第8話 商業ギルド

「王都の建物はどれも立派だな」


 門番に教えてもらった道を進んでいく馬車の中から外を眺めていたら、思わず声が出てしまった。

 まるで異世界に来たみたいだ。

 ダンジョンで賑わっていたはずのラグザットがド田舎に思えてしまう。

 もう比べ物にならない。

 それこそ冒険者ギルドなんてラグザットの領主の屋敷ぐらいありそうだ。

 

「予定通り商業ギルドへと向かいますね?」

「頼んだ」

 

 俺が都会に圧倒されかけてるのに対して、モアは落ち着いてるな。

 モアも王都は初めてのはずなんだが。

 

 俺もその落ち着きが欲しい。

 しかし、見るもの全てが目新しくて落ち着いていられないのも事実。


 何よりも目を引くのは王城だろう。

 その天辺から王都の全てが見渡せそうだ。

 間違いなく、俺が今まで見た事のある建物の中で一番大きい。

 そして、一番綺麗な建物だ。


 あんな場所に住んでいる人ってどんな気持ちなんだろうか。

 俺みたいな人間は一生行くことはないから分からないな。

 

 ぼーっと王城を眺めていたら、馬車がゆっくりと停まった。


「ご主人様、着きました」

「よし、行くか」

 

 荷物を持っていそいそと馬車から降りる。

 

「ここが商業ギルドですね」

「ほへぇ」

 

 商業ギルドの建物もでっかいな。

 変な声が出るくらいに。


「入りましょうか」

「あ、ああ、そうだな」


 相変わらず、モアは動じないらしい。

 しかし、俺も惚けてもいられない。

 ここで店を開く許可を得られるかどうかに俺らの今後が関わってくるのだ。


「……入らないの?」

「ご主人様の後ろから入りますよ」


 俺が先に入れってことかな?

 よし、モアにばかり任せてもいられないしな。店を開くのは俺なのだ。

 意を決してギルド内へと足を踏み入れた。


 広いホールに受付のカウンター。

 中身はラグザットの商業ギルドとあまり変わらない。

 少し広いぐらいか。

 いや、あそこよりもっと綺麗だし、人も多いな。

 

「ようこそ商業ギルドまでおいでくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか」


 綺麗な女の人に声を掛けられた。

 商業ギルドの人だろう。この人が案内してくれるのかね。

 

「あの、王都で店を開きたいと思っていまして」

「店をですか?」


 俺みたいな若造が急に王都で店を開きたいなんて言ったから驚いてるのだろうか。


「お客様は商業ギルドでの登録はお済みでしょうか?」


 登録証のことか。

 商売をするには商業ギルドでの登録が必要不可欠。

 それなら問題ない。

 俺はラグザットで人形を売っていたから登録は済んであるのだ。


「これで大丈夫ですかね」

 

 商業ギルドの登録証を差し出す。

 

「失礼しました! こちらの窓口までお願いします!」

「は、はい」


 案内さんの後ろについていく。モアも俺の後ろから着いてきていた。

 さっき俺の登録証を見て驚いてたみたいだが。

 何か変なところでもあったか?

 

「どうしたのかな?」

「ご主人様の名前を見て驚いたのだと思います」

「名前?」


 そこまで珍しい名前じゃないと思うけどな。

 モアなりの冗談?

 

「そちらにお座りください」

 

 案内さんが受付に座って受付さんになっていた。

 そういうシステムだろうか。言われた通り、モアと並んで座る。


「確認ですが、あなたはラグザットの人形職人アング様ですか?」


 ん?

 一応、ラグザットで人形を作っていたし、人形職人だし、アングだけど。

 まるで俺のことを知っていたみたいな聞き方だ。

 

「一応、アングではありますけど」


 それだけは間違いない。

 俺がそう答えた瞬間、彼女の表情は劇的に変わった。

 

「ようやく王都に来てくださったのですね! 少々お待ちください、ただいまギルドマスターへお伝えしてきます!」

「えっ? あ、ちょっと?」


 そして、喜色満面でパタパタとどこかへ走っていってしまった。

 ギルドマスターがどうとか聞こえたんだが。


「ねえ、俺なにかやっちゃったのかな?」


 確実に俺のことを前から知っていたみたいだし。

 俺がしたことと言えば、ラグザットで人形を売っていたぐらいだ。

 

「ご主人様は……商業ギルドから王都で人形を作らないか、と誘われていたのです」

「え!? なんで!?」

「ご主人様の人形です」

「俺の人形?」


「はい。ご主人様の人形が貴族の方々に気に入られたらしく、とても高い金額で取引されているのです」

 

 俺が王都へ誘われていた?

 初耳も初耳だ。

 高い金額で取引されてたってのも知らないんだけど。

 今までお金は冒険者ギルドのパーティ資金に振り込んでもらっていたからか?


「それは、いつから?」

「一年ほど前からでしょうか」

 

 それならば、先ほどの受付の反応も理解できる。

 

「マジなの?」

「マジです」


 マジかぁ。

 と言うことは、俺って商業ギルドの招待を一年も無視してたことになるのか。


 しかし疑問は残る。

 なんで俺はギルドの招待を知らなかったんだ?

 招待があれば、遅かれ早かれ俺に話が来るはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る