第33話 サワギキョウ

「悠里!」


「香里奈!」


ボブになった髪と目の下のホクロ(ペンで書いた)。街中ですれ違ったぐらいでは香里奈だと判断がつかない。


「糸原先生も久しぶり」


「うん。月葵、えっーじゃなくて香里奈」


改めて言うと、香里奈は現在糸原月葵という偽名で生活している。糸原は月葵を守るために鈴木先生の家で過ごしてもらっていた。


「鈴木先生は帰ったのか?」


「うん。気になっている様子だったけど糸原先生の指示だからって」


「おけ」


鈴木先生に帰ってもらったのは念の為だった。鈴木先生も実は【香里奈の売春の件に関与している】


・・・・


糸原は、後ろの座席に悠里と月葵を乗せると車を出発させた。


「えーっとじゃ香里奈は、今は月葵っていう偽名で生活してるってこと?」


「うん。今の私の名前は糸原月葵」


「まぁそういうことだ。さて少しだけ急ぐぞ」


糸原はアクセルを踏んでスピードをあげる。


「先生、どこに向かうんですか?」


「本社」


「「えっ?」」


今夜、石崎香里奈の売春事件は解決する。


・・・・


「着いたぞ」


糸原は後ろに並んで寝ている月葵と石井を起こす。時間は夜の25時になっていた。


「ここは」


車をおりると目の前にはビルが建っていた。石井と月葵はビルを見上げる。


「電気が着いてるな。おそらく【あいつ】がいるんだろうな」


「誰ですか?」


「石井は一度出会っているかな。月葵は初対面だけど、その人は月葵のことをよく理解している。一応味方になってくれる人だよ。僕は嫌いだけど」


エレベーターに乗って糸原は2階のボタンを3回、3階のボタンを2回押した。そうすると階層選択ボタンの点灯が消えてエレベーターが動き出す。


エレベーターは2階と3階の間に止まった。石井と月葵は、謎の構造に驚きながらもエレベーターを降りる。暗闇の向こうにぼんやりと光が見える。糸原は声をかけた。


「久しぶり、宿題やってるのか?」


「もうとっくに終わってますよ、い・と・は・ら・せ・ん・せ・い」


石井と月葵は驚いてしまう。しかし二人の驚いた理由が違った。


月葵は、その人が自身と同じぐらいの歳だったことに驚いた。


石井は、その人が知っている人だから驚いた。


「勉強、教えてあげようか?」


「処分された先生になんか教えられたくない」


「辞職だけどな。やること終わったから辞めたんだよ」


2人は言い合いになりそうになるが、それを見つめる月葵と石井に気付き冷静さを取り戻す。その人はニコリと笑って挨拶をした。


「月葵、いや香里奈さん、初めまして。そして悠里さん、久しぶりです」


その男、井上水流だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る