私は雷を放出しながら怒髪、天を衝く。


 なぜなら私に兄弟以外で、いい雰囲気になれそうな男子がいないからよ!

 なぜよ! なぜ! うがぁぁ!!


 ハッ!

 つ、つい天に雷を放ってしまったわ……。


「ふっ、マリー様も天を堕とすおつもりか?」


 ウ、ウィルが相変わらず某患者になっているが無視よ、無視。


 私は深呼吸をして遠い目をする。


「あなたはどう思う?」

「ふっ、天は天です。それ以外でもなんでもない。しかし……あの忌々しい勇者がかのハルフ王国に……出てきたそうです」


 勇者……? 勇者!


 私はピンッときた!


 そうよ! まだ勇者がいたわ!

 凛々しく優しい勇者ならきっと私と……むふふ。


 私はニヤリとウィルに笑いかけると、ウィルが嗤い返してきた。


「承知しました……マリー様」


 さっすが私の臣下ね! さっそく王国に脅迫もとい話をつけて婚約してやるわ!



 まるで悪役皇女みたいなことしますね。

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