第30話 オトギリソウ
糸原は石井が加害者側に関与している確証が持てないまま3月を迎えた。12月までだった処分(貼り紙の件)を、生徒たちの想いで3月まで引き伸ばしてもらった。
3月の終業式の日。糸原は一人一人の目をしっかりと見る。
「以前伝えたように、私は香里奈さんの事件を解決するために学校に来ました。今後先生をやることはありません」
一年の期間は糸原の計画であった。しかし、完全に解決するには少しだけ足りなかった。でも大丈夫。残った課題は【頼れる人にお願いしてある】
「糸原先生は学校を辞めたらどうするんですか?」
石井が代表して聞いてくる。糸原は思い出すかのようにニコリと笑った。
「私は香里奈さんを探し続けます」
生徒たちは皆立ち上がる。そして皆頭を下げた。
「よろしくお願いします。絶対香里奈を見つけてください」
・・・・
「本当に良かったんですか?そもそも処分なんて出ていなかったのに」
放課後の職員室。隣に座る鈴木先生に話しかけられる。実は処分は注意程度で、辞めるまでには至っていなかった。
「いいんです。生徒をこれ以上危険に巻き込む訳にも行かないので」
鈴木先生も同様、危険に巻き込む訳にはいかない。鈴木先生は、校長や金森が売春に関与している事実を知っており、香里奈に直接会っている。糸原の次に危険なのは鈴木先生だ。
「糸原先生、辞めても連絡してくださいね」
「はい。勿論です」
糸原は申し訳ないと思いつつ笑顔で返答する。鈴木先生には助けられたが、今後連絡するつもりは全く無い。
当初の計画よりも少し伸びたが、今日の夜、石崎香里奈の件は解決する。
・・・・・
夜8時、糸原は荷物を抱えて学校を出た。香里奈の件で学校に来たが、先生という職も楽しかったと感じる。
「先生」
校門にいた生徒に話しかけられる。
「なんでこんな時間までいるんだ」
「別れが悲しいからです」
その生徒は石井だった。【石井が加害者側では無い可能性を信じていたかった】。
「最後に先生に話したいことがあります」
石井にも時間がない。石井に過ちを犯させる訳にはいかなかった。糸原は最終手段に出ることにした。
・・・・
「腰にしまっているナイフを出しなさい」
糸原は、水流とは違い、事実から行動に移していく。決して推測や直感では行動しなかった。
しかし、直感能力こそ糸原の得意分野であった。自身でも恐ろしい程に当たる。過去に一度だけ推測を謝り、大切な女の子を失った。それから糸原は推測で行動するのを辞めた。
推測や直感と言っても相手の心理に触れなければ能力は発揮されない。例として名前から試合の勝利を予測することなどはできない。
「なんでバレてるの?」
糸原の推測。相手の目線、人間の心理、何かを持っている手から浮かび上がる血管。そこから予測される重み。形状。
「しっかり【2つ】な」
石井は諦めて2つのナイフを出した。
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