「僕」とモノと読者を繋ぐ、白い糸のエンゲージメント

読み終えて今、胸が一杯になっています。

主人公の服部朔君は、『無機物』の魂を自分に憑依させ、そこに刻まれた記憶に触れることができる「共感応」という能力を持っています。
無機物に魂とは、というと『付喪神』をご想像頂くと腑に落ちるかと思います。ものに宿った思いを読み取る――自らの心と重ねることで。
そうして読み取ることで、怪異を紐解き解決に導いていきます。

しかしモノに魂が宿る程の思いとは、往々にして人と関わる強い思念でもあります。お話は主人公・服部朔君の一人称視点ですので、憑依をさせたその思念のイメージは読者にとっても強い共感の念を引き起こし、物語に惹き込まれます。

章ごとに怪異のエピソードが分かれていて、その解決が明瞭です。そして回を追うごとに、登場人物も深掘りされていくヒューマンドラマとしての側面もあります。
登場人物達は皆魅力的ですが、特に主人公の相棒的存在とも言える「幽霊のカイコさん」が、とてもチャーミングです。頼りになる存在でありながら、現世のサブカルにも精通していてその趣向には思わずくすりとしてしまう。
随所に現れる名古屋飯にも思わず涎を垂らしてしまいました。

ここまで書いて胸の整理がつき、ようやく懐古ができそうです。
あっという間、と感じさせる読書でした。ぜひお手に取ってご覧ください。

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