第十四話:聖印


 ほげぇぇ。


 別に鯨の鳴き声じゃありませんよ? 目の前の神殿に圧倒されて驚いただけよ!

 もっとこう、こじんまりとした地味なのをイメージしていたのに荘厳だったから!

 断じて鳴き声じゃありません!



 大事なことなので二度言いました!



「ふん。ここまで来たことを褒めてやろう帝国の子たちよ」


 そんな私の目線の先には白い服に無駄にゴテゴテしい首飾りをした太った男性がこちらを見下ろしている。


 なんであの人、柱の上に立ってるの?

 馬鹿なの?


 太った男性は五メートル近い柱の上で仁王立ちになっていた。額には玉の汗をかいていて、とても頑張って登ったんだろうとわかる。


「しょ、しょせんは領地が大きいだけの国」


 その隣の柱にはこれまた同じ首飾りをつけている男性が、青白い顔をしながら柱の上からおどおどしながら放った。


 いや、意味わからないんですけど、あなた大丈夫?

 すっごい足をプルプル振るわせてるけど。


「ふぅ……くくく。はぁ……我らに怖気づいて言葉も出ぬか……」


 更に隣の柱にはザ・普通の顔をした男性が荒い呼吸を何度も繰り返しながら、柱の上で意味ありげに言った。


「お前たち……なんで柱の上にいんの?」


 ジャックが珍しく普通にツッコミを入れた。


「そんなこともわからぬか!」


 一番奥の更に高い柱の上には多分、教皇だろう人がいた。

 一眼でわかった。頭の上には一メートルぐらいの長い帽子を被っていたからだ。


 見るからに重そうで登った疲れと、帽子のせいで全身びっしょりと汗をかいている。

 少しして聖騎士たちが現れ、すわっ戦いか! と思いきや梯子を柱にかけて彼ら四人は柱からそそくさと降りてきた。


「よくぞ、参った。で、用件はなんだ?」


 いや、説明しないんかい!


「あなたたちが招待状を差し出してきたからですよ」


 私が心の中でツッコミをしているのを他所に、ジェレミーが招待状を教皇に渡した。


「なんぞ? こんな内容書いた覚えなどないが?」


 うん?


 教皇は頭を捻っていると他の三人も後ろから招待状を覗く。


「最近は魔物の被害もなくなって、むしろ喜ばしいことだが?」

「しかり、信徒の子らも笑顔に溢れている」

「うむ、そもそもこんな挑発めいた物を送って戦争でもしたら可愛い信徒が傷付いたら元もこうもないだろう」


 ど、どういうことよ。


 ジャックは飽きたのかイラリアを連れて神殿の中を歩き回る。

 それと別にジェレミーは真剣な眼差しを教皇に向けた。


「しかしこの紋章、神聖国の物では?」

「そうだが……お主ら枢機卿の者でこのような内容で出した物はおるか?」


 教皇は後ろの三人に顔を向けるが、全員頭を左右に振って知らないと言う。


「どういうことですか?」

「それは我らが聞きたい。そもそも修道女エレナ・マイの報告ではお主ら帝国は、魔物をぎょしているのだろう? ゆえに我らの地からも魔物を連れて行って欲しいという内容で書状を出したが? むっ?!」


 教皇が何かに気づくと、懐から虫眼鏡みたいな物を取り出した。


「おい、お主ら」

「どうされましたか? 教皇様」

「見てみろ」


 教皇は後ろの枢機卿だという男性たちにも見せると、次第に彼らの眉間に皺が寄っていく。


「帝国の子よ。見てみるが良い」


 教皇が取り出した虫眼鏡を通して神聖国の紋章を見ると違和感を発見する。

 実際に見た封蝋の色と虫眼鏡を通すと多少の差異があった。


「これは……私たちも封蝋の色や質は必ず確認させているはずですが」

「これは太古から使っている特別な魔道具の一つだからな。帝国がわからなかったのもしょうがない」


 教皇は眉間を揉みながら続ける。


「ここまで酷似できるのは魔導機械を有しているハルフ王国だろうな」


 こ、ここでその名前が出てくるのか……。


 説明しよう!

 ハルフ王国は第三皇妃ヴァネッサの出身地であるアングル公爵家と血みどろの殺し合いをしまくってるところだ!

 どちらも脳筋すぎて頭がイカれてるのは内緒だぞ!



「おそらくだが、書状が書き換えられたのはハルフ王国から出てきた勇者の仕業だろ。普段のあの国ならこんなことせんからな」


 勇者?


「勇者とは?」


 私が秘技を使う前にジェレミーが質問してくれた。


「あぁ、寵愛の子が生まれた翌年に誕生したという者だよ。全く頭が痛くなるが、脳筋の中で頭脳も優れてるせいで勇者と呼ばれてる。こっちは不戦の合意をハルフ王国と結んでいるのに、虎視眈々とこっちも狙ってきてな……。そのせいで聖騎士たちも殺気立ってる」


 なるほど、だから城門付近で聖騎士たちがあんなにも抜き身の剣を持っていたのね。


「何が面白いのか、そちらの帝国の公爵も勇者を血祭りに上げたいのか、仲間に引き入れたいのか、更に力を増しているし……はぁ」


 教皇は眉間に手を当ててため息をした。


「が、寵愛の子が来てくれて助かったとも思ってる」

「何がでしょうか?」

「最近、近隣の森からの魔物の被害はパタリと止んだのはいいが、海の魔物の勢いが強くなってな……」


 教皇は顔を上げて私を力強く見る。


「もしそなたがどうにかしてくれるなら……ヴァラブレル神聖国はそなたらに聖なる刻印を与えてもよいと思っている」


 聖なる刻印? なにそれ、初耳ね。ゲームにあったかしら?


 私が疑問に思っていると枢機卿の人たちが息を飲んだ。


「き、教皇様。今、聖印と聞こえましたが……」

「あぁ、神は平等に全てを愛しておる。ゆえに魔物を従えていようとも愛し子だ」

「ですが……」


 ザ・普通の枢機卿が何か言う前に教皇は眉間に皺を寄せた。


「何か言いたいことでもあるのか? 修道女エレナ・マイの報告書通りなら寵愛の子が言った通り、神は魔物を消していない理由も……然りだ」

「……わかりました」


 ちょ、ちょっと一方的に話を進めないで欲しいんですけど……。

 その前に聖なる刻印? 聖印が何か教えてくれませんか?

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