君想う穹。
巴 都
第1話
カチ、カチ、カチ。卓上の目覚まし時計は一定のリズムを保ってその役目を果たしている。シャーペンを握りノートに向かう3時間は、なぜかいつもあっという間に過ぎてしまうのだ。
「問2、ケアレスミスしてる」
パキッ。芯が折れた。
程よい距離、手を伸ばせば触れることも可能なのにそれは許されないからと自制する。
消しゴムで答えを消して、改めて問の答えを練る。
「さっきやった基礎集の問題の応用、なんて言うか発想を変えればいける」
黙々と問題を解いていき、区切りのいいところで背筋を伸ばすと、隣からはふぅと吐息が聞こえた。黒縁のメガネを外して、目を擦るその仕草を見ながら、黒猫が顔を洗うようだと錯覚する。
メガネを外しているのなら見えないはずと、声を殺してあくびをすると、こら。と、それだけ聞こえてきたので慌てて姿勢を正す。
「
メガネを掛け直して言う。
「
「ダメだよ寝ないと、精神衛生上良くないから日中の生活にも悪影響が出る」
「若いうちだけなんでしょ、夜中まで起きていられるの。なら、今しか出来ないじゃん」
パラパラ。参考書を開くそのゴツゴツした手、その手を掴みたくて一瞬、ピクリと手が動く。
私たちは真逆で、でも同じで。
机に突っ伏してペンを回すと、また隣から、こら。と聞こえるがそれを無視する。毎週会えるとはいえ、今週、つまり今日、残された時間はあと28分。
「
机に顔を伏せたまま問いかける。
「そりゃ自分が行きたくて入ったところだし当たり前に楽しいんじゃない?」
「なんで疑問形なの」
「捉え方は人それぞれだから」
淡々としている、そんな口調も。高くもなく低くもない、どちらかと言えば男性的で、言うなれば男性的な部類のうちのハイトーンな声も。
4カ月前と変わらない、何も。変わって欲しいのはこの距離感なのに、その距離は縮まることはなく、一定を保つ時計の針のよう。短針と長針は重なり合うことが出来るのにと、時計にジェラシーを抱く私はきっとおかしい。
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