第十七話:親衛隊


 昔のなんとか、かんとか……ま、まぁなんでもいいわ。その別名、勇者が作ったというバレンタインの日。

 同級生の女の子からたくさんのチョコをもらった。前世と同じ女性から男性へ渡すはずの日なんだが……なぜか私はたくさん渡された。


 謎だったけど、無下にするのもあれだったのでパクパク食べていると。


「私、マリー様の舎弟になります!」


 いきなり教室の扉が乱暴に開けられたかと思えば、ゲーム主人公であるアリーヌさんが大声でそんなことを叫んだ。


 え、な、何?

 なんか目がぐるぐる渦を巻いてて怖いんですけど。


 わけのわからない状況に困っていると、舎弟一号のハチマキをしたスティード君が乱入してきた。


「不穏な気配を感じて、舎弟一号参りました!」


 ……ちょ、ちょっとなんでスティード君まで来たの?


「む?」

「ん?」


 アリーヌさんはスティード君の言葉に目をきっと吊り上げた。


「マリー様の舎弟は私です!」

「なにおぉぉ! 俺は一号だぞ! なめてるのか!」


 スティード君は誇らしげに自分の頭につけてるハチマキを誇らしげに指差す。


「く、くぅ……」


 アリーヌはそのハチマキを見て羨ましそうに唸った。


 いや、そういうことじゃないでしょ。

 あと……スティード君、それ恥ずかしいから、いい加減外しなさい……。


 教室がザワザワし始め、止めようと席を立とうとしたその時、ガバっとサンドラちゃんが席を勢いよく立った。


 サ、サンドラちゃん!


「ふん! 何が舎弟ですか!」


 そうよ! もっと言ってやりなさい!

 さっすが、私の取り巻きね!


「私はマリー様、親衛隊会員一号よ!」


 え、えぇ……なにそれ。


「「し、親衛隊!? ぐぅ……」」


 二人はサンドラの言葉にぐうの音も出ない。

 いや、実際にぐぅって言ってるがそれは置いといて。


 親衛隊って何よ!


 サンドラちゃんの言葉に私が涙目になりそうになっていると、二人がサンドラちゃんにグッと近づいた。


「「加入します!」」


 違うでしょう!


「ふっ。親衛隊は生半可になれる者じゃないですわよ? わかっていますか?」

「「もちろん!」」

「ふぅ、いくら私と同じ伯爵家だろうと、帝国騎士団団長の子でも資格がなければ入れませんわよ!」


 し、資格って何よ。


 私は手で顔を覆った。


「「問題ありません!」」

「いいでしょう……午後、資格試験を行いますので、またいらしてください」


 よくないわよ! 何、勝手に進めてるの!


 唖然としている私を他所に、二人は教室から出て行き、サンドラちゃんが髪をかき上げた。


「マリー様親衛隊隊長の私を倒せるかしらね……ふふふ」


 私は意識から彼女たちを消した。

 決して現実逃避じゃないわよ! 決して!


 いえ、現実逃避です。


 後日、親衛隊特別隊員のハチマキをしたアリーヌさんと、舎弟一号兼親衛隊特別隊員のハチマキをしたスティード君が教室に来たが、無視した。




 ◆◇◆




 アリーヌ・ルネルの独白


「お母さん! 山菜取ってくる!」

「最近魔物の被害がなくなったけど、気をつけてね!」

「はーい!」


 私は帝都にあるパン屋の子ただのアリーヌ!

 お母さんは時折、なんか身なりがものすんごい高そうな男性と歩いているのを見るけど、気のせいだと思う!

 だってお母さんのパンは美味しくて評判が高いもん!


「ふん、ふん!」


 木の枝を振り回して、茂みを進んでいるとギャアギャアと聞こえてきた。


 む!? ま、魔物!?


「オレ、マリー様ノ一番」

「違ウ! 俺コソマリー様ノ一番」

「フザ、ケルナ! マリー様ハ神様!」


 私がアワアワしていると魔物たちが私に気づいて振り向いた。魔物たちの筋肉はすごく私は驚いて尻餅をついてしまう。


「オイ。人間、コノ中デ誰ガ一番、マリー様ノ一番ダ?!」

「俺ニ決マッテル!」

「マリー様は神様!」

「フザケルナ!」


 私はどうすればいいかわからず、困っていると。


「行きなさい」


 美しい声が聞こえてきた。

 その言葉に魔物たちより強靭な大きなオーガたちが数十体現れて魔物たちのみぞおちを殴っていく。


「あわあわ!」


 魔物たちは顔という顔からいろんな汁を出しているのを見てしまい、私は余計にパニックになった。

 すると遠くからとても美しく……神々しい女性が更に大きなオーガと魔人を連れて現れた。


「コレハ、ドウ、サレマスカ?」


 その神々しい女性は私を見て、目を瞑ったかと思うと魔人に目線をやる。


「ウィル」


 近くで聞く声はまるで天上の神様のようでその先からは意識が消えそうになった。

 私は自分の心臓の音がうるさく響き……神々しい女性と目線があった瞬間! 私の体に電流が走り、私は走って逃げてしまった。

 家に帰るとお母さんが、どこかで見たことある貴族の人と楽しそうにしていたが、無視をして自室に入る!

 ベッドに潜り込んで呼吸を落ち着かせようとしても心臓がバクバクして止まらない。


 あ、あれが噂の寵愛の子マリー様に違いないわ! なんて美しさ!


 私は何日経っても惚けているとお母さんから「今日から伯爵家に戻ります」って言われた気がするが、そんなことは大事じゃない!

