第3話 魔動人形の案

「問題はどこに店を開くか、だが」


 正直、どこでも良いというのが本音だ。

 俺は人形を作れたらそれが一番だからな。それに、モアと一緒ならどこでもやっていけそうである。

 

「どこか候補はあるのですか?」

「いや、特にないかな。残念ながら俺はまだ人形職人として無名もいいところだし、どこでも頑張るとしか言えないな」


 店を開くには商業ギルドの許可が必要である。

 一等地なんかは俺が有名な人形職人にでもならない限り、大金を払わなければ紹介してもらえないだろう。そして俺にはそんな金はない。

 適当な場所でも良い人形を作っていたらいつかは買いに来てくれるはずだ。

 

「それでしたら、私に案があります」

「聞かせてくれ」

 

 やはり彼女は頼もしい。

 何も考えていない俺などとは違うらしい。

 そしてモアは至って真剣に話し始めた。

 

「王都はどうでしょうか?」

「えっ? 王都?」


 おかしい。

 俺の聞き間違いでなければ、今モアが王都とか言ってた気がするんだが。

 

「はい、王都で人形屋を開きましょう」


 聞き間違いじゃなかった。

 

「今、王都が特別に人形職人を欲してたりするのかな?」


 王様が生粋の人形マニアだったり。


「いえ、特にそういったお話は聞きませんね」

「うーん?」


 尚更わからない。

 彼女の意見に間違いはないと思うが。

 今回のこれはあまりにも突拍子がなさすぎる。

 だって王都だぞ?

 俺も王都で店を開ければそれが一番だと思うが、ギルドが無名の人形職人に許可するか?

 いや、しないだろう。

 仮に店を開けたとしても、王都なんていうただでさえ競争率の高そうな場所に俺みたいな弱小人形職人が店を建てようものなら、三日ともたないんじゃないだろうか。


「流石に無理じゃないかな。」

 

 いきなり王都は流石に、な。

 

「ご主人様なら大丈夫です。私を信じてください」

「ええ?」


 そうは言ってもなぁ。

 だが、モアがここまで言うのだ。

 何か理由があるのだろう。

 絶対に無理だと思うが、モアが言うと信じたくなってしまう。

 

「まあ、君がそこまで言うってことは、それなりの確証があるんだよね?」

「はい、ご主人様なら必ず、王都で店を構えることが出来るでしょう」


 なんだか悪い人に騙されてる気分だ。

 しかし、無理なら無理で別の場所へ行けばいいのだ。

 差し当たっての目標は王都に行って人形屋を開くことになった。

 そして人形を作りながらモアと二人で、人形屋を営みつつのんびりと生活する。


 ただ、問題が1つある。

 

「この馬車がどこに向かっているのか分からないんだよなぁ」

「そういえばそうでしたね」


 まあ、何とかなるだろう。

 仮に反対に向かっていたら、折り返しにもう一度乗ればいいのだ。

 

「適当に乗る馬車は選ぶもんじゃないなぁ」

「馬車代もただじゃないんですよ?」

「すいません」


 何も考えずに馬車へ乗りこんだ俺が馬鹿でした。

 けど、王都へ向かうことになるなんて思ってもいなかったからな。適当に乗った馬車で素晴らしい出会いとかあるかもしれないし?

 ほら、さっきのおじさんなんて良い人っぽかったしね。再会した彼が俺にご飯を奢ってくれる可能性だってあるのだ。

 それだけでこの馬車に乗った価値があるんじゃなかろうか。

 

「ご主人様、折り返しの馬車がなかったら宿を取らないとですね?」

「うっ」


 目的地によっては、一日の馬車がこれで終わりなんていうのもある。

 

「宿、あるといいですね」

「うぐ」

 

 やめてくれぇ。

 馬車の外に目を移すと、どんどんと山道を進んでいるように見える。

 本当にどこに向かっているんだろうか、この馬車は。

 

「一先ず、目的地は御者さんに聞いてみるか」

「それが良いですね」


 乗客が目的地を知らなかったなんて、御者さんも驚きだろう。

 

「すいませ――おっと」


 俺が口を開きかけたとき、馬車が馬の嘶きとともに動きを止めた。

 なんだ?

 外はまだ明るいし、馬の休憩にはまだ早いだろう。

 それにこの感じは……。

 

「ご主人様、囲まれてます」


 モアの言葉に意識が切り替わる。

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