 私はもう一度、もう一度だけでもマリー様をお目にかかりたいことだけを考え、悶々とした日々を過ごした。


 もぐもぐといつものようにお母さんの美味しいパンを食べてると、いつの間にか豪華なお屋敷でご飯を食べていることに気づいた!


 ど、どこ!?


 私がキョロキョロしていると、お母さんが見たこともない綺麗なドレス姿で私に話しかける。


「あなたと第七皇子との婚約が決まりました。なんでも病弱でずっと出てこれなかっ……」


 ど、どういうこと? なんで婚約?

 ……ハッ!


 お母さんが話している途中、私の身体にまたしても電流が流れた。


 マリー様は第六皇女で一個上で学園に通っているんだった!


「私も学園に通える!?」

「うん? もちろんよ」


 お母さんの横にはちょいちょい見かけた貴族の人が苦笑していたが、そんなことは重要じゃない!


「やったー!」


 学園に通えることに私は喜んだ。喜んだ私は婚約相手の第七皇子のことなんて、頭からすっぽり消えていた。




 入学当日。


「ふん。あなたが伯爵家のアリーヌ・ルネルですの?」


 二つの美味しそうな金色のロールパンをつけた女の子に呼び出されたかと思えば、いきなりそんなことを言われた。


「そうです……が?」


 その女の子はキッと睨んでくるが背が小さく、可愛らしい上目遣いにしか見えない。思わずその子の頭をなでると「ふわぁ……」と言って顔が蕩けた。


 可愛い。


「やめなさい!」


 女の子は強い言葉で私の手を思いっきり跳ね除けると思いきや、優しい手つきでどかした。


「私はスオヴァネン伯爵の娘エルサ! あなたと違って由緒正しいお家ですの!」


 何が言いたいかよくわからなく頭を傾けると、女の子がなぜか目をうるうるし始めた。


「わ、私はスオヴァネン伯爵の娘エルサ……」


 なぜかまた同じことを言ったのでもう一度頭を撫でると再び「ふわぁ……」と言ってだらしない顔になった。


「やめなさい!」


 やっぱり優しい手つきで私の手を離す。


「あなたが絶世の美少年である第七皇子アルフレッド様の婚約者なんて、許さないですの!」

「婚約者?」

「そうですの! あなたは今まで美味しいパン屋で働き、まともに勉強してこなかったのに……ずるいですの! うぅ……」


 貶したいのか褒めたいのかよくわからず、とりあえず頭を撫でると、女の子が美味しそうなロールパンを靡かせて走りさった。


「なんだったんだろう? まぁ、可愛かったし、いいか!」


 私は顔をパンパンッと叩いて教室に戻った。




 入学者代表として婚約者だというアルフレッド様が何か言っていたが、私の頭はそこになかった。

 遠くにいるというのにマリー様のオーラはとても神々しくそちらにずっと意識が向かっていた。


 いつのまにかアルフレッド様のお言葉が終わると、マリー様が率先して拍手したので私もいっぱい拍手をした!


 帰り際、朝絡んできた女の子が精一杯背伸びして、悲しい表情で私の肩を叩いてきたけど、どうしたんだろう?

 よくわからなかったので頭を撫でて家に帰った。


「学園はどうだった? アリーヌ」

「マリー様が素晴らしかったです!」

「はぁ、じゃなくて婚約者のアルフレッド様のことよ……まったく、この子は」


 お母さんがため息をするとその横にいた貴族の男性が苦笑した。

 私はよくわからず頭を傾けた。


 翌日、学園にいって女の子と友達になった。口調はたまに悪くなるが、すごい優しい子で貴族としての礼儀や所作も教えてくれた!


 可愛い上にこんないい子に私は思わず何度も頭を撫でてしまった。


 教室でナデナデすると、他にも大商人の子やら大貴族様の同級生もやってきてみんなでエルサちゃんの頭を撫でて楽しんだ。


 ちょっとエルサちゃんが怒っていたけど可愛いから大丈夫だ!




 翌日のお昼、アルフレッド様の護衛だという屈強な騎士からご夕食アルフレッド様と正式に会うことになると言われた。

 私はエルサちゃんも連れて行こうとしたが、半泣きになってたからやめた。


 なんでだろう?


 アルフレッド様とご夕食を食べていると特別にアルと呼んでもいいと言われるようになった。


 次のご夕食も一緒に食べたいと言われたので、エルサちゃんを騙して三人で美味しいご飯を食べた。

 次の日エルサちゃんがご冠になってたので、謝罪として美味しいロールパンをあげたらすぐに機嫌が治った。


 アルはよくマリー様のお話をされる。マリー様は素晴らしいと、何度も言うので私も何度も力強く頷いた。アルは私を見て「さすがだ!」と言ってくれる。


 今日はアルからマリー様の美しさを教えてもらった。



 今日もアルからマリー様の気高さを知る



 今日もマリー様の高潔な一面をご教授いただいた。




 やはり、マリー様は天から参られた女神様だ!




 私は学園につくと、いの一番に女神マリー様がおられる教室へ向かう。エルサちゃんが「やめなさい!」と言って引っ張ってきたので、頭を撫でて隙ができた瞬間走った!


 ガラガラっと思いっきり教室のドアを開けて。


「私、マリー様の舎弟になります!」


 マリー様の頬が少し動いたと思いますが気のせいですね!

 マリー様は素晴らしいんですから!

 私もアルと一緒にマリー様の覇王道を作り上げます!



 あなたもですか。

